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特別な人 第51話

 同じやり取りはしないからって意思表示をしたら、慶史もそのつもりはないのかそれ以上何も言ってこなかった。でも何かあったら絶対に相談することって強く言われたんだけど。  言いたいことははっきり口にするから意地悪なイメージを持たれがちな慶史。でも本当は凄く優しいって僕は知ってる。だから、慶史の言葉に素直に頷きを返すんだ。 「で、さっきから気になってたけど、コレ何?」  やっとお昼ごはんが食べれるねって笑ってたら、慶史が指さすのは自分の隣で机に突っ伏してる悠栖。このまま放置してもいいけど一応聞いとくって尋ねてくる慶史に、僕は分からないって首を振った。  でも、分からないけどなんとなく予想はついたから、いつものじゃない? ってお弁当の蓋を開けてご飯を食べる準備を進める。僕の隣では朋喜も「聞かない方がいいよ」って肩を竦ませてみせた。 「ふーん。なら、悠栖はほっといて食べるか」 「! ちょ、それは流石に酷いぞ!? 話が終わるの待ってたんだから俺の話もちゃんと聞こうよ!?」  いただきますって三人声を合わせて手を合わせたら、勢いよく顔を上げる悠栖。俺にもっと興味持って!? って。 「構われ待ちのウザい奴には絡まない主義なんでーす」 「僕はさっきまで聞いてあげてたでしょ?」  悠栖煩いって言いながらも笑ってる慶史と、僕はこれ以上聞かないからって笑顔で突っぱねる朋喜。  言葉だけ聞いたら慶史は意地悪で朋喜は優しいって感じるかもしれないけど、実は反対だったりするから、面白い。 「っ、マモは聞いてくれるよな?!」  三人を見てくすくす笑ってたら、悠栖は慶史と朋喜に訴えるよりも僕に話した方が聞いてもらえるって思ったのか、お箸を握る僕の手を握ってくる。  それがあまりにも必死に思えて思わず「何があったの?」って聞いてしまった。そしたら慶史と朋喜からは返事しちゃダメだろって言われてしまった。 「やっぱり! マモはこいつらと違ってちゃんと友達の心配してくれる優しい奴だって信じてた!」  身を乗り出す悠栖の圧に負けて僕は思わず身を引いてしまう。でも、手は掴まれてるから、逃げ切れない。  どうしようって慶史と朋喜に視線を送ったら、見かねた慶史が助け舟を出してくれた。 「悠栖、静かにしてくれない? 騒いだらまた結城に絡まれる」  そう言って身を乗り出す悠栖に僕から離れる様に遠回しながらも言ってくれたおかげで、握られた手は解放される。悠栖は凄く不本意そうだけど、僕は握られた手が痛かったから助かった。  手首を擦る僕に気づいたのか、椅子に座り直す悠栖は肩を落としながらも謝ってくれる。 「葵が声かけちゃったし、仕方ないから聞いてやるよ。鬱陶しいぐらいにへこんでたけど、何があったの?」 「慶史さー、せめてもうちょっと心込めてくんない? 面倒だって透けて見えてる」 「よかった。隠してないけど悠栖は葵の次に鈍感だから気づいてもらえないかなー? って思ったけど、ちゃんと気づいてくれた」  なかなか鋭くなったな! って笑顔で悠栖の頭を撫でる慶史。  悠栖は慶史の手を振り払うと、「扱いひでぇ!」って抗議する。そして、僕も。 「僕、鈍感じゃないし!」 「分かってる分かってる。葵は純粋なだけだよなー?」  頬っぺたを膨らませて睨むんだけど、慶史は全然動じてない。それどころかまた僕を馬鹿にするから、困った性格だって思う。  腕を伸ばしてよしよしって頭を撫でてくるけど、うやむやにしようとしてるって丸分かり。僕は「慶史!」って威嚇する。  そしたら隣の朋喜が声を出して笑いだして、意味が分からない。 「何笑ってるの?」 「ごめん。でも、葵君が可愛くて……」  謝りながらもまだ笑ってる朋喜。何がそんなに面白いんだろう……? それに、僕が『可愛い』って何? 褒められてないよね?  意味が分からなさ過ぎて眉を顰める僕。朋喜は一頻り笑い終えると、「だってね」って口を開いた。それは僕を『可愛い』って言った理由。 「葵君、怒ってるのに慶史君に撫でられるのは全然嫌がってないから、すっごく可愛いなぁって思ったの!」 「え?」 「あー。葵、髪触られるの好きだもんなぁ」  言われて気づいた。慶史はまだ僕の頭を撫でてるって。  微笑ましそうに僕を見る朋喜の視線が居た堪れない。僕を撫で続けてた慶史は、僕が恥ずかしくて暴れる前に手を離すと昔から変わってないって笑った。 「マモって髪触られるの好きなんだ? 珍しいな」 「そう、かな……?」 「うん。珍しいね。僕は触られるの絶対嫌だもん」  何故か苦笑いの悠栖に、子供っぽいって思われたのかな……? ってちょっと心配。  でも『好きじゃない』って否定してももう嘘だってバレてるから、素直に頷いた。みんなは違うの? って意味を込めて。  僕の疑問に答えるのは、朋喜。可愛い笑顔ではっきりと『触られたくない』って言う朋喜の言葉に、悠栖も同感なのか深く頷いてた。 「でも、髪を撫でてもらったら気持ちよくない?」 「全然。むしろ気持ち悪い」 「同感」 「残念だけど、葵のその意見に同意してくれる奴はここにはいないみたいだな」  気持ちいいよね? って同意を求めるけど、三人はバッサリ否定。  絶対触られたくないって言う朋喜の表情からはいつものほわほわな雰囲気はなくて、朋喜の言葉に深く頷く悠栖は腕を組んで「分かる分かる」って難しい顔をしてた。  二人とは違って笑顔の慶史も、「セックス中以外では俺もお触りは遠慮して欲しい派だから」って僕の意見には同意できないって言い切った。

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