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初めての人 第51話

「耳が痛いでしょ?」 「改めて言うな。あとその顔も止めろ」  双子の片割れの余裕のなさに呆れていれば、姉さんの笑い声が聞こえる。顔を上げれば楽し気な笑みを浮かべて虎君を見てる姉さんと、姉さんの視線に頭を抱えてる虎君の姿が。  二人の様子に意味が分からず首を傾げる僕。すると視線に気づいた虎君は深いため息を吐いて姉さんが笑っている理由を教えてくれた。 「茂斗の行動、そのまま俺にも当てはまるだろ?」 「! あ」 「ヤダもぉ! 葵可愛すぎる!」  困ったような笑い顔の虎君の言葉に、フォローよりも先に『本当だ』と納得するリアクションを返してしまった。  姉さんはますます楽し気に笑って僕を抱きしめると「葵も迷惑してるんだから慶ちゃん達への態度を改めなさいよ」って虎君を窘めた。 「ちょ、僕そんなこと言ってない!」 「えぇ? 今言ったじゃない。『友達に難癖付けるとか迷惑だ』って」 「そ、それは確かに言ったけど、でもそれは茂斗に対してで虎君にじゃないから!」  必死に弁明するも、信じてもらえない。それどころか、自分の振る舞いはそう思われて同然だと大好きな人に言わせてしまった。  確かに、確かにさっき僕は虎君も茂斗と同じことをしていると受け取られても仕方ない反応をしてしまったと思う。  でも本当に虎君に対して『迷惑』とか思ったことがないし、『友達に難癖をつけている』と思ったこともない。 (虎君はただ僕が大切なだけだもんっ)  他の人から見れば虎君と茂斗は同じことをしているのかもしれない。  でも、でも僕にとって虎君がしてきたことは迷惑なことなんかじゃない。僕が大切だから、僕が傷つかないよう守ってくれていただけなんだから。 (! きっと凪ちゃんもそう思うよね……)  ああ、そっか……。凪ちゃんにとっては僕こそ『迷惑』な存在。凪ちゃんの大切な人に『難癖をつける』ただのお節介な幼馴染だ。 「茂斗が帰ってきたら、僕、謝る」 「葵? 何言ってるの?」  自分の独り善がりな考えを反省していれば、姉さんからは話が見えないと言われてしまった。謝るも何も茂斗にはまだ何も言ってないでしょ? と。 「謝るぐらいなら何も言わなければ良いだけじゃない?」 「分かってる。さっきの話は言わないよ。僕の思い上がりだって分かったしね」  でも、少しの間でも茂斗の行動を悪いことだと決めつけてしまったことを謝りたい。  それは自己満足だと分かっているけど、茂斗にとっては意味が分からない謝罪になったとしても、僕が口出しすることじゃないって戒めを自分に刻みたい。 「葵」 「虎君、僕、本当に『迷惑』だなんて思ってないからね? 僕のこと、昔から大切にしてくれてるってちゃんと知ってるからね?」  それこそ、誰よりも僕のことを大切にしてくれてるって。  僕を世界で一番大切に想ってくれているのは虎君。父さんと母さんももちろん大切に想ってくれているけれど、虎君の想いはそれ以上。虎君は言葉通り、僕を守るためなら死ぬことさえ厭わないだろう。 (他の人から見たら『迷惑』かもしれないけど、僕は、僕は―――) 「僕は虎君に大切にしてもらえて、凄く、凄く幸せだよ……」  自分がどれほど幸せだと感じているか伝えたくて、ぎゅっと抱き着く。  虎君はそんな僕を優しく抱き留め、「ごめんな」と謝った。でも、謝った後、「ありがとう」って言ってくれた。僕の伝えたいことはちゃんと伝わっていると、言ってもらえたような気がした……。 「ねぇ、どういうことか説明してよ」 「お前は知らなくていいことだ」 「何それ。仲間外れにしようっていうの?」 「これは俺が分かっていればいいだけの話だ。……そうだよな?」  どういうことかわからないと不満を漏らす姉さん。  虎君はそんな姉さんにこれ以上この話をするつもりはないと意思表示をすると、僕に同意を求めてくる。間違ってないよな? と。  僕は頷き、虎君だけに知っていて欲しいとその胸に顔をうずめた。 「ちょっと。納得できないんだけど」 「そうかよ」 「可愛い妹が可哀想だと思わないわけ? それって兄としてどうなの?」  仲間外れにしないでよ!  そう訴える姉さんを虎君は「これは兄妹の話じゃなくて恋人同士の話だからお前は部外者だ」って突っぱねて、大好きな『お兄ちゃん』に邪険に扱われたと拗ねさせた。 「葵、葵はこんな意地悪、しないでしょ?」 「ごめんね、姉さん」 「酷い!」  きっと説明しても伝わらないだろうし、理解もしてもらえない。だから虎君と僕の秘密だと伝えれば、姉さんからは最初から諦めるのはよくないと言われてしまった。

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