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第3話 異変のはじまり

 二人は一発ヤり終えてから、身を清めて着替えた。黒を基調とした服を着て彼らは部屋を離れ一階に降り、食堂へと向かっていた。ここの宿のご飯は美味しいのよ、と呪具を身に着けた魔道士の女が他のパーティの男に話していた。確かに、キッチンから良い匂いがする。二人はいつも、メニューを見ない。代わりにカウンターから料理人におすすめのヤツを2人前で、と言うのだ。小さな木製のテーブルに向かい合って座る。先に口を開いたのはドラゴミールであった。 「腹減ったからどんなモンが出てくるか楽しみだな」 「私は君の笑顔さえあれば何個でもパンが食べられるね」  部屋の外を意識して丁寧な言葉遣いで言ったセルギウスであったが、内容は変わらず変態だった。しっ、やめろ、と指を口元に当てて慌てるドラゴミール。 「ほら、あの男に変な目で見られたじゃないか!」  彼は後ろにいたなんとも言えない顔をした男の方を向いた。だがセルギウスは気にしない。給仕が水を運んできたので、すかさず水を一杯呷るドラゴミール。 「変な目で見るという行為自体が変なのだから、悪いのは向こうだ。君は気にしなくていいんだよ」  セルギウスの発言にガン、と水の入ったコップを乱暴においた彼。 「そういう問題じゃねえよ馬鹿!」  小声で騒ぐ彼にやれやれといった風の表情をしたセルギウス。間もなくして給仕が料理を運んできた。 「自家製ハーブのサラダとヴォルティ産豚肉のコンフィでございます。パンは後にお持ちします」  ガラス製のボウルに入った新鮮な緑と、黄金色の照りがあるソースのかかった大きな肉がテーブルを華やかに彩る。 「うまそう、食っていい?」 「命の恵みに感謝しろ、子供じゃないんだから」  先程の怒りも引っ込みすぐにがっつくドラゴミールに対し、軽く祈りを捧げてから丁寧な所作で食事に取り掛かるセルギウス。別にいいだろう、と肉を噛み千切る相手の口から、長い犬歯が覗く。 「……まったく、お前は我慢のできない子だ」  フォークとナイフを行儀よく使いながら、睦言の様に含みを持たせてセルギウスは言う。その下心を把握できないほどドラゴミールも子供ではなかったので、 「欲しくて仕方なかったし、冷めないうちに味わった方がうまいだろ?」  目を軽く細め、舌なめずりをして反論した。  女の噂通り、そこの夕食はとても味の良いものであった。それまでの旅路であまり美味しい食事にありつけていなかった事情もあり、二人は満足して部屋に戻った。この気分のままもう一発――といきたいところだが、夜のお楽しみの前に調べなければいけないことがあった。 「ファラディスもやはり、被害を受けていたか」  地図を広げるセルギウス。そこにペンで様々なメモ書きがしてあった。地図上のファラディスの位置に指をあてるドラゴミール。そこから南の町をなぞっていく。 「南方の町ネルン、ヴォルティ、ガルバにも強力なモンスターが出現した情報があるからな。」 「嗚呼、これは確実に此処を狙うようにモンスターの軍団が北上している」  何か後ろにキナ臭い影があるな、と彼らは勘ぐると今度は地図の北部に注目した。ファラディスの上にある赤い丸は、この大陸の首都ともいえるエレクトラだ。 「ファラディスは内陸の商業都市、北方はカソーダ山脈に囲まれているから、軍勢を動かすとしたら残りの方角から攻めることになる」 「それでわざわざ、一番遠回りな南から攻めるってことは」 「……王都エレクトラを狙うために、港町プールベンから『上陸』したのかもな」  稲妻の形をした大陸をもう一度見直す二人。 「だとしたら、妙に強いのも納得だな。俺達にとってはザコも当然だけど」  ドラゴミールが頬杖をつきながらつぶやく。 「しかしどうしてこの国に強力なモンスターを持ち込んだのか、それが分からんな」  こめかみを指で何度か軽く叩いたセルギウスは考えていた。そこにドラゴミールが意見を出す。 「まさか、『魔王』が動き始めたとか?」 「信じたくないがあり得るな……それも頭の片隅に置いておこうか。」 「……めんどくせぇ、俺達は勇者じゃないんだから魔王退治なんて――」  彼が吐き捨てようとした時だ。カンカンとけたましく部屋のチャイムが鳴る。 「旦那ァ!出番です!モンスターが街に!」  何度も扉を叩かれながら男が大声で彼らを呼んだ。すぐに立ち上がった二人は、立てかけていた武器を手に取り『戦地』へと向かった。

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