1 / 1
嫌いになれない
これは、いつかの話。
「ねえ、リノス」
「どうした?フレイラ」
街道を歩いている最中、不意にフレイラは立ち止まり、それに気付いたリノスは振り返る。
血のように赤い、1つに束ねられた長い髪を風に遊ばせ、不思議そうな顔でフレイラを見つめている。
最初の不思議な出会いから、ずっと旅をしてきたが、それでも疑問だった。
「どうして、僕を傍に置くの?」
幾度となく聞いていた問いだが、どうしてもいつもはぐらかされてしまう。
だから、思った時に聞いてしまう。
「? いつも言ってるだろう?俺はアンタが好きだ。だから、傍に置いてる」
「具体的に、どういう事なの?」
好き、と口で言うのは簡単なことだ。
それに対して、リノスは態度が伴わない。
好きなのかも知れないことは分かる。
口付けに始まり、それこそ夜の営みも、求められているのは自分だけだ。
それでも、それだけなのだ。
別にデートがしたいとか、そういう事を言っているんじゃない。
多分、価値観が違うだけなのかもしれない。
だが、だからこそ。
「リノスの言う好きって、どういうこと?」
自分は、身体しか求められていないのではないか。
そう思い、フレイラは少し悲しそうに聞いた。
リノスは意図が上手く掴めないのか、眉根を寄せ考えているようだ。
「俺の言う好き、ってのは……なんて言えば良いんだろうな?」
うーん、と頭を捻るが上手く出て来ないらしい。
「……もういいよ」
これも、いつもの流れ。
やはり聞いたところで答えは出てこないのだ。
諦めて歩き出し、リノスを追い越そうとしたところで、不意に腕を掴まれる。
「うわあっ!」
「ちょっと待て、まだ答え言ってないだろ?」
そのまま引き寄せられ、体勢を崩しかけたフレイラはリノスの胸の中にすっぽりと納まる。
リノスはお世辞でもなんでもなくイケメンだ。
流石にそんな相手が自分の目の前に居るというのは心臓に悪い。
鼓動が早くなり、顔が赤くなっていくのは自分でも分かっていた。
「な、何するのさ」
「フレイラ、俺の顔を見ろ」
「な、なんで……」
赤くなっている顔を見られたくなくて、逸らしていた。
だが、嫌がっても、抵抗しても、顎に手を置かれ無理やり顔を向けさせられる。
「や、やだって……っん」
そのまま口を奪われ、そして口内を侵食していく。
ぬるりとした舌が入り込み、全てが混ざっていくような感覚に襲われる、
「んぅ、ふっ、あ、っ」
「…………」
何も言わずにリノスは口を離した。
銀糸が後を引き、太陽光に反射する。
「俺には、俺の思う好きってことが上手く語れないが、好きなやつとは離れたくないと思う。それが、フレイラ、アンタだってことなんだ」
真っ直ぐと目を合わせ、純粋にそう言うものだから、顔を赤くしながらも笑ってしまう。
「……ははっ」
「む、折角の告白を笑うなよ」
「ごめんごめん。……それが聞けて、安心した」
ホッと胸を撫で下ろす。
やっぱり、どれだけ不安になろうと、嫌いにはなれないのだ。
嫌いになるには、純粋すぎる。
「……さ、次の街まで早く行こう」
「おい、俺に聞いといてアンタの答えは……」
「え、何言ってるの」
フレイラはきょとんとした顔をすると
「好きじゃないわけ、ないでしょ?」
盛大の微笑でそう告げた。
これは、いつかの旅路の話。
ともだちにシェアしよう!