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140.寮祭始動
姉崎は二年のとき執行部の役員やってた。
二階にある執行部の部屋は『なんかあったら相談に乗るよ、なんでも言って大丈夫だよ』つう意味で設置されてるから、いつ新寮生とかが来てもいいように、極力部屋にいるのが仕事だし、ココだけは鍵がかかる。
だから、なんだろうけど、一年の時はバイトとかもしてたっぽいし外泊もあったらしいってのに、執行部の部屋にいた一年間、ちゃんと部屋にいた。もちろんガッコは行ってたけど、外泊とかしてないって意味で。つうかなにげに講義とか真面目なんだよな、あいつ。
なんだけど副会長になった今は寮にいないことが多くなってる。バイト復活させたんだか分かんねえけど外泊も多くて、寮にいる時間は部屋に引きこもってるし、仕事してる感ねえんだ。
「それって副会長としてアリなの?」
なんて橋田に言ってみたんだけど
「問題無いね」
あっさり返された。
「呼び出せばすぐに来るからね。外出するときは、必ず連絡がつくようにしてるんだ。なにより尾形さんを捕まえるのうまいから役に立つしね」
「ああ~、確かに」
尾形会長って夢中になると時間とか忘れちまうらしくて、研究室とかに籠もっちゃったりして時々連絡つかなくなるんだけど、姉崎はどういう経路か所在を把握してて、呼び出しかけたらすぐ引っ張って来る。なんで俺含め各部長は、会長に話あるとき姉崎呼び出すようになってたりする。各々 会長探すより早いから。
そんで尾形さんがどうしても抜けられない、あるいは抜けたくないときは、副会長二人と執行部で話し合って判断する、つうことにしてくれ、って尾形さんが言ったらしい。そんときも「最終判断はやってよね、会長?」なんつって姉崎が言って、尾形さんも頷いたつうから、マジでツッコミどころに欠ける。
てか橋田は相変わらず忙しくなるとあんま返事しなくなるから、自然と話しやすい姉崎に声かけるやつは多い。
つまり副会長として必要とされてる感じになっちまってる。
そんで姉崎は、どうしても留学生受け入れを呑ませたい、てのを隠してない。寮内の声をまとめて風聯会に何度も行ったりしてんだけど、俺的に賢風寮が元気になるんなら異論ねえし、まあそれは勝手にやれば? なんだけど。
最近、やたらまとわりついてくるんだ。
「ねえ藤枝~、ウネハラっちのトコ行こ?」
とか言って。
「勝手に行けよ」
「だって藤枝と一緒だと、おじさんたちの当たりが柔らかいからさあ。僕一人で行ったらけんもほろろなのに、藤枝いると話は聞くじゃない? だから一緒に行こうよ。車出すしさ」
まあ、行くんだけど。
車で行くからそんな時間かかんねえし、俺もおっちゃん達と会うと、なにげに癒される……ンだけど面倒くっせえんだよコイツ。
「ねえ藤枝、おじさんたちの秘密教えてよ」
とか言ってくるから。
「うっせ! 言ったら秘密じゃねえだろ!」
当然拒否る。男同士の約束なんだぞ? やぶるわけねーだろ、墓まで持ってくつうの。
まあともかく、姉崎は精力的に活動して、九月半ばには食堂前の掲示板にデカデカとポスターが貼られ、全寮に計画書が配布された。
大決定となる前に既成事実を作る、とかなんとか言ってたけど、なんだかんだ寮内の空気は暖まった。
まあ、俺もやりたいって騒いだし、おっちゃんたちも寮祭については態度柔かったし。
姉崎は大学祭実行委員会とも話つけ、十一月の大学祭に便乗して同日程で実施するってことになった。そんでちゃっかり風聯会から予算引き出し、学祭にありがちなやっつけじゃなく、ハイクオリティ目指すとかって言い出したのだ。
なんでなにげに大がかりになっていく。駐車場は屋台村。簡易ステージも作ってイベントやる。食堂と娯楽室は喫茶。一階の面会室でリラクゼーションかなんか。瀬戸発案の荷物預かりは和室で。
そんで俺はこぶし振り上げて主張した。
「二階の集会室を休憩とか待ち合わせに使えるようにしようぜ!」
てか最初っからあそこキレイにしたかったんだよ。床のPタイルどうにかして壁磨いて、机や柱時計磨いたら結構カッコ良くなると思って。
「それイイな!」
とかって、すぐさま実行決定した。
つうかみんなノリノリで、誰かが意見出すと
「おお~!」
「イイなやろうぜっ!」
なんて感じだったし、このノリに乗っかるしかねえじゃん? たぶんエアコン設置があったから、寮全体で活動する空気できあがってた、てのもあるかも。
そんなこんなで、なにげにみんな忙しい。
もっとも多忙なのは、まあ当然だけど施設部。
駐車場に屋台村的なモンと簡易ステージ作ることになったんで、資材の手配して設置作業とかも大車輪の勢いでやってる。食堂と娯楽室が喫茶店になるってのと、部外者が寮内に入るつうんで、露出してるケーブルとかガムテで補修してるだけのトコとか直しとくべ、ってことになったてのもある。んで俺の言った集会室のリフォームもある。
盛り沢山すぎて施設部だけじゃ人手足りないんだけど、エアコン作業ンとき手伝った連中が、自然にそのまんま手伝ってて、施設部はそいつらに指示したりして、マジで大変そうだけど、なにげに楽しそうだったりもする。
ちなみに情報施設部はSNSとか使いまくって宣伝活動。
喫茶で出すもん担当の食堂担当も忙しい。不特定多数のひとが出入りするんで、監察が各現場に張るし、保守は警備するし、なんだかんだ金の出入りがあるんで会計も忙しそう。
