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第1話 二人の戦士、或いは

 蒼穹に白雲が広がる。渡り鳥の形をした影が、女の髪のように靡く草原を染めていく。平穏で、平和な光景。それは獣の咆哮一つで大きく変わってしまう。 「畜生! おそらくこいつは上級だから、慎重に倒せよ!」  草原に立っていたのは数人の兵士だった。司令官のような男がそれぞれに指図しながら、ライオンのような化物数匹と戦闘を繰り広げていた。 「隊長っ、この武器では歯が立ちません!」 「くそ、攻撃を跳ね返された!」  苦戦を強いられている兵士たち。それもそのはず、化物たちの牙や爪の鋭さ、体格の大きさ、纏う雰囲気すべてが強力だった。 「そんなはずはない、弱点を狙え!」  隊長が眉間に皺を寄せて命令する。冷や汗をかいているのを、部下に見せないように。  化物が飛びかかり、兵士の一人を襲う。 「う、うわぁ! たすけて!」  救援に向かおうとした別の兵士が剣を振り下ろそうとするが、化物が剣を咥えると、そのままへし折ってしまった。怯えて引っ込む兵士。 「だ、だめだ! 撤退しろ! 撤退ー!」  非常事態に、逃げ腰になった彼ら。生き残れるかどうかは怪しかった。ここは普段、彼らでも鎮圧できる程度の強さの怪物しか"出てこない"場所であるはず、なのにだ。 「逃げろ逃げろ! 食い殺されるぞ!」  司令塔がそそくさと逃げようとしたその時だ。彼らを追っていた化物の一体に、黄緑色に光った矢が刺さる。呻く化物、思わず振り向く一同。 「あ、あの矢は……!」 「『燐光』だ! やった! 奴らが来てくれた!」  彼らの瞳に、希望の光が宿る。 「退きな」  男の声。反射的にかわしていた一人の兵士の間を縫うように、『水流』が走る。それは緩く弧を描き、もう一体の化物の喉元に命中した。 「あ、貴方は!」 「……いいから逃げろ」  水流の出処は、一本の剣であった。青く発光した剣がそれを纏って操っていたのだ。剣の持ち主は一瞬でその場を離れ、兵士を襲っていた化物の前に立つ。見ると、それにもいつの間にか数本の緑の矢が刺さっていた。 「大丈夫か」  持ち主の長い青髪が揺れる。襲われた兵士は血まみれだったが、一命を取り留めたようだ。ありがとうございますと涙目で感謝していた彼を男は化物の口から引きずり出す。 「いやあ、さすがであります!」  司令塔の男が煽てるように相手を褒める。ふん、と剣の持ち主は興味なさそうに向こう側を向いた。すると別の男が駆け寄ってきた。 「助かりましたよ、セルギウス殿、ドラゴミール殿!」 「褒められてもな。お前らが弱すぎんだよ」  やってきた短髪の男。緑色の左目の下に、瞳と同じ色の紋章がしてあった。手にした光る矢を見ると、どうやら彼が射手であったらしい。……それにしては鍛えられた腹筋を露出するような、きわどい格好をしている。剣を仕舞った青髪の男は鎧を着ているというのに、だ。 「ドラミス、口を慎め。今回のモンスターは此処にしては強すぎる。」  ドラミスと呼ばれたその男ははいはい、と不機嫌そうに手を頭の後ろで組んだ。 「さすがセルギウス殿。その通りでございます。ここ最近襲い来るモンスターの被害が大きくなっておりまして」  ちょっと待て、それは俺を間接的にけなしてないか、と突っ込む男をよそに司令官は困ったような顔でセルギウスに事情を話す。強くなったモンスターに鎮圧部隊が対処できないというのだ。 「あのなおっさん、俺たちは人助けでやってんじゃなくて」 「黙ってろドラミス。」  セルギウスの碧眼がドラゴミールを睨むと、ふん、と鼻を鳴らして相手は黙った。 「……だが我々も報酬がなければ動けない。そちらはどうだ。」 「金でも女でも酒でもなんでも用意する。一週間でいい。我々の都を守ってくれ」  金、という言葉に少しだけ、彼らの表情が柔くなった。互いにアイコンタクトを送り合う。セルギウスが口を開く。 「分かった。契約しよう。……こちらは金さえあればいい。私は酒を飲まないし、」  そして青髪を掻き上げてから、後ろで俺は酒が要る!と駄々をこねるドラゴミールを指差し、 「女は、こいつだ」  目が点になった司令塔の表情を見て、冗談じみた笑みを浮かべた。

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