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僕は特別になんて一生なれない
主人公 神代 青葉(かみしろ あおば)
相手役 榊 巡(さかき めぐる)
他 佐藤(さとう)
はじめてノリで書いたBL小説です。
お手柔らかに^^
↓
僕は特別になんて一生なれない。一生〈普通の人〉として生きていくんだ。何も成し遂げられないまま、朽ち果てて、やがて灰になる。僕は灰になるために生きてきたのか。変な話だよ。何のために生きてんだ。答えはずっと声を潜めたままだ。朝日が窓のカーテンから溢れてきた。そろそろ起きるか。僕は重い体を起こした。
何か起こる日というのは何の前触れもなく来る。なんでもない普通の日。僕はいつもの通りバイトに行き、いつも通り仕事をしていた。今日は、カフェのバイトだ。僕は二つバイトを2つ掛け持ちしている。いわゆるフリーター。もう一つのバイトは事務のバイトだ。大体、カフェのバイトは週2、事務は週3で入っている。カフェはこぢんまりとした路地裏のカフェで、あまり客は多くない。なので、店員は2人でやっている。今日のもう一人の店員は佐藤さんで、彼はいつも無気力で謎な男だが謎の色気がある。佐藤さんは
「はあ~疲れたわ。ちょっとタバコ吸ってくる」
と言い残し外へ行ってしまった。僕はとりあえずすることがないので、物思いにふけっていた。ドアが開いた。感じのいい男の人だ。
「いらっしゃいませ。こちらにどうぞ」
席へ案内する。笑顔で会釈した。その笑顔の素晴らしいこと。こんなさわやかな人間になりたかったものだ。
しばらくして、彼はこちらを向いて遠慮がちに手を上げ、
「すみません」
と僕を呼んだ。僕はすぐに駆けつける
「ブレンドコーヒーのホットとチョコケーキください」
「かしこまりました」
彼にブレンドコーヒーのホットとチョコケーキを運んでから、僕はずっと彼をチラ見していた。美しい横顔にパーマのかかったくるくるの茶髪。上品な動き。なんだか妙に気になってしまう。こんなのは初めてだ。ぱっと目が合った。なぜこちらを見たんだろう。視線に気づいたのか。パニックで顔が熱くなる。でも、はっと気づいた。彼の視線は僕のもう少し奥の人物を射抜いてることを。佐藤さんがタバコから戻ってきたのだ。彼は佐藤さんを見つめている。佐藤さんも彼を見ている。え、なぜだ。と考える間もなく、佐藤さんは彼に話かけた。
「お~!榊じゃねえか! 久しぶり!」
「久しぶりです。先輩も変わってないですね」
「まったくなんでもっと早く来てくれなかったんだよ。あれ、でも教えてなかったっけか」
佐藤さんはわしわしと彼の頭を撫でた。彼はちょっと痛そうだ。
「教えてなかったですよ。なんんで教えてくれなかったんですか。後藤から聞きました」
「すまんすまん。単純に教えるの忘れてたわ。後藤元気にしてっか?」
「まあ、元気ですよ」
彼はなぜか少し曇った表情になった。佐藤さんも珍しく固い表情をしている。
「お前はどうなんだ?榊?」
「まあ、元気ですよ」
「まあってなんだよ。元気出せ」
佐藤さんはバンと背中を叩いた。
「まったく荒いところも変わってませんね」
「なんだ。変わっててほしかったのか? あら、榊さん。わざわざいらしていただいてありがとうございます。みたいな?」
「それも気持ち悪いですね」
「ちっ。うるせえよ」
「ふふ」
「とりあえず、榊は元気そうで良かったよ」
「僕は元気ですよ」
「今度、昔みたいに写真撮りに行きません?」
「いいな、行くか」
「○○市の廃遊園地とか撮りに行きたいな」
「あいかわらず陰気臭いとこ好きなのな」
誰かが僕の肩を叩いた。振り向く。藤堂さんだった。学生の新人。
「何盗み聞きしてるんですか~」
「し、してないです!」
「じーっと見ちゃって」
「うそ。じーっとみてた?」
「はい。お客さんなんだからじーっと見ちゃだめですよ。佐藤さんの友達みたいですけどね」
「ごめんなさい~!」
「ってか、はい、休憩ですよ。行っちゃってください」
「別に今日は疲れてないかな」
