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恋しい人 第125話

「なんだ。結局敵視されるのは俺だけか。姫神もこっち側に引き入れたかったのに」 「そういうのは黙っとけよ」  面白くないと拗ねる慶史の本音に姫神君は苦笑い。  朋喜は二人のやり取りに笑いながら、挨拶も終わったしそろそろ帰らなくていいのかと尋ねてきた。今日は妹さんのお誕生日会なんだよね? と。  僕はその言葉に頷き、帰ろう? と虎君を見上げた。 「ああ、そうだな。でもその前に……」 「虎君?」  笑顔を返してくれる大好きな人は僕の髪を撫でると未だ座り込んでいじけてる悠栖へと足を向けた。  悠栖を気に掛ける虎君に心がザワザワしてしまうのは仕方ない。僕は悠栖の恋心をこれ以上育てないで欲しいと眉を下げてしまう。 「天野、寮に帰ったら一応指、冷やしとけよ」 「っす……」 「それと確認なんだが、お前は俺が好きなのか?」 「は? 先輩何言ってるんすか?」 「ありがとう。その反応で十分だ」  虎君から言葉を濁さず投げられる質問に悠栖が返したのは物凄い顰め面。  頭大丈夫ですか? と続けられそうなその表情に僕が覚えるのは困惑。だって、自分の恋心を誤魔化してるとかそういう雰囲気も一切なかったから。 (なんで? 悠栖、虎君のこと好きになったんじゃなかったの……?)  どういうことか分からない僕を他所に虎君は踵を返し、僕の元に戻って来ると帰ろうかと笑った。 「あの、えっと……」 「心配しなくても天野は俺に恋愛感情なんて1ミリも持ってないよ。大方千景とのやり取りを見て感化されただけだろ」 「でも―――」 「もし仮に恋愛感情があったとしても、俺が愛してるのは葵だけなんだから安心して?」  僕がなんて返事をすればいいか分からず狼狽えていたら、ほっぺたに添えられる大きな手。優しく―――愛しげに笑いかけてくる虎君に何故か泣きそうになってしまう。 「先輩。5分も経ってないですよ」 「何もしてないだろう?」 「『今』は何もしてなくても、そんな葵を前に先輩が我慢できると思えないんですけど?」  だからさっさと帰ってください。  そう辛辣な言葉を投げかけてくる慶史。虎君はそうさせてもらうって僕の肩を抱くと「寄り道せず帰れよ」とみんなを残し歩き出す。  後ろから「葵を泣かせたらただじゃおかないんで!」と慶史の大きな声。虎君は何も言葉を返さず、ただ『分かった分かった』と手を振って……。 「俺が葵を泣かすわけないのにな?」 「うん……」  誰よりも僕を大切にしてくれる虎君。寄り添うように抱き着くと、もっと傍にいたいと欲が溢れてしまう。 (早く明日になって欲しい……)  二人きりで過ごす明日が待ちきれない。こうやってくっつくだけじゃないって分かってるからこそ、期待が抑えられない。  最近虎君と愛し合うことしか考えられない自分の思考に恥ずかしさを覚えてしまうんだけど、恥ずかしさよりも一緒にいたい想いが強いからどうしようもない。 (虎君はこんな僕、嫌かな……?)  虎君はどんな僕でも愛してるって言ってくれたけど、こんなエッチな僕でも本当に愛してくれるのかな……。  寝ても覚めても虎君と愛し合いたいと望んでしまっているなんて、流石に引かれるんじゃないかと心配になる。 「葵? どうした?」 「なんでもない……」  僕用のヘルメットを被らせてくれる虎君は、僕の気分の落ち込みを見逃さない。  すぐにバレると分かっているのに嘘を吐くのは、虎君が僕の欲を知って幻滅しないか不安だったからだ。 (僕のこと嫌いにならないで……)  当然虎君には嘘がすぐバレて心配をかけてしまう。不安そうな顔をしてると心配そうに眉を下げる虎君の表情に胸が締め付けられた。  なにか不安なことがあるなら全部話して欲しいとお願いしてくる虎君。葵が笑ってないと俺も辛い。そんな言葉を続けながら。  僕は躊躇いながらも虎君に尋ねる。何を聞いても僕のことを嫌いになったりしない? と。嫌いにならないと約束してくれるのなら全部話す。と。 「当たり前だろ? 俺が葵を嫌いになることなんて何があってもあり得ないんだから」  どれほど愛してるかまだ伝わってない?  そう悲し気に笑う虎君に僕は首を横に振って、ちゃんと伝わっていると呟いた。 「なら、教えて? 何が不安?」  繋いだ指先にちゅっとキスを落とし、乞われる。俺を信じて打ち明けて。と。  僕はその言葉にどうか虎君の表情が、心が変わりませんようにと祈り、心臓が飛び出しそうな程恥ずかしい心を伝えた。 「あのね、僕―――」

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