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特別な人 第103話

「こらこら、仲が良いのは分かるけどじゃれるのは後にしような? 凪ちゃんは勿論、樹里斗さんだって待ってるんだから。な?」 「うぅ……、分かった……」  茂斗に噛みつく前に、苦笑交じりの虎君に止められる。  繋いだ手を引いてリビングに降りようって促されたら、虎君に逆らってまで茂斗に反論する気はなくなってしまう。  僕は大人しく虎君の隣を歩くんだけど、なんだか釈然としなくて無意識に口を尖らせていた。 「! 何?」 「んー。ちゃんと我慢できて偉かったから、褒めてみた」  突然離された手は、僕の髪を撫でてくる。  なんで撫でられたか分からなかったけど、虎君はくすくすと笑いながらも喧嘩しなかったことを褒めてくれる。  物凄く子ども扱いされてる気がしてちょっと複雑だけど、それでも虎君に撫でられるのが好きだから僕は「ごはん冷めちゃうしね」って笑った。 「虎兄。あのさ、流れでついてきてるけど、いいの?」 「何が?」 「『何が』って、葵んちもう晩飯なんだろ? 俺ら、どうすんの?」  後ろから投げかけられる質問の意味が分からない。  虎君は分かるのかな? って視線を向けたら、虎君も何を言われてるのか分からないようで、顔を引きつらせてる。 「お前が何を言いたいかわからないんだけど?」 「えっと、だから、俺ら帰らなくていいの? って聞いてるんだけど!」 「どうして帰るの? 瑛大、今日は外泊許可貰ってきてるんでしょ?」  なんで伝わらないかな? ってもどかし気な瑛大。  言いたいことは分かったけど、瑛大がどうしたいのか分からない僕はとりあえず自分が感じたまま尋ねてみた。今から寮に帰る気なの? って。 「いや、外泊届出してるし帰らねぇよ」 「? だったら何処に帰るの?」 「『何処』って……、虎兄の家だけど……」  僕があまりにもキョトンとしてたからか、瑛大はすごく戸惑った表情を見せる。  そういう話だったよな? って虎君に視線を向ける瑛大。するとその視線を受け取った虎君は「あー」って空笑い。 「悪い、忘れてた」 「! ちょ、忘れないでよ!! 俺はそのつもりで実家の鍵とか持ってきてないんだから!!」  忘れてても泊めてくれるよね!?  そう詰め寄ってくる瑛大は僕を押し退けて虎君の腕を掴む。  泊めてもらえなかったら野宿になるって焦ってるのは分かるけど、力加減は考えて欲しい。  体格差があるせいで僕は瑛大の腕に押し退けられるがままバランスを崩して壁へとぶつかってしまった。 (地味に痛い……)  手を突いたおかげで顔から突っ込むことは避けられたけど、想定外の衝撃に手首を捻ったのかズキズキと痛んだ。 「! 葵、大丈夫か!?」 「あ、うん。大丈夫。ちょっとよろけただけだから……」  瑛大を押し退けて僕の心配をしてくれる虎君は、肩を抱いて立つ手助けをしてくれる。  僕はその手を借りながらも情けないところ見られちゃった……って空笑いを返す。弾き飛ばされるとかカッコ悪いよね。って。 「本当に何処も怪我してないか? 痛むところもない?」 「手、変に突いちゃったからちょっと痛いかも。でもだんだんマシになってきてるし、たぶん平気」 「折れてたりしないか?」 「! 折れてない折れてない! そこまで軟弱じゃないよ」  心配されてるから正直に打ち明けたら、ものすごく重症化されて苦笑い。からかわれてるのかな? って。  でも虎君がそんなからかい方をする性格じゃないってことはよく知ってるし、本気なんだろうな。 「でもヒビが入ってるかもしれないし、病院行くか?」  僕が捻ったと訴えた手首をさすりながら、すぐに車取ってくるからって真顔で言う虎君。 (もう! 本当、心配性なんだから!) 「本当に大丈夫だよ。ちょっと捻っただけだし、痛みももうなくなったし!」 「でも……」 「大丈夫だってば! 虎君心配しすぎ!」  眉を下げる虎君の表情は頼りなくて、不謹慎だって分かってるけど可愛いって思っちゃう。 (いつもはすっごくカッコいいのに、偶にこんな風に可愛いって、凄くずるいよね?)  だってこんなの絶対虎君の事ますます大好きになっちゃうもん!

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