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Ⅰ 総理帰国①

日本国 第99代内閣総理大臣 益城省吾が帰国した。 腐敗した国政を正すべく行った苛烈な改革が、国民の血税で甘い汁を吸う奸臣(かんしん)の反感を買い、いわれなき罪に陥れられた彼は、秘密警察JSPに逮捕。 三権分立を侵し、仕組まれた裁判による国家反逆罪確定と死刑判決を受ける前に脱走。海外に亡命した。 あれから五年 彼は祖国の土を踏んだ。 益城省吾の正義は絶大だ。 彼の人気も。国政の闇にメスを入れ、正しい改革を断行した彼を支持しない国民はいない。 総理賞賛の嵐が吹く。 政府専用機が乗りつけたタラップから、空に向けて。 ウオォォオオオー!! 歓喜の怒号が駆け上る。 スーツの上に羽織ったロングコートが、風に棚引いた。 指が頬に触れた。 顔を覆う黒い仮面に。 仮面の下の顔を俺は知らない。 国民の誰もが彼の素顔を知らない。 国のため政府に巣食う悪意の闇と戦う彼は、常に反対勢力から命を狙われている。 日本国 第99代内閣総理大臣は、全てのパーソナルデータを消した。 己が素顔さえも。 それが、彼の命を守る唯一の術なのだ。

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