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広務に対しては横柄な態度を取る瑛太だが、初めての相手に対してはそれなりの警戒心を発動するらしい。気持ち広務の陰に隠れつ、椎名のことを窺っている。
「瑛太?」
「クズオカエイタデス」
十倍速再生かとツッコみたくなるスピードでの自己紹介。広務でさえ「なんて?」と聞き直したくなる。しかし椎名は平然と笑み、目線を瑛太に揃えるよう腰をおった。
「葛岡瑛太くん?」
「はい……」
懐かない野良猫のような瑛太に、大型ワンコは人を懐柔するような笑みを向けた。
「僕はお父さんと同じ会社の、椎名真楠 です。いつもお父さんにはお世話になってます」
子供相手に慇懃に頭を下げる椎名に対し、瑛太の警戒心は脆くも崩れかけたようで、瑛太は一歩広務の陰から前に踏み出した。
「シーナ・マックス?外人?」
「ぷはっ!純日本人だよ。マックスじゃなく、ま・く・す!漢字で真楠だよ」
椎名のどこをどう見たら外国人に見えるというのか。とにかく椎名が生粋の日本人だとわかると、瑛太の興味は失せてしまったようで、改めて広務に向き直った。
「俺、五時に帰るからね!とうちゃんも絶対五時までに帰っててよ!じゃないと、ブッコロだから」
「ブッコロ……?なにそれ」
「ブッコロス、ってことだよ!じゃな!」
じゃな、じゃねーし。そんなことでいちいちぶっ殺されてたら、命がいくつあっても足りやしない。
小学生男子のあほさに呆れつつ、店の中に戻っていく小さな背中を見送る。
「かわいいですね」
「はぁ!?」
椎名の口から飛び出した「かわいい」という言葉に耳を疑う。アレのどこがかわいいのか。
自分はまあ血の繋がった親だから、健やかな寝顔や、たまに──ほんとのほんとの本当にたまーーーに見せる健気な一瞬に心絆されることもあるが、アカの他人から見て、あの瑛太のどこがかわいいと思うのか。
「俺、下に弟が三人いて、一番下がまだ中学生なんです。共働きの母親にかわって、ちび達の世話したりして……。懐かしいなあ」
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