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142.頑張る総括部長
施設部と違って総括でなにやるってワケじゃねえ。けど部長はドシッとしてろとか言われたけどね? 風聯会のゴーサイン出たわけだし、もうイイじゃん? なんで動き回ってる。
それに寮内あちこちで作業してる中には当然、総括メンバーもいるしさ、じゃなくても寮内知り合い多いしさ、みんな作業とかしてるわけで、そうなったら進捗とか聞いたりしたいじゃん? そんでついでに手伝ったりもするじゃん? 特に集会室は俺が言い出しっぺだしさ、家具とかの手入れしてたら黙ってらんないしさ、当然そうなるよね? そんで総括部長の仕事だってあるわけだからさ、ヒマじゃなくなったつか。
それにマーケティング研、俺たちの代になって『ドSさが薄れた』つう風評があったりしたんだけど、別にいんじゃねとかって楽しくやってたら、なぜかOBからヤキ入って、慌ててテコ入れしなきゃな流れになって……つっても俺は厳しくとかあんま得意じゃねーから、そこは他の連中にお任せしつつ、俺も頑張って厳しい雰囲気醸してみたりとかさ。
もちろん自分の勉強もしなきゃだし、まあまあ忙しいんだよね。いやマジで。
「おい」
ホント忙しくて疲れちまって、部屋に戻ったらベッド直行、会話もなにも無く寝ちまうくらいだったりするわけ。
だって起きてるとそこには丹生田がいたりするわけで、そんでなんかあったりしたらヤバいし。なんかってなんだ? いやホラ、それはさ……って、いやいやいや考えんなっての
「おい聞いてんのか」
考えんなよ、考えちまったらヤバいだろっつの、そう……いやいやいや、だからホラ、なんもねえんだけど、なにげに考えちまうつうか。なにをって、だからナニをだよ。考えちゃマズいこと考えちまうつか言っちまいそうになるつかだから考えんなっつの! なんもねえんだから考えんな考えんな――――
「おいっ!」
スパーン! つう音が耳に響くと同時、頭がデスクに打ち付けられる。
「てー!」
激しく痛んだデコ抑えつつ、バッと顔上げ怒鳴りつけた。
「なにしやがるっ!」
「……さすがお偉い部長様」
地を這うような声を出したのはファイルを手にした仙波だ。爽やかなほどの笑顔、なんだけどなにげに……
「お忙しいのは重々承知しておりますとも部長様。ですが月に一度の部会ですよ部長様ぁー?」
「あっ、いや」
いや仙波大先生? がっつり真っ黒風味なんすけど?
つかヤバいヤバい、これヤバいヤツっしょ!
「超多忙な中を縫ってお越し頂いた以上、こっちは短時間で済ませてやろうって考えてんだよっ!」
尻上がりに怒声になってく声と共に、スパン! とファイルの背が頭頂部に叩きつけられる。
「いてっ!」
ファイルを手で払いつつ怒鳴る。
「やめろっつのいってーな! 聞いてるって!」
「ほー。じゃあ言ってみ。今俺らが話してた内容、一言一句間違えずに全て言ってみ」
「えっ、いや」
救い求めてなんとなく周りに目を向けるが、呆れ顔の池町と片眉上げた田口のうさんくさい笑み、その他総括メンバーが苦笑したりため息ついたり…………なんかいたたまれない。
そんな中、わざとらしく、はぁ~、とか声混じりのため息と共に聞こえた「おまえさあ~」かったるそうな声。
「なんか悩みでもあるん~?」
ドッキーン! として、どっと汗吹き出しつつ「え、いや!」とかキョドり気味に声の主、大熊さんを見る。
そういう話題やめようよっ! つうか聞かれたって言えねえし困るしっ!
(つか誤魔化さねえとっ!)
