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第1話
僕には最初名前があった。
前川すぐる、という名前が。
母さんと父さんがいて、兄と弟がいた。
ただ平凡に生きて、平凡に暮らしてた。
世界が変わったのは突然のことだった。
始まりは中学一年生の時、
母さんがガンで亡くなった。
父さんは母さんが亡くなったショックから仕事に身を捧げ、よく笑う親友に騙され大量の借金を抱え、職場の屋上から身を投げて死んだ。
葬式は親族だけでひっそりと行われた。
手が真っ白になるほど握りしめて下を向きながらもお辞儀をし続ける兄を僕は一生忘れないだろう。
当時兄は大学二年生だったが、大学をやめて働きに出た。
僕はまだ高校一年生で何も出来ず、ただ泣いている中学二年生の弟を抱きしめていた。
まだ三人兄弟が残ってる。
その安心感は強く、僕らの支えだった。
この三人なら支えあって生きていける。
そんな確信さえ持てる程に。
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