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初めての人 第61話
盛大なため息を吐いた後、僕の手を握る虎君は「絶対勝とうな」と笑いかけてくれる。僕はそれに複雑な思いを隠しきれず、ただ黙って頷くことしかできなかった。
「いいわね? 恨みっこなし!」
そう言ってじゃんけんをする僕達。四人もいるから勝敗はすぐにつくことはなくて、でも何度かそれを繰り返していれば漸く一度目の決着がついた。
「あ……」
「げっ」
人数が半分になる決着に負けたのは僕と茂斗。姉さんは喜びはしゃいだ姿を見せていた。
僕は思わず茂斗を見てしまう。すると、流石双子というべきか、茂斗も僕の方をじっと見ていた。その表情にはさっきまでの余裕はなく、物凄く真剣な顔で「悪いけど本気で行くからな」って凄んできた。
気持ちは分かるけど、じゃんけんで『本気』とはどういう意味なのか。じゃんけんの必勝法があるとでも本気で思っているのだろうか?
(確かにじゃんけんは心理戦だっていう人もいるけど、そんな技術茂斗にはないのに)
いや、何が何でも勝ちたいという心の表れなんだろうけど。
でもそれを言うなら僕だって同じだ。父さんと母さんが仲良しなのは嬉しいけど、そういう意味で仲良くしている姿は本当に見たくないから。
「茂斗こそ、恨みっこなしだからね」
負けてもごねないでよね?
そう釘を刺して、いざ決戦。結果はと言うと―――。
「ぃよっしゃー!!」
呆然とするのは僕で、ガッツポーズをして喜んでいるのは茂斗だった。
先のじゃんけんで出したチョキの形をした自分の手を見つめたまま固まっていれば、「悪いな!」と腹が立つほどいい笑顔を見せてくる茂斗。
僕が反論する前に茂斗と姉さんは踵を返してその場から離れて行って、行きたくない! と文句を言うことすらできなくなっていた。
「勝負は勝負だし、諦めて呼びに行こうか?」
「虎君……。分かった……行ってくる……」
突っ立っている僕を促すのは虎君で、僕は渋々ながらもそれに従い父さんを呼びに行こうとした。
じゃんけんに負けたのは僕だから当然一人で父さんを呼びに行こうとしたんだけど、何故か虎君は僕の手を繋いでくる。これじゃ一緒に呼びに行くことになっちゃうよ?
「虎君?」
「心配だから俺も一緒に行くよ」
「でも、嫌、だよね……?」
『他人』のそういうところを見たくないと言ったのは虎君だ。
僕は尋ねながらも視線を下げ、俯いてしまう。すると、頭にポンっと乗せられる大きな手。
「さっきは嫌な言い方してごめん。他人なんて思ってないから許してくれないか?」
虎君は僕たちのことをちゃんと家族だと思っていると言ってくれる。
その言葉が嘘じゃないかと尋ねるように視線を向ければ、ちょっとだけ意地悪な言葉が返された。
「茂さん達のことはちゃんと家族だと思ってる」
「それってどういう意味?」
「葵は『家族』じゃないだろ?」
苦笑交じりの言葉にショックを受けるなという方が無理な話だ。
今度こそ本当に泣きそうになる僕は、非難の声を上げることもできず、顔を歪ませてしまう。
「ああ、もう。そんな顔しないで?」
ぎゅっと抱きしめてくる虎君が何を言いたいのか全然分からない。
ただ、僕は虎君の家族じゃないんだって事実が心を重くして、涙を耐えても鼻を啜ればその我慢も無駄なものだと思い知らされた。
「葵は俺の『宝物』だろ?」
「僕も虎君が大切だけど、でも、家族だって思ってるもんっ」
「ん。分かってるよ」
「ならなんで僕だけ家族じゃないのぉ」
「だって家族にエロいことしたいとは思わないだろ?」
家族が良いと我儘を言って泣き声を上げる僕を宥める様に抱きしめる虎君は、ギューッと抱きしめる腕に力を込めて僕にだけ聞こえる声で囁きを落とす。
言われた言葉に泣き声を止めれば、「俺に弟とセックスしたがる趣味はないよ」って笑われた。
「で、でもまだちゃんとしてないっ」
「でも約束、しただろ?」
今度の三連休に葵を全部もらうって言っただろ?
虎君は「だから葵を家族と言いたくない」って抱きしめてくる。
愛してるから、本当に心から愛してるから『まだ』家族にはなれない。と。
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