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シンパシー-sympathy-5

「お待たせしました。」 声が掛かり、我に帰る。 こちらお釣りと、大人3名様分のチケットですね。」 手を出し受け取り、お釣りを財布へ入れる。 「あの、私カメラマンをしているんですけど本日分撮影したものをSNS等に使用しても大丈夫ですか?」 財布から名刺を1枚取り出して、相手に差し出す。 受付の女性は受け取った名刺を見た後に俺の顔を下から伺う。 すると今度はにっこりと微笑んで、大丈夫ですと答えてくれた。 「名刺ありがとうございます。どうぞ、館内をお楽しみ下さい。」 そう言ってお辞儀する彼女を後に、彼らの元へと俺は戻る。 風が時折強く吹くのは、この場所が海から近いからだろうか。すんと鼻で息を吸えば、潮の香りがふんわりと口内に広がる。良い香りでも無いそれが俺にキラキラと小さく輝くアイディアを閃かせる。 「minaさん。」 2人の前に立ってすぐ、俺は彼を呼ぶ。 「は、はい?」 「髪の毛、今日は結ってもらえませんか?」 当然の如く、良いですよと手元の小さな鞄の中からヘアゴムを取り出して1つに纏めて高めの位置に結う。エクステなのか地毛なのかは分からないが、細く長い髪の毛はminaさんにとても似合っている。 樹矢と並んだ画を見て、更に女性らしさが増したminaさんは魅力さも当然増した。 「良いですね。ありがとうございます。」 minaさんはにっこりと首を傾げて笑う。 「よし、撮影しましょうか。」 動画の撮影用のカメラを構えた俺は、二人の背後に回る。 あくまでも裏方なのは俺で、二人の魅力を引き出すのも俺。腕の見せ所だ。 空から、地上へとカメラを下ろす。 行き着いた先は郊外にある港が近い水族館。 二人の男女が入り口に向かって歩みを進め始めた。

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