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「すみません。突然話しかけて」 「いえ、そんな……」  やっと結埜の顔を見れた朱斗だが、目が合ったと思えばすぐにまた視線を外す。 「須藤さんに今回初めて撮ってもらいましたけど、良い写真ばかりが出来上がっていて嬉しいです」  結埜はそう言いながらモニターに映し出されているデータを見る。  俳優の『結埜』は、スラッとした体型だ。さすがの俳優を仕事にしているだけあって整った日本人らしい顔立ちで瞳は大きい。 「結埜さんがどこを切り取っても絵になるからですよ。写り方……というか撮られ方を分かっていますよね。さすが、俳優さん」  すると結埜は朱斗の方へ振り返り、少し微笑んだ。 「そりゃあ、もう三十路だからね。カッコよくしとかないとさ、今の若い子からはすーぐおじさん扱いだから」  冗談交じりに笑いながら話す結埜の目元にできた笑い皺を見て、朱斗は樹矢の笑った顔を重ねた。 (樹…矢…)  寂しいと素直に言えない性格の朱斗はその代わりとして恋人の名前を心の中で呟く。 「でも、須藤さんの腕がやっぱり良いんだよ。こんなにどの写真も良いなってビビッ!とくること滅多に無いもん。ありがとう」 「そんなに、褒めてもらうほどじゃ……」 「須藤さんの写真、好きだよ」  反論しかけた朱斗の言葉に被せるように言ったその一言にまた、いつかの樹矢を重ねる。 『俺、朱ちゃんの写真すっごく好きだよ!』 「須藤さん…?」 「あ、えーっと…、ありがとうございます」  結埜に恋人を重ねてしまった朱斗は、モニターに目を向けた。 「…え」  そこには画面いっぱいにくしゃっと笑う結埜が写る。  撮っている最中は撮影することに集中していたからか、そんなこと思わなかった。だからこそ、朱斗は驚いた。そして、すぐにこれは樹矢ではないと現実に戻る。 「この写真、僕の新しい宣材に使わせて頂きたいな」 「えっ、と。これでいいんですか?宣材写真用に撮影するのも可能ですよ?」  モニターから目を話さない結埜の意思は強く固まっていた。 「これが……いいんだ。須藤さんに初めて撮ってもらったこの写真が、良い」  結埜は言葉にも強い自身の芯が通っていた。揺るがない、自分を決して失わない強い想いを朱斗はひしひしと隣で感じた。 「とても、嬉しいです。ありがとうございます。後でデータを事務所の方に送りますね」 「ありがとう。僕も嬉しいよ」  また、笑う。  そして、朱斗はそれを重ねて心に薄く靄がかかる。 「結埜ー。このあとのスケジュール無くなったから」  おそらく、結埜のマネージャーさんだろう。  スマホを片手に持ちながらに結埜に向かって少し遠くの場所から声をかけた。 「おっけー」  結埜もまた、マネージャーに向かって返答する。

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