「そんなこと言って盗み聞きしたいだけなんじゃ」
「ちがう! 休憩行ってきます!」
あ~あ、とんだ邪魔が入った。
それから数日後、僕と佐藤さんはまた同じ時間にシフトに入っていた。
「そういえば、来週の日曜日開いてるか?」
「空いてますけど、何かあるんですか?」
「お前って、榊のことけっこう気に入ってるよな」
「えっ…! 何ですか急にそんなこと言って。僕は別にですね…」
「最近よく榊のこと聞いてくるもんな。あと、カメラも買ったんだろ。榊と俺とお前3人で○○市の廃遊園地に写真撮りに行かないか?」
「まあついていってやらないこともないですよ」
「なんだ。かわいげの無い奴だな。じゃあまあ行くので決定な。榊にも言っとくわ」
ってなことで、僕たちは出会うことになったのだ。
当日、駅に集合した。榊さんがすでに来ていて、佐藤さんはまだ来ていなかった。清潔な真っ白いシャツが榊さんにとても似合っている。榊さんに会ったことはあるが、話したことがないので、緊張する。榊さんが僕に気づいてにっこりして近づいてきた。
「君が神代くん?」
「はじめまして。神代青葉です。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。榊巡です」
「珍しい名前ですね」
「青葉っていい名前だね。佐藤さんに聞いたんだけど、神代くんと僕は同じ年らしいよ」
「そうなんですか!」
「だから、敬語なしでいこうか」
「それがいいですね」
僕らはしばらくとりとめもない世間話をしていた。
「お~! ごめんな! 待ったか?」
佐藤さんが叫びながら走ってきた。
「先輩。遅いですよ」
「まったくです。もう榊さんと仲良くなっちゃいましたよ」
「ね」
榊さんが、肩を組んでくる。
「良かったじゃないか。お前らタメだもんな。俺のおかげだな」
「先輩の悪口で盛り上がったんだよね」
「そうそう」
「こら~! お前らよくもそんな…俺意外とメンタル弱いんだからな」
「嘘ですよ。機嫌取りなおしてください」
「まあ、そろそろ行きましょう」
バスに乗って20分そこから少し歩いたところにその廃遊園地はあった。昔にぎやかであっただろう場所はボロボロにさびれた遊具と僕らのようなもの好きなカメラマン数人しかいなかった。かつての遊園地のイメージキャラクターの人形がサビだらけになったまま、にっこりと笑っている。しかし、どう見ても不気味にしか見えない。悲しいと一言ではいいあらわせない場所だ。僕らは談笑しながら、色々なさびれた遊具を回って、写真を撮った。3人のうちの誰かが入って、ポートレイトも撮った。僕は扱いなれていないカメラを不器用に持って、パシャパシャ撮った。二人はそれを見かねて的確に色々アドバイスしてくれた。二人とも何かと面倒見がいい。しばらくして、天気が悪くなってきた。廃遊園地の雰囲気がもっと怖く見えてきた。いつのまにか、先輩がはぐれていた。
「佐藤さんどこ行ったんだろう」
「先輩らしいな。ふらっといなくなるのって」
「昔からそうなの?」
「そうなんだよ」
ぽつぽつと、雨が降ってきた。僕らはカメラをかばって、とりあえずそこらへんのボロボロの屋根のあるせまい小屋に入った。雨は激しくなってきた。せまいので、榊さんとの距離はだいぶ近い。榊さんの白いシャツは濡れて少し透けていた。くるくるの茶髪からは水滴が滴っている。僕も同じ惨状だ。濡れているからかけっこう寒い。
「あ~あ、ついてないな」
榊さんがうつむいた。彼の長めの濡れた前髪が垂れ下がって、目を隠している。次に彼が顔を上げたとき、目が別人のようになっていた。なんだこれは。先ほどの榊さんはどこに行った。僕は驚いて、彼の顔を凝視してしまった。
「なんだ。お前。人の顔じーっと見て、誘ってんの?」
榊さんの端正な顔が近づいてくる。濡れてるからか、余計艶めかしい。彼の切れ長の目が僕を挑発的に見ている。
「いや、ちがう。え、っていうか、榊さんどうしたの?」
「どうしたの? って言われてもどうもしてねえよ。バーカ」
「ば、ば、か?」