そんで総括は皆さまのお手伝いつうか、なんでもやります的な感じで各現場にいて、風聯会に話通しといた方がイイんじゃね? なんて流れになると総括メンバーから部長、つまり俺ンとこに話が来る。
一人が全体把握してた方が後々話が早いって姉崎が言ったのは納得だったし、初めてやることで予定通りに進まねえコトは結構多くて、電話だけじゃマズイかもって思ったら直接話しに行った。
つまり俺だけは事務局、つまりウネハラっちの家にちょいちょい顔出してる。本来の総括の仕事、風聯会とのつなぎをやってるんだけど、たいてい姉崎が「車出すよ」つうから、なにげに姉崎と一緒に行動する時間が多くなってる。
そんでわりと毎回、丹生田がウネハラっちの家まで電車で迎えに来る。
用が済むまで待ってたりするんで、おっちゃんたちも丹生田の顔覚えちまって、なにげに酒飲まされたりしてるっぽい。顔に出ねーけど、帰りの車で良くしゃべるから、たぶん。
だけど丹生田だって忙しいんじゃねえの? 保守の副部長なわけだし、剣道部でも先輩になってるわけだし、さらに丹生田、最近専攻変えたんだよ。部屋でもめっちゃ勉強してるし、ウネハラっちんトコでも勉強しようとしたりしてるっぽい。けど「いいから呑め」とか阻止されてるっぽくもある。
つうか電車代だってタダじゃねえし、いつも効率第一な丹生田なのに、らしくねえじゃん、どしたよ? とか思うわけ。そんなん、心配になるじゃんね?
「忙しいんだろ? いいよ、自分の勉強とかやってろよ」
だから言うんだけど、丹生田は唇真一文字にして眉寄せ、ちょい困った顔になるだけだ。
「そうだよ~、僕が車で送り迎えしてるんだから安全だって~」
とか横から姉崎が言うと「黙れ」なんて姉崎を睨んだりしてる。
「な~に、そんな顔して」
「おまえを信用出来るか」
「やだなあ、藤枝に手なんて出さないよ~。面倒なことになるに決まってるモンね~」
通常営業でヘラヘラの姉崎は、男とセックス出来るつってたけど、丹生田がタイプだとか言いやがってたから、そんな心配いらねえんじゃね? とか思いつつ、後部座席に並んで帰る時間はなにげに嬉しかったりする。
ここんとこお互い忙しかったから、こういう感じでしゃべる時間って無かったし、姉崎いるから突っ込んだ話できねーけど、まあイイかって感じ。
てかホテルでエッチしてから、やっぱ二人っきりだと、こんな感じでしゃべれねえつか。……ちょい気まずいつうか。あんま部屋で二人になること無えのって、俺が忙しいとかって避け気味になってるからってのもある。
それにじいさんの同期、根津っちが言ったんだ。
「最近来てるあのデカいのだが、ありゃあ友達か」
懐かしそうに笑いながら。
「なんとなく似てるわ。藤枝も若い頃はあんな感じだったんだぞ。図体でかくて無口で、いつも怖い顔でムッスリしておってなあ。保守のアタマとして迫力はあったが、怖がる連中もいた。実際は気の小さい、優しい奴だったんだが」
そっから他のおっちゃんたちも話に入ってきて
「そうよ、留学先から戻って、人が変わっとったんで驚いたなあ」
「おう! ガイジンの嫁連れてきてなあ。あの嫁がきっつい女だったから、藤枝さんも鍛えられたんだろう」
「着るもんもいきなり洒落やがって、馬なんぞ乗るつうから仰天したもんだ」
ガハガハ笑い声も飛び交って、昔話に花咲かせる感じになったんで詳しくは聞けなかったんだけど。
つうかそうじゃなくても聞けねえ。
だって……
寮に来て初めて丹生田の顔見た瞬間になんかスパークして、なんのミラクル? とかテンション上がって
(あれって一目惚れっぽかったよな)
自覚したのはだいぶ後だったけど、最初っから、うん、ホント最初っからだ。
丹生田から目が離せなくて、そんでガラスハートだとかカワイイとかカッコイイとかキレイとか、そんなんでいちいちテンション上がって、楽しくて、なんか嬉しかったり――――
(それって、じいさんに、似てたから……なのかな)
じいさんのこと、大好きで。
じいさんたちみたいになりたくて。
そんでここに来て。
(そこでじいさんに似てる丹生田に逢った……)
今まで丹生田のこと、じいさんに似てるとか思ったことあったっけ? 分かんね。なかったと思う。けど
(無意識に…………)
丹生田を、じいさんの、代わりにしてんのかな……?
それって超失礼なんじゃね?
三回エッチしたけど、気持ち良かったしキスとか抱きしめたりとか嬉しかったけど、でもでも、なんかちげーつか違和感つか、そういうのもあった。
そんでも自分でお願いしたんだし、後悔なんてしねえって丹生田に言ったし、グジグジすんなって自分に言い聞かせてたトコもある。
セフレ扱いにちょいがっかりしたけど、そんなんしょうがねえじゃん。丹生田は本当は女の子が好きなんだし。
むしろぜってーありえねーと思ってたのに、エッチできただけでも超ラッキーなんだって、そう思ってたけど。
そんならさ、こっちがじいさんの代わりだと思ってるとしても、お互い様なんかな? とか、そもそもじいさんだと思ってンなら触りてーとか思うのか? とか――――うぅぅあぁ~~~っ!
もう、もうもう、もうゼンッゼン分かんねえっ!
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