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変化-henka-1
「朱ちゃん。髪伸びたねー」
「んー?そうか?」
視界に入る黒い影を指で払い除ける。樹矢は俺の襟足を指先で触り、梳かす。
広いリビングに隣に並んでソファでくつろぐ俺達はこれが日常。
「しばらくカットしてないでしょ?」
「忙しかったからな……。まぁ、樹矢みたいに誰が気にするわけでもねぇし」
「俺は気になるよ?朱ちゃん好きだからね!」
大きな薄い掌で頭を包み込み軽く撫でる。
頬にチュっとキスをする。
「じゃあ明日、時間作って行くかな……」
樹矢が気になっている事に無意識に気になる俺は、早速予定を入れようと携帯で予約を取ろうとした。
「あ、待って待って!俺の行きつけの美容室紹介してあげる!」
俺の携帯を持つ腕をまぁまぁと降ろして立ち上がり、自分の鞄から携帯を取り出した。
「読者モデルの頃からお世話になっててね。良い人だし腕もセンスも抜群なんだよ」
電話帳を開いて名前を探しているんだろう、「えーっと……」と携帯を操作する。
「あった!メッセージ送っとくねー」
再びソファに腰掛ければ、俺の肩に重さを感じた。
「おもっ……」
樹矢のさらさらの髪の毛が頬を擽る。
手元の細かい振動が、メッセージの受け取りを知らせる。開くと樹矢から、番号だけが記されている。
「その番号に時間と名前だけ送れば予約できるからね」
「店は何処?」
「あぁ。これ、名刺あるから渡しとくね」
受け取った小さな紙切れの名前を見る。
『中瀬 しおん』
他に店名とメールアドレスが書かれているそれは今まで貰ってきた名刺の数々の中で、とてもシンプルで可愛らしさ満載の淡いピンク色の花が舞っていた。
イメージする。おしゃれで可愛い雰囲気の女性を……。
「さんきゅ。連絡してみるよ」
「うん!どういたしまして」
俺はメッセージで明日、予約したい旨を伝えた。するとすぐに返信が来てとても丁寧な文章で対応をしてくれた。
「どんな人だろう」
内心、楽しみに心を弾ませてその日を終えた。
―――
「よし、行くかー」
家でずっとレタッチ作業をした後、昨日予約した時間が刻々と迫っていた。樹矢は朝から撮影のため家には一人。
ササッと作業デスクの上を片付けて、髪の毛をカットするだけの用なため、軽装で家を出る。
車に乗り、ナビに向かう店名を打ち込み出た地図は、此処からそんなに距離は離れていなかった。
発信して程なく到着したその美容室は、外観は白く、ガラス張りで中が見える一階とその上に大きく作られた店名のロゴが打ち付けられた二階建ての建物だ。
早速、透明な少し重厚感のある扉を押して中に入れば、受付に立っている男性が俺を見てニッコリと「いらっしゃいませ」と言う。
「あの、中瀬さんに直接予約を入れさせて頂いてた須藤といいますけど……」
挨拶した俺の名前を聞いて、「あぁ!」と待っていたと言わんばかりの大きなリアクションをされる。
「お待ちしておりました。さぁ、二階へ。どうぞごゆっくり」
そう腕を伸ばして手で向けた先は、螺旋階段。二階へと繋がる道筋だ。
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