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第1話 猪俣先生①

(葵語り) 「葵、葵。起きて。」 やさしい声で名前を呼ばれた。 ここはどこだっけ……。 あぁ、先生と会ってるんだ。 学校から4つ先の駅のシティホテル。 猪俣先生と会う時はいつもここだ。 いつの間にか寝てしまった。 お別れする時間が来たようだ。 ベッドの枕元でネクタイを結んでいる先生を見上げる。 今日の先生は珍しくスーツを着ていた。 背が高くて、腕の筋肉がきれいで、見ていてうっとりする。 この腕で抱かれてると、とろけるくらいに幸せな気分になる。 「葵、大丈夫?1人で帰れる?」 「うん。平気だよ。」 いつも聞いてくれるけど、帰れないって言ったらどうするのかな。 一緒にいてくれるのかな。 「今日はありがとう。葵に会えて嬉しかった。」 もう帰っちゃうんだ。 次会えるのはいつなのかな。 ぐっと涙と言いたいことをこらえる。 帰り際に、長いキスをする。 吸いつくような甘いキス。 離れちゃうと、いつもの日常に戻る。 先生と生徒に戻る。 家に帰って、学校に行って、友達と笑って、部活して。 「じゃあね。」 「うん……」 パタンとドアが閉まった。 帰らなくちゃと、現実が俺を呼び戻した。

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