「つまんねえからおもしろいことしようぜ」
彼は僕に口づけた。舌まで入れてくる。うまい。あまりの心地よさに抗うことを忘れていた。服を脱がされかけたところで、僕ははっと正気に戻って、彼を突き飛ばした。
「いってえ~」
「ちょっと!! 自分が何してるかわかってるのかよ?」
「え? わかってるけど」
「男同士でそんな…」
「男同士だとダメなの?」
「いや、ダメというか…」
「LGBTの人を差別してるわけね」
「ちがう! 榊さんはそれなのかよ?」
「まあ、どっちもいけるけど?」
「それだとしても、僕なんかでいいのかよ」
「いいからやってるんだけど。後、正直俺とやってもいいと思ってるでしょ。だからキスを嫌がらなかったし、僕なんかでという言葉が出てくる」
「そんなわけないだろ!」
「お前は普通に飽き飽きしてそうな感じがする。そうなんだろ? 普通が嫌なら俺と抜け出そう? すごいいいとこに連れて行ってあげるからよ」
「……」
「黙ってるってことは図星だったか?」
「…そうだよ。ははは。その通りだよ。普通が嫌で嫌で毎日退屈だったよ。このまま普通のまま死んでいくのならって、死にたくなることもあったよ。榊さんと会うまではね」
「ふうん…」
「榊さんの笑顔に、礼儀正しさに、しぐさが大好きで。特別になれなくてもいいや。この人の特別になるだけでいいやと思った。とても楽になった。幸せだった」
「そうかよ」
「でも、急にこんな風になっちゃって。迫られて。ためらってる。僕は榊さんとなら確かにこういう関係になりたいと思ってる。けども、キミは本当に榊さんなの? 急に何かにとりつかれてしまったような感じがする。だって、今まで見てきた榊さんと全然違う。こんなに乱暴じゃないし、表情も違う」
僕は榊さんの目をまっすぐに見つめた。榊さんは視線をそらさずに受け止めた。
「残念ながら、俺も榊だ。お前の大好きな榊さんは俺でもあるんだよ」
「そっか」
「いつもそうだよ。こっちの榊は嫌われるんだ」
「かわいそうだな」
「うるせえカス」
「なんか僕は話してて愛着がわいてきたよ」
「変な奴。じゃあ俺とやれんのかよ?」
榊さんが再び近づいてきた。さっきとは違っておそるおそる僕に触れる。捨て犬みたいな表情に僕はやられてしまった。
「うん。いいよ。初めてだから加減してね」
男とやるやり方も知らないのによくそんなことが言えたものだ。
「なんだよお前は。ホント変わってる」
優しく頬を撫でて、柔らかくキスをしてくる。さっきの獣のような目とは違った。ちゃんと僕を見ていた。僕は目を閉じて、ただ彼を受け入れた。
やることはやって、彼は疲れて寝てしまった。しばらく僕も彼と寄り添って寝ていたが、目が覚めて服をちゃんと着て外を見に行った。雨はやんでいた。曇り空は相変わらず立ち込めている。外の景色はなんとも陰鬱だったが、異世界のような感じもする。朽ち果てた廃遊園地と暗い曇り空。僕は冷静になって考えようと努めた。が、考えはまとまらなかった。やがて、小屋から榊さんが出てきた。
「ごめん。なんか寝ちゃってたみたいで。なんか僕変なことしてなかった?」
すぐに分かった。彼は、あの榊さんだ。やはり、記憶はないみたいだ。僕はあっちの榊さんと関係を持っただけで、こちらの榊さんとは何もなかったことになるのか。
「大丈夫だよ。なんともない」
僕は微笑んだ。
「恥ずかしいことに服が乱れてたんだけど、神代君は見てないよね?」
「うん。ずっと外を見ていたから」
「そっか。良かった。僕のこと変な人だと思ってるよね。ときどき記憶が飛んじゃうんだ」
「いや、逆に安心したよ。あのなんでも完璧な榊さんが、こういうところもあるんだって」
「ありがとう」
「帰ろうか」
「そうだね」
僕らは歩き出した。真っ暗で、あたりは何も見えない。でも、大丈夫。彼となら行きつく気がした。終わりのない答えにたどり着ける。
特別にはなれない。でも、誰か大好きな人の特別にはなれるかもしれない。
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