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「河野さん!俺のとうちゃんだよ!」
瑛太は嬉々として、広務の片腕を引っ張り、河野と呼ばれた美容師に紹介する。もしかして、父親を見せびらかすのが嬉しいのだろうか。父親がおらず瑛太に寂しい思いをさせてきたことに、今さらながらに心が痛んだ。
「ああ、お噂はかねがね……。ご再婚おめでとうございます」
「ちげーし!本当の!俺の、本当のとうちゃんなんだってば!」
「瑛太の実の父親です。いつも瑛太がお世話になって」
香子の再婚相手に間違われ、少々気まずい思いをする。しかし気を取り直して挨拶すると、河野は平謝りに謝ってきた。慌てて下がる頭を上げさせ、瑛太を引き取ることになった経緯を簡単に説明した。
「じゃあ瑛太くんと二人暮らしになるんですか」
「ええ、まあ」
「そっかあ。お父さんと一緒で嬉しいね、瑛太くん」
「うん!」
元気よく返事する瑛太を見て、瑛太が自分と暮らすことをこんなにも喜んでいることを初めて知る。あまりに素直に喜ぶのを見て、驚いた。
「じゃあとうちゃん、帰っていいよ」
「は?」
「みんなに紹介したからもう帰っていいよ。俺、五時まで遊んで帰るから」
「は!?」
素直な反応を示す瑛太を可愛いと思い始めていたところ、突然用済みとばかりに帰宅を命じられる。
その手のひら返しぶりに、あ然として突っ立っていると、瑛太は「とうちゃんお金払っといてね」と言い捨て、子供達で団子になってさっさと二階へ上がってしまった。
「あはは。元気ですね」
「あ、はい」
なんだよ、俺はお前のサイフか!?と、内心憤りながら、財布を取り出しレジへ向かう。キッズメニューは二千円と言われ、仕方なくサイフの役目を果たしていると、河野が同情したかのような複雑な笑みを浮かべていた。
「学校で前髪は目に入らないようにと決まっているので、前髪の短さに合わせてカットしてもよろしいですか?」
「はい。もう何でもいいです」
なんなら丸刈りにしてもらってもいい。あんな小生意気なボウズに美容院なんて百万年早い。
河野の手前、不機嫌を最低限隠し、会計を済ませ店を出た。歩道に出た瞬間、春風が勢いよく吹いた。
「わっ」
思いっきり顔面に風を受け、反射でキュッと目を瞑る。
「葛岡さん?」
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