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真夜中の出会い
「あの、いま時間ありますか?」
ある日俺は男にナンパされた。
もちろん、この町はそういう町だから、何ら不思議ではない。
でも、目の前の男はそういうこととは無縁そうな、どちらかというとノンケの部類に入るだろう。
「それは、ナンパというか、セックスのお誘いってこと?」
いつもなら甘く返事をするのだが、今日は念のためストレートに尋ねる。
彼は小さく頷いた。
「そうです。俺を、抱いてください」
明日は土曜日。俺も休みで彼も休みだそうだ。
少しだけ鼻が曲がっているが、顔も好みの顔だし、悪くはない。
「じゃあ、ホテル行こうか」
俺がそう言うと彼は頷いて、一緒に近場のホテルへ向かう。
綺麗なエントランスのホテルはこういうことがあった時によく利用するホテルだ。
一番ノーマルな部屋を選び、エレベーターに乗る。その間彼はずっと俯いたままだった。
部屋に入り俺が荷物を置いてスーツを脱ぐと、彼も慌てて服を脱ぎはじめた。
顔に似合わず鍛え上げられて引き締まった体と、所々にある青痣が気になったが、今さら止めようとも言えない雰囲気なのでその言葉は飲み込んだ。
「すみません、俺こういうの初めてで、俺、どうすればいいですか?」
「なにもしなくていいよ。ところで名前は?」
「藤沢一樹、です」
「一樹くん、ね。俺は原田透。よろしくね」
「えっと、透さん……って呼んでいいですか?」
「いいよ」
意外と可愛いところもある。
一樹くんにはうつ伏せで寝てもらい、お腹のところに枕を挟ませた。
ローションを使って初めてだという一樹くんのアナルを丁寧に解していくと、苦しそうな声とは裏腹にふっくらと、吸い付くように開いていく。
「一樹くん、本当に初めて?」
「はじ、めて……です、うぁっ」
一樹くんの中から指を抜いて、ピタリとゆるんだ入口に俺のそれをあてがうと、ピクリと一樹くんのお尻が揺れた。
「入れるよ? いいね?」
「は、い。痛っ!」
「力抜いて、息吐いて……ほら、もう全部入ったよ」
「ぐ、あ……はぁ」
じっとりと汗をかいた一樹くんの首筋に張りついた襟足の髪を触る。
「動くよ」
「……ひぅっ!」
ズルリと半分くらいを引き抜いてそこにローションを足してまた全部埋める。
「あっ、やっ!」
「いいよ、一樹くんのナカ、熱くて気持ちいいよ」
「ふぁ……んっとお、るさんああっ!」
「前も触ってあげるね。あれ? もう勃ってんじゃん」
初めてで、後ろに入れられて勃つわけないと思っていたけど、一樹くんは違うらしい。
恥ずかしそうに耳まで赤くして震える一樹くんに、俺はどうしようもなく興奮した。
「へえ、チンコ初めて後ろで咥えて、興奮してんだ。一樹くんはスケベだね。ノンケのくせに、男にエッチのお誘い自分でしてくるくらいだもんね。相当スケベだよね」
「ヒッ! だめ、前だめ!」
「なんで? ほら、イケよ、ほら!」
一樹くんのチンコを上下に擦ると、呆気なく果てた。
シーツと俺の手が汚れる。
そのまま一樹くんの腰を掴んでゴツゴツと腰を動かす。
「ねえ、なんでナンパしてきたの? お尻の穴ズボズボされて、女の子にしてほしかったの?」
「おんな、のこ……違っ、ああっん」
「ほら、一樹くん、ここ突くと女の子みたいな声出すんだよ」
「あうっ、あ、あん! ひぅ、うぅ……」
「一樹くんの締め付け、イイよ……俺もイキそう」
「ひぁ……あっ、ああっ!!」
「う……くっ、イク!」
深く腰を一樹くんのお尻に打ち付けて、コンドーム越しにぶちまけた。
ゆっくり一樹くんの中から自分のを引き抜いて、ぐったりとうつ伏せのままの一樹くんを見ると、一樹くんは寝ていた。
「なんなんだ、この子」
風を切るような音で俺は目を覚ました。
ホテルには窓がないので時間帯は分からないが、恐らくは朝だろう。
ゆっくりと体を起こすと、一樹くんがボクサーが練習でするような、いわゆるシャドーボクシングをしていた。
「あのさ、何してんの?」
「あ、透さん……おはようございます」
「あー、おはよう。あのさ、一樹くん何してんの?」
「え? シャドーですけど。本当はロードワーク行きたかったんですけど、ドアの鍵が開かなかったんで」
「まあ、ここラブホだから。じゃなくて、なんでそんなことしてんの?」
「えっと、俺の日課っていうか、仕事みたいなもんだから。あの俺、キックボクシングの神撃って団体の所属選手なんですよね」
「は?」
「俺試合で負けたことなくて、なんていうか、俺、めちゃくちゃにされたいのに誰も俺に勝てないから、こういうのだったら誰かにめちゃくちゃにしてもらえるかなって……」
スマホで一樹くんの名前を検索すると、試合中の写真やウィ◯ペディアにも名前や戦歴が載っていた。
試合中の写真なんかは流血しながら対戦相手を睨んでいる写真などもある。
ああ、だから青痣があったり、綺麗な顔立ちなのに鼻が曲がっていたのか。
俺はこのあとボコられたりするんだろうか。
「あの!」
「な、なに?」
「俺、透さんとまたセックスしたいです。その、透さんSっぽかったから……もっと、酷くしてくれますか?」
昨晩の一樹くんの顔を思い出す。
正直俺自身はサドっ気はないと思っていたのだが、あのときの興奮はそういうことなんだろうか。
「……じゃあ、とりあえず連絡先交換しよっか」
「はい!」
一樹くんは笑顔で返事をした。
なんとなく、獰猛なドーベルマンを手なずけたような気分にも似た気持ちだが、顔も好みの顔だし、よしとしよう。
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