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第1話
「つ、付き合って下さい!!」
……夢を見ているのだろうか?
町で1番美しいと言われているフレヤが、先祖返りのケダモノと言われ、蔑まれる俺と付き合いたい?
そんなはずはない、騙そうとしているのだろうと観察するが、潤んだ瞳、紅潮した頬、忙しなく動く耳と揺れる尻尾。そして何よりほんのりと香るこれは……発情フェロモンか?
「本気なのか?」
「はい!」
「……正直、俺は戸惑っている。返事は一晩待ってくれるか?」
「待ちます! ダメでも気が変わるまで待ちます! よろしくお願いします!!」
答えを保留にしてみたが、俺だって男だ。美人に本気の告白をされて嬉しくない訳がない。だが……
こちらは先祖返りのケダモノ、あちらはニンゲンの妖精と呼ばれる町一番の美貌を誇る。俺では不釣り合いにも程がある。俺のどこを気に入ったと言うのか。考えれば考えるほど謎だ。
思いあぐねて酒を飲みに出かけた。
「おい! お前、フレヤちゃんに、その……告白されたって本当か!?」
「……声が大きい!」
馴染みの……と言うか唯一俺が入れてもらえる酒場に足を運ぶと、唯一の友人であるダンが鬼気迫る勢いで聞いてきた。耳が早い。
「……本当だ。嘘をついている風でもなかった」
「なぜだぁぁぁっ!! おれはサクッと振られたのに! 貴族からの求婚でさえ袖にするフレヤちゃんが! なんでお前に告白すんだよ!!」
「告白してたのか」
「そうだよ! ダメ元で言ったよ! 玉砕だよ!!」
「……そうか」
「奢れ! 今夜はお前の金で飲むぞ!!」
「明日、返事をすると言ってあるから遅くまでは飲めない」
「……は?」
「だから……「なんで即答しないんだよ!もったいぶりやがってぇぇぇ!! 駆け引きか? お前なんかが!?」
「そんな訳あるか。俺みたいなケダモノ、入れてくれる店さえ稀だ」
「うぅぅ……スマン……」
「気にするな。だが考えがまとまらん。俺は帰るからこれで飲んで帰れ」
「うぅぅ……幸せに……なれよ……くっそー!!」
クダを巻くダンを残して町の外れの粗末な小屋に帰る。
この姿のせいで苦労をしてきたが、害獣駆除の報酬と分けてもらう作物でなんとか生活できるようになった。だがとても嫁をもらえるような生活はしていない。
……そうだ。
あり得ない事態に舞い上がって考えが至らなかったが、俺は容姿だけでなく生活力も嫁を迎えるのに相応しくない。
断ろう。
いい夢を見せてもらったと感謝しよう。
翌日、フレヤの家を訪ねた。
裕福な商家で使用人もいる。こんな家で育った者が俺と付き合うなどできるはずがない。
「トーレ様!」
「これ、はしたない」
「ご、ごめんなさい……」
「トーレ様、息子から色々聞いております。その、うちの息子はどうも、あなた様のような方が好みのようでして……」
「そのようにお聞きした。申し訳ない」
「どう言う……事ですか!?」
迷惑そうな顔の父親に謝ると、フレヤが真っ青になった。
「俺はこんな姿で、仕事も選べない。知っているかもしれないが家も粗末で相手にしてくれる店も少ない。あなたを嫁にもらう事はできない」
「何でもします! 掃除も洗濯も料理もします! だからどうか、嫌いにならないで下さい!」
「いや、嫌っている訳では……」
「ではせめてデートして下さい!」
「フレヤ!!」
「……でーと?」
「デート……ダメですか?」
「でーと……それは……何だ?」
「1日共に過ごすのです! 森に美しい泉があると聞きました。ご一緒していただけませんか?」
「南の森の泉か? まぁ、あそこなら安全だな」
泣きそうな顔で頼み込まれて断る事が出来なかった……。
先日、氷柱蛇と種火鼠を駆除したばかりだ。仕事の入っていない2日後に迎えに来る事を約束した。やはり父親は迷惑そうだったが、諦めているようでもあった。
「教えて欲しい事がある」
唯一の友人であるダンを誘って酒を飲む。
「……何を?」
「でーと、とは何をするんだ?」
「するのか!?」
「1日共に過ごすのだと聞いたが、森の泉に行くだけでは1日かからないだろう?」
「森の泉!! あぁもう! あのな、南の森の泉の側に樫の木があるだろう? その枝に宿り木があるんだよ! その宿り木の下でキスをすればその2人は結ばれる、って言われてるんだよ!」
「結ばれる? だが、付き合いは断ったぞ」
「断ったぁっ!?」
「あぁ、あんな金持ちの息子が俺の嫁なんてむりだろう」
「断った……」
ぶつぶつ独り言を言い始めてしまった。
フレヤは諦めないと言った。そしてでーとに誘い、宿り木の下で俺とキスをして結ばれようとしている、のか?
どうにも不思議だがやはり本気で俺と付き合いたいと考えていて、諦めないつもりなのか。だが家を見せれば諦めるだろう。
この場合、でーとの前に見せれば良いのか?後に見せれば良いのか?思いあぐねているうちに約束の日となり、フレヤが馬車で迎えに来た。
「わざわざ迎えに来てもらってすまない。この家を知っているなら分かるだろうが中も粗末なものだ。ここを見ればあなたも諦めがつくだろう」
「家は直せば良いし、家具も食器も寝具も持参いたします!」
「こんな小屋に住めるのか?」
「トーレ様さえいて下されば」
「……俺にあなたを養う甲斐性はない」
駆除の仕事は安い。
報酬が少なくて申し訳ないと食べ物を添えてくれるから食うに困ってはいないが、妻や子を養うのは無理だろう。箱入り息子には貧しさが理解できないか。
いきなり家に連れ込まれた、などとおかしな噂を流されても困るので中には入らせず、馬車に乗って森へ向かった。
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