焦りまくってくちパクパクしてたら「ああ~言うなよ~」だらしなく座ったままの今時イケメンが手を振った。
「悩み告白とかマジで勘弁して。どうせどうでも良いような話だろ~」
ヘラッと笑ってっけど半目だし超面倒くさそう。でもちょいホッとする。
「そうじゃねえってんなら俺らがなんか言ったってどうなるモンでもねえだろうしぃ~。でもよぉ、仙波とかぁ? 田口とかぁ?」
言いながらそれぞれをビシッと指さし、ギクッとした仙波を見て満足げにニヤッとした後、笑みのまま肩すくめた田口にチッと舌打ちしてから、ギッと音がしそうに睨む視線を向けてきた。
「うぜーくらい心配してやがったぞ~」
めっちゃ声低い。つかこれアレだ。『俺の仕事増やしやがったな~』とか言うときのアレだ。めちゃ怒ってるっぽい。
「なにがあってもいいんだけどよぉ~、部会くらい平常運転しろや~」
「……あー……はい……」
このイマドキなイケメンは、チャラいし最悪にいい加減なんだけど、かつてなにげに厳しい部長だったわけで、やっぱこういうとき迫力あったりする。
「アタマなんだぞおまえ~。ちゃんとしろや。面倒くせえだろ~が」
シメるときはシメるっつか、こういうときはおっかない。要領イイつか仕事出来るし、こういう厳しいトコがあったからアタマとして成り立ってたんだよな。
そんで俺はこういう厳しい感じ出すのって無理だったりするわけで、(こういうトコが足りないんだよな俺って)なんて今さら自覚して、シュンと頭が落ちる。
「だからよぉ、部長なら何があろうとツラっとしてろって~の。アタマやる極意ってやつだぞ~。聞いて無くても聞いてるフリして誤魔化しきれや~、そんで俺にこんな事言わせんなー? あ~面倒くせえ」
ヘラッと言われ、アタマ落としたまま肩まで落として深いため息をついた。
(一瞬尊敬しかけて損した)
人には厳しいのに自分に甘くていい加減。そういうの嫌だって思ってた連中も少なくない。俺自身そうだった、とか今さら思い出し、若干ムッとして顔を上げると、仙波が苦笑しながらファイルで顔扇いでた。つまり当たらずとも遠からず、てコト?
つっても無理だって! 親にすら全部顔に出るって言われてんだからな! そうそう変わるかよ!
「あ~もしかして就活?」
とか声がして、え、と目を向けたら「やっぱそうかあ。俺もなあ」なんて笑ったのは、同じ経済学部、二年になってからスカウトした鮎田。ココんとこ就活で不在がちになってるし、食堂でもソレ系の愚痴こぼしまくってる。
「ソレとコレとは違う話だろう」
眉寄せた仙波が口を出すと、「おまえは院に上がるんだっけ?」鮎田が聞き返す。
「まあな」
「つっても院卒で就職って難しいつうじゃん。今就活しといた方が良いんじゃね?」
「哲学部なんで、今すぐだって就職は厳しい。なら院上がっても変わらねえかな、ってな」
「へえ~、大変だな」
そっから就活話が盛り上がり始めた。みんな色々考えてるっぽい。そういや峰とか荒屋とか山家とかも動いてるって言ってたな。
そうだよ先輩たちも就活してるじゃん。安宅さんとか公務員試験通って官公庁訪問とかしてたし、小谷さんは警察に行くらしいし、ああでも大田原さんは余裕だった。実家継ぐらしいし。そういえば庄山先輩って司法試験受かったンかな。
なんて必死に考える。だって今悩みってなんだ? とか聞かれたらっ! なんて言えばっ!?
なのに。
(……丹生田も)
とか浮かんで、いやいやいや、と打ち消す。ヤバいっしょヤバいってヤバいんだから!
だからだから逸れた話に乗っかるしかねえだろ就活の話題考えろ俺っ! そうだ就活だよ就活……就活? あれ?
つうかゼンッゼン気にしてなかったけど、マジで考えねえとダメなやつなんじゃね? つかヤバくね? そういうの考えなきゃな時期なんじゃ……
どんどん汗吹き出してくるの、手のひらで拭ったりしてたら仙波の目がこっちに向いて、いきなり厳しい雰囲気醸された。
「あ~その」
慌ててシャキッと背筋伸ばす。
「あっ、じゃなくて済んません。ちゃんとやります」
「……じゃあ要約してやるから聞け」
ため息と共に仙波が話し始めたんで、今度はちゃんと聞く。つまり活動報告してたのに意見求められて黙ってたから怒られた、つうことだった、らしい。……情けねえ。
ココんとこ寮祭準備で部屋の行き来が激しく、自分の部屋じゃねえトコで寝るヤツが続出してる。そのためリネン類の交換がうまく行ってないとか、そういう話だった。
とりあえず話が悩みうんぬんから離れたことにホッとしつつ、改めて気合い入れる。ちゃんとしねえと!
