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初めての人 第19話
「ねぇ、一体何があったの?」
「それは―――」
「そういうズルは葵らしくないぞ」
食い下がる僕に那鳥君が何か言おうとしたその時、誰かが僕に圧し掛かってきた。
ルール違反だと朗らかな声で茶化してくるのは慶史。那鳥君は苦笑いを濃くして「信頼しろよ」って肩を竦ませて見せた。
「信頼してるけど、相手が悪いだろ? 現に揺らいでたみたいだし」
「揺らいでねぇーよ。ちゃんと慶史から説明してもらえって言おうと思ってた」
「ならいいけど」
一方的に疑われているのに不満の声一つ漏らさない那鳥君にはやっぱり違和感しかない。僕は自分に圧し掛かる慶史を振りほどくと、ちゃんと説明するよう求め睨んだ。はぐらかしたりしたら許さないから。と。
すると慶史は分かっていると不気味なぐらい綺麗な笑顔を見せた。その、状況に相応しくない笑みに僕が警戒してしまうのは当然だろう。
「そんな顔しなくても、ちゃんと説明するってば。夏休みに会った色んな事、俺も葵に話したいし」
「……何企んでるの?」
「何も。……でも、しいて言うなら、思い出話をするのは今日の放課後限定、ってぐらいかな?」
満面の笑みで予想通りの条件を口にする慶史。絶対僕が『今日は無理』って言うと思っているのだろう。
でもそうはいかないんだから!
「いいよ。何処で話す? 教室は人が多くて落ち着かないからヤダよ?」
「え? いいの? 先輩、迎えに来るんじゃないの?」
あっさり了承した僕に慶史が驚き目を瞬かす。すぐに終わる話じゃないよ? と。
(ほら。やっぱり僕が断ると思ってた)
僕は驚いている慶史に「遅くなるって連絡したから平気」と嘘を吐いた。
いや、遅くなると連絡するつもりだったから全部が嘘と言うわけじゃない。本当は始業式が終わったらすぐ連絡しようと思っていたし、まだ連絡できてないだけだから。
「嘘。葵、正気?」
「それどういう意味? 僕が虎君を優先するって思ってたの?」
「思ってた。てか、思ってる。だって今って普通『ずっと一緒にいたい』って時期なんじゃないの? 学校に来るのも嫌だったんじゃないの?」
そこまで分かっていて『今日じゃないと話さない』って言うなんて、酷くない?
僕はムッとしながらも「何を優先するべきかはちゃんと分かってるつもりだよ」って不快感を露わにした。
「それに、虎君はちゃんと待っててくれるしね!」
「うわぁ、棘のある言い方」
「自業自得だろうが。流石に葵のことを見くびりすぎだぞ」
「加勢するなよ。なんか俺が悪者みたいじゃん」
僕だけじゃなくて那鳥君にも責められた慶史は肩を竦ませ苦笑いを浮かべる。けど、そんな風に笑ったって絶対はぐらかされてあげないんだから!
慶史の嘘を警戒していれば、それを察したのか素直にごめんと謝られた。
正直こんなに早く折れると思ってなかったから凄くびっくりしたけど、僕は頑張って不機嫌な面持ちを保って「ちゃんと話してくれるよね?」と約束を求めた。
「分かった。ちゃんと話すよ。先輩より優先されてるのに誤魔化すとか流石に良心が痛むもん」
「お前、今までどんだけ嘘ついてきたんだよ……。見ろよ、葵の顔。まだめちゃくちゃ疑われてるぞ」
「あはは。だよねぇ。そうなるよねぇ」
苦笑を濃くした慶史は本当にちゃんと話すからそんな顔をしないでと言ってきた。
それでも僕が疑いの目を向ければ、肩を竦ませ、部屋で話すから寮に遊びに来るよう言ってきた。あまり人に聞かれたくない話もあるから。って。
「……分かった。ちゃんと話してくれるって、信じてるからね?」
「だからそんな目で見ないでってば。葵にそんな目で見られたら良心が痛むんだって」
「! 嘘吐くつもりなの!?」
「違う違う。これまでの行いを省みて、ってこと」
「マジで相当悪行重ねてきたんだな……。安心しろ、葵。これからは俺もこいつのこと見張っててやるから」
「あのさ、そういうのウザいんだけど。そもそも那鳥ってそんな熱いキャラだったっけ? 途中で路線変更とか止めてくれない?」
『誰も俺に構ってくれるな』って孤高気取ってた昔の那鳥が懐かしい。
そう言って数ヶ月を回想する慶史に、那鳥君は顔を真っ赤にして怒ってた。人の黒歴史引きずり出すな! って。
「あ。やっぱり頑張って一匹狼っぽく振る舞ってたんだ? ヤダなっちゃん、それって厨二病って言うんだよ?」
「お前こそ何キャラだよそれ」
「んー。『友人なのに立ち位置おかん的なキャラ』を目指してみた?」
それっぽくない?
そう言って笑う慶史の胸倉を掴む那鳥君は「今すぐ止めろ」って凄く怒った感じで睨む。
パッと見た感じ険悪な雰囲気の二人。でも実際はそうじゃなくて、むしろ逆。とても仲が良くてじゃれてるようにしか僕には見えなかった。
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