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『……朱ちゃん?ねぇ、朱ちゃん、聞こえてる?』 「……ん?ん。あ、あぁ。ごめん、なんだっけ?」 『もーう。ぼーっとしちゃってー』  珍しく長電話をしている朱斗と樹矢。  何時もなら二人きりの時間をのんびり過ごしているリビングには、朱斗が独りぽつんとソファに寝転んでいて、樹矢の姿は無い。 「で、いつ帰ってくんの」  樹矢に繋がっている携帯を見ることなく、朱斗は天井をただ見つめる。 『最近、雨が続いてて中々撮影がうまく進まないんだよね。もしかしたら最初に決めてた予定よりもこのままだと延びるかも』  スピーカーから発する樹矢の声がリビングにやたらと響く。  独りになるだけで、こんなにも孤独感に襲われるんだと朱斗は感じた。普段は孤独なんて感じないほど、樹矢と一緒に過ごしていたという事実と共に。 『あーぁ。寂しいな。早く朱ちゃんを抱きしめて眠りたいし、朱ちゃんの手料理も恋しいし、一緒にお風呂も入りたいのに!』 「仕方ないよ。仕事だし」 『そうだね。仕事だと仕方ないよね。今は電話で我慢するよ』  本職はモデルの樹矢は今、たまにくるドラマ出演のオファーを受けた。特別出演やゲスト出演ばかりだったのに、今回は違う。毎話出てくる、ドラマの中でも要になる登場人物らしく、いわゆる俳優業を頑張っている。しかも、メインの撮影場所が都内じゃないから地方へと出向いていた。 「んじゃ、もう寝るわ」 『え!寝ちゃうの!早くない!?』  チラリと見た携帯の画面の時計は21時。  何時もなら樹矢の撮影が終わってもいない。 「俺も、明日朝早くから撮影あるから」 『……そっ、か。朱ちゃんも忙しいよね』 「樹矢も早く寝ろよ。あと、セリフ覚え頑張れ」 『うん。ありがと。また、空き時間に連絡するね』 「おう。じゃ、おやすみ」 『おやすみなさい。大好きな朱ちゃん』  プッ。と電話が切れ、部屋が静かになる。  目を閉じれば窓の外に降る雨の音が聞こえる。 「空は繋がってるってなんだよ。その空すらずっと見えねぇじゃねぇかよ」  そんな屁理屈をボヤいてしまう。 「あーぁー」  そんなことを思う自分が嫌になる。 『空が見えなくても心で繋がってるもんねー!』  樹矢にそう言って、自分自身のネジ曲がった考えを受け入れて欲しかった……のに、その彼は近くに居ない。 「くそっ、どんどん荒んでいく……」  朱斗は自身がもっと嫌になった。  こうやって会わない日が続くと嫌な自分がどんどんと出てくる。相手に対しての嫌味な考え、屁理屈な思考、会えないイライラ。  どれもこれも嫌いになる。  そして、こんな朱斗のどれもこれも受け入れて欲しいって樹矢を求め思う。 「早く、帰ってこい……」  その日、朱斗は珍しくソファでそのまま眠りについた。

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