部屋で飲食して、そのまんま雑魚寝してたりするから衛生面が心配とか、生活が不規則になって病気併発とかマズイだろ、なんて意見が出ると、寮祭まで二ヶ月程度ならほっといても問題無いんじゃ? とか楽観的な意見が返る。とにかくどうする、具体的にどんな方策立てる? いやそもそもそれ必要か? なんて紛糾し始めた。
みんな真面目なんだよな~。約一名、元部長の大熊さん以外、だけど。髪弄りながらだらしなく座ってる大熊さんはぜってー聞いてねえ感じ醸してる。そういや部長やってたときは、いちお聞いてるって感じだったな。あれって誤魔化してたのかな。
ともかく、みんな真面目に意見出してるわけで、どれも一理あるなあ、とか努めて冷静に聞く。保守とか監察と連携が必要だろ、とかいう話になってきて収集つかなくなってきたんで「ちょいまち!」手と声を上げるとみんな鎮まった。
「つうか他部との連携なんて話になったら俺らがココで決める事じゃねえし、ちょい待って。なんなら執行部集めて話合わねえとだし、結果どう転ぶかわかんねえし方針決まるまで時間かかるかもしんないし、とりあえずいつも通り仕事しといてくれ。部屋の行き来とかは今だけだと思うしさ、そこまで深刻に考えなくてもイイんじゃねえかな、と俺は思うけど場合に寄るだろうし、判断つかないときは、今まで通り俺か仙波か大熊さんに聞いて。俺らで考え統一しとくし、誰か部室にいるようにするし。……それでいいよな?」
仙波と大熊さんに目を向けて聞く。大熊さんが片手上げ、仙波がニヤッと頷いたんでホッとする。
エアコン設置のとき、俺は考えてた。自分に足りないのはなにか。
大田原さんみたいに、は無理だよなつう結論が出たのは、やっぱ仕事自体違うんだし同じコトしても当然、同じ結果は返らない、と分かったから。そもそも俺と大田原さんじゃキャラかぶりまったく無いし、考え方もゼンゼンちげーし、同じコトすんのは無理だなって。
あんときは時間的余裕も無かったし、まんまでイイだろとか橋田や大田原さんが言ったんで、『ま、いいか!』にしたんだけど、ココんとこ色々考えてる中で大熊さんが言ってた部長の心得的なこと思い出してた。
『部長はなるべく働くな。適当にやらせとけ。言いたいことは真打ち登場って感じで最後に出せばいい』
最初に言ってたんだけど、そん時は分かんなかった。むしろ大熊さんの言うことなんて、とか思ってたトコもあったんだけど、ちょい分かって来たつうか。
俺ってどうしても自分の勢いで突っ走っちまうから。
仙波が冷静にフォロー入れてくれてたんで結果的にまとまった感じにはなってたけど、それじゃダメなんだ。先頭立って突っ走るんじゃなく、まず聞いとく。聞きながらアタマん中まとめる。そんで最後に言うってのをやってみるかなって。そんで仙波に相談してみたら「やってみな。マズかったらフォローしてやるよ」つって言ってくれたし。
そんでやってみてんだけど、今んトコまあまあうまく行ってるっぽい。フォローとか入ってないってコトはそういうコトだろ?
なんて思いつつみんなの顔を見る。不満な感じは見えないなとホッとしてたら、大熊さんが「つうか~」と手を上げた。
「わりいけどさあ、俺就活あるから部室番パス」
「え、外資系で内定出たんじゃなかったんですか」
聞いた仙波に、イケメンはニヤッと笑う。
「なんだけどね~、本命がこれからでさぁ」
「これから動くんですか? 卒業まで半年切ってるのに?」
「うん、まあ色々とあんのよ。で~、もうちょい忙しいんだよね~。だからパス。本番はキッチリやるから勘弁して?」
ヘラッと笑ってるけど目がマジつうか怖いつうか。本気でやりたくねえっぽい。
まあいっか、自分が二人分部室詰めすりゃいいし。
「了解っす」
と快諾する。仙波がちょい眉寄せてたけどイイ。つかむしろ仙波詰めなくてイイよ。サークルの時間以外、俺一人でここにいるよ。
だってどうせ考えちまうんだもん。部室に詰めなきゃって理由がちゃんとあれば大いばりで言えるし。
誰にって丹生田に。
避けてんじゃねえよ、仕事が忙しいんだよって。
そう言えるじゃん。笑ってさ。
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