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第206話

 クリスマスパーティーの賑やかさとは打って変わってシンと静まり返った慶史の部屋。  僕はベッドの隅で膝を抱えてぼんやりと窓の外を眺めていた。  重苦しい沈黙に耐え兼ねた悠栖は朋喜に声を掛けて自分達の部屋に戻ってしまって、今は僕と慶史の二人きり。  悠栖達が部屋から出て行った後、僕は慶史から何を言われるかと構えていた。  でも慶史は何も言わず、自分のベッドに寝転がって携帯を弄っているだけでちょっとだけ拍子抜けしてしまった。  窓の外は葉っぱを散らした木々が風に靡いてしなっていて、薄い雲が敷き詰められた空と相まって物悲しさを際立たせてくれる。  僕は壁に掛けられた時計に目をやって、茂斗は何時頃来るのかな……と電源の切れた携帯に視線を移した。 (会うの、嫌だな……。絶対、『携帯の電源ぐらい入れとけ』とか文句言われるだろうし……。荷物だけ置いて帰ってくれないかな……)  思い出すのは、怒り心頭とばかりに携帯越しに怒鳴り散らしていた双子の片割れの声。  昨日の今日で怒りが治まっているとは思えないし、むしろ怒りがヒートアップしてる気がする。  そんな茂斗に放っておいて欲しいとお願いしたところで無視されるに決まってる。  僕は今から憂鬱だと息を吐いた。  すると、それが思いの外大きくて、しまったと思った。  だって今のコレはあまりにもわざとらしくて、言うなれば『心配して欲しい』と言っているみたい。  恐る恐る慶史を見れば、携帯を手に此方に向けられた視線とぶつかった。 「どうしたの。そんなため息ついて」 「ご、ごめん。なんでもないから気にしないでっ」 「いや、『気にしないで』って言われても気になるから」  携帯をベッドに置くと、慶史は起き上がって僕に向き直る。  そして、何を聞いてほしいの? って尋ねてきた。  心を見透かしたような問いかけに、言葉に詰まってしまう僕。思わず視線から逃げるように顔を背ければ、今度は慶史が溜め息を吐いて……。 「ねぇ、葵」 「! な、何?」 「そんな構えないでよ。……この前みたいなことはもう言わないから」  ビクッと肩を震わせてしまった僕に慶史は苦笑いを見せ、僕の決断を尊重すると力なく笑って見せた。  その笑い顔に、今の言葉は本心じゃないって僕じゃなくても分かるだろう。  慶史を疑うように見てしまう僕。当然慶史はその視線に気づいていて、肩を竦ませると「そんな目で見ないでよ」ってまた苦笑い。 「だって慶史、嘘ついてる……」 「仕方ないでしょ? 葵が俺の考え聞くの嫌がってるんだから」 「! 嫌がってなんか―――」 「嫌がってるでしょ」  嘘吐き。って笑う慶史の眼差しは居心地の悪さを感じさせる。  僕が言葉を詰まらせ黙ったら、慶史は自分のベッドを降りると僕の方に移動してきて、僕と向かい合うように胡坐をかいて座った。 「俺、あの人のこと大っ嫌いなんだよね。葵が思ってるよりもずっとずっと大嫌いなんだよね」 「なんで今そんなこと言うの……」  すごくいい笑顔で虎君を嫌いだと繰り返す慶史。その真意が分からなくて僕は思わず眉を下げてしまう。  想いを断ち切らないといけない身だけど、僕は虎君が好き。すごく、本当に凄く大好き。  それを知っているのに、慶史はどうしてそんな悲しいことを言うのか。 「まぁ聞いてよ。……正直今この瞬間も、葵があの人の何処にそこまで惹かれたのか理解できないし、説明されても絶対納得できない自信があるんだよね」  天変地異が起こってもあの人に好意を抱くことは絶対無理。  そう言い切る慶史の表情は何処までも笑顔。  心の底からの本音だって分かるから、僕はすごく悲しくて視線を下げて唇を噛みしめてしまう。 「だから、俺は葵が早く別の人を見つければいいって思ってる」 「別の人なんてっ、そんなの要らないっ……」 「うん。知ってる。……でも聞いて? 葵は、俺が、あの人と葵が上手くいくのを全力で妨害したいって思ってるってことは理解できる?」  手を握って尋ねられた言葉に、僕は真意が分からないながらも頷いた。慶史が虎君を嫌いって事は、嫌というほど伝わっているから。  すると慶史はそんな僕に笑顔を柔らかいものに変え、質問を続けた。 「なら、俺がこの前言った言葉が俺の意思とは違うモノだってことは分かってくれる?」  と。  きっと慶史は言いたいことが伝わったと思ったのだろう。そんな顔をしているから。  でも僕は、慶史が何を言いたいのかまだわからなくて戸惑うばかりだ。

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