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◇
「シオちゃぁ~ん」
「……」
「全然俺のこと探さないからびっくりしちゃった。まさか忘れた?」
奴が俺の前に現れたのは、あの出来事から丁度一週間経った日だった。
移動教室から帰るところを呼び止められ振り向いたら奴が俺に向かってニコニコしていた。傍にいた女子がきゃーきゃー声をあげている。どうやら有名人らしい。とことんうるさい奴。
無視して通りすぎようとしたら奴がついてくる。
「あははシオちゃんまじ塩対応でウケる~。あんなんしても放置とか冷めすぎ~」
「……」
「ねーねーこの前はごめんね?」
「……」
「いいこと教えてあげる。明日晴れだよ。超快晴」
「……だから?」
「飛び降りる前にやらせて」
「……殺せないくせに」
こんなのに期待した俺が馬鹿だったんだ。
俺は溜息を吐く。ああ、早く死にたい。
「大津 」
「は?」
「俺の名前ー」
「それが?」
「下の名前は、ソラ。漢字はね……青空って書いてソラって読む」
両の手から力が抜けて、俺の持っていた教科書やノートの類が足元に落ちる。
動けない俺に代わって大津は笑って教科書を拾った。
「また明日ね、シオちゃん」
去っていく大津。どくどくと心臓が脈打つ。
あの日の痛みを思い出す。
明日は死ねるかもしれない。青空に殺してもらえるかもしれない。
魅惑的すぎる言葉の響きに俺は震える。
情けないことに、勃起していた。
−了−
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