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エピソード1『コイツの目見てると変な気分にならねえ?』
血の主―Blood master ―【レイチェル過去編①】
[Incubusシリーズ]
著者 ニコ
表紙イラスト NEOZONE
発行 ニコドロップ文庫
※このお話はフィクションです。ご了承の上お楽しみ下さいませ。
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◇血の主―Blood master ―【レイチェル過去編①】
エピソード1『コイツの目見てると変な気分にならねえ?』
その男はレイチェルの人生を変えた。
その男は唯一の憎むべき存在。
オマエだけは赦さない。
オマエなんか灰になってしまえばいい――ッ!
◇◇◇
人型の魔族は生誕後、百年制の魔法学校に通うのが習わしである。
だが、上級吸血鬼と下級淫魔の間に生まれた禁忌の子供レイチェル・サーシャは、繁殖期でもないのに母親の腹の中から赤子の姿で産まれるという異例の出生のせいで魔法学校に通い始めるのは三年後となる。
三歳を迎えてようやく少年の姿にまで成長したレイチェルは、魔法学校の入学式当日に出逢った獣族ラズとすぐに親しくなり自由奔放な学校生活を謳歌する。
魔法学校入学より前に癒やしの泉で上級悪魔ゼアス・サイファと出逢い一目惚れし、北の魔女から聞いた『恋のオマジナイ 』を信じ、ひたすら唇を死守する百年間となったのは余談である。
――――このお話は、レイチェルが魔法学校卒業を間近に控えた選択科目での出来事である。
魔法学校百年生にもなると、自らの属性に合った授業を選択する機会が増えてくる。
それは後に、専門のスクールに進学するための予習の時間でもあった。
人間なら十七歳くらいの外見にようやく成長したレイチェルは、選択科目は迷うことなく『吸血鬼 』を選んだ。
由緒正しい吸血鬼の家系であるサーシャ家の嫡男としては当然の選択だった。
そして、吸血鬼 ばかりが集まる吸血鬼クラスでレイチェルは初めて劣等感を抱くこととなる。
レイチェルは自分の席を確かめて席に着いた。
吸血鬼クラスは知らない顔ばかりだった。
思えば、仲良くしている子たちはみんな獣族ばかりだったのだとこの時に気づく。
異様なまでに誰もが一様に同じ彩を纏い、同じような闇を思わせる空気を纏っていた。
黒髪に金の瞳。
レイチェルだけ。レイチェルだけが、蒼い髪と蒼い瞳をしていた。
思わずゴクリと息を呑んだ。
(なんか、もしかしてオレ、場違いなんじゃ……)
「……なんか毛色の違うのが一匹紛れこんでんな? お前クラス間違えてないか?」
決して好意的とは言えない声の響きにハッと顔を上げた。
「わ、なんかアオイ。目もアオイぜ。なんで~?」
「それにチビだしっ! かんわい~っ」
誰かが声を立てるなり、ドヤドヤと集まった数名に机の周りを囲まれて、興味本位に囃し立てられて覗き込まれる。
「――――ッ!」
(レオンもこんな思いをしたのかな?)
『宜しいですか、レイチェル様。レオン様は貴方と同じ通常とは異なる色彩を纏っておられましたが、それでも大変な努力をなさって立派な上級吸血鬼になられましたよ。そのお父上に貴方はそっくりなのです。何ら恥じることはございません。半分とはいえれっきとした貴族としての誇りを持って、顔を上げて胸をお張りなさい!』
教育係のシャザールの喝が聞こえた気がした。
「……ッ」
レイチェルはぎゅっと唇を噛みしめる。
力が湧いてくる気がした。
繁殖期外のこの時期の魔法学校には、レイチェル以外の貴族はいない。
ここにいるのは吸血鬼とはいえ、下級吸血鬼。
主から仲間にしてもらったか、木の股から生まれた吸血鬼。
いわばナンチャッテ吸血鬼だ。
(オレをバカにするほどのタマかよ。ふざけんな!)
レイチェルは拳を握りしめ、ガタンッ! と椅子を鳴らして立ち上がる。
そして、力いっぱい睨み返して声を張り上げた。
「オレが何色だろうとオマエらにカンケーあんのか。うるせーんだよっ!」
(残念ながらオレは、見かけほど可愛らしくできてない)
襟足が肩くらいのサラサラの蒼髪。やや大きめの澄んだ瞳に長い睫毛。
白い滑らかな肌に、まだ少年から抜けきらない華奢な身体つき。
(チビだからって舐められたら終わりだ。最初が肝心ってラズも言ってた!)
獣族のチーム『ラピスラズリ』の陰のリーダーであるラズ。
ネコミミ小柄なカワイイ見た目に油断していたら一瞬で地面を舐めることになる。
とんでもない強さの彼はレイチェルの親友だ。
『レイチェル、選択科目は一緒にいられないから心配だな。なんかあったら言うんだよ? 俺たちがついてるからね?』
心配そうに覗き込んだ群青ネコの顔を思い出して勇気が出た。
「舐めてんじゃねーぞ!」
強い眼差しでそう啖呵をきると一同は怯んだように顔を見合わせた。
「へえ? 生意気じゃん」
「すぐ泣くかと思ったのに」
(誰が泣くか。かかってこい。コッチが泣かせてやる。オレは負けないっ!)
勝ち気な瞳に力を込めて自分よりも大きな彼らを睨み上げた。
だが、これからケンカが始まるのかと身構えるレイチェルにかけられた言葉は意外なものだった。
「……なあ、コイツの目見てると変な気分にならねえ?」
(……ん?)
ニヤニヤ笑うひとりに他が同調する。
「お前もかよ。実は俺もっ!」
「ああ、思い出したっ! コイツ、レイチェルじゃん。淫魔と吸血鬼の混血 の!」
ドキンとした。
「淫魔って誰とでもヤるんだろ?」
「でも精気吸われるんだろ? 怖いって!」
「いや。それがよ、淫魔ってすげー具合がイイらしいぜ?」
「マジかよ! へえ~?」
クスクスと笑い声、下卑た視線。
レイチェルは目を見開いた。
この頃のレイチェルは、まだ食欲に目覚めて間もなくて。
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2023.10.2
ニコ
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