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第2話
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テストの日というのも理由の一つだろうけれど、今日はいつもより早めに登校する生徒が多かったらしい。
吉沢 遥希 がホームルームの十五分前に教室の扉を開けた時にはほとんどの生徒が席について何やら盛り上がっていた。
「おはよ。」
「おはよう。」
コートをロッカーに入れてから席に着いた遥希 に近くにいた女子数人の視線が集まった。
「何?」
「吉沢くんの机の中、なんか入っとらん?」
そう言われ、遥希は大して物が入っているわけでもない机の中を体を屈めてあらためた。
「なんかって、もしかしてこれ?」
小さなカードを取り出して見せると、やっぱりとでも言いたげな満足そうな顔でうなずき合っている。
登校しているこのクラスの生徒全員が机の中にカードがあるのを確認していたため、男女関わらず全員に宛てたものだろうと既に結論が出ていた。
少し緊張した面持ちで遥希はカードを開いて一通り読み、驚いた表情をして顔を上げた。
「何、これ。」
「ねえ、何やろうね。うちのクラスだけみたいなんだよ。でもK.I.なんてイニシャルの子はおらんし、女子の机にも入っとったの。バレンタインにしては謎だよね。」
何も言わずに曖昧に頷いて同意を示す。普段から聞き役に回ることの多い遥希はさり気なく会話から抜けようとしていたのに、こんな事件のせいか今日は話の輪から外してもらえなかった。
「誰か心当たりない?」
微笑みとも困惑とも取れる表情で首を横に振った遥希に、「だよね」と全員が頷いてくれる。
「他のクラスの子が机の場所を特定できずに全員の机に入れたとか?」
「えー、好きなら知っとるでしょ。つか、カードよりチョコ入れろよ。」
「あははは、そうだよ、みんなにチョコ配ってくれ。」
「カード入れたってことは連絡先知らないんだよね。ストーカー?」
「ストーカーならなおさら席も連絡先も知っとるはずやて。にしても全員分手書きとか暇すぎやし、英語で書くとか、意味が分からんわ。」
かしましく推理が繰り広げられる中、話の継ぎ目に小さな声で割り込んだのは遥希だった。
「進路が決まってて、余裕があるやつなんやないの?」
おずおずと言った遥希に女子たちが同意している向こうから、ぱっと視線をよこした生徒がいた。
「ハルはそう思うの?」
女子の一群の後ろで別の生徒と話しながら真剣にカードを見つめて難しい顔をしていた谷津 敦人 だった。
「そうなると少しは限定されるけど、イニシャルがK.I.だからこのクラスの子じゃないし、推薦決まった他のクラスの子がわざわざやったってこと?」
敦人の問いかけに周りにいた全員の視線が再び遥希に集まると、場の中心になった本人は何回か瞬きをして困ったように視線を泳がせた。軽く握った手の甲で口元を隠しつつ何か言いかけたのに気付いたのは敦人だけだった。
「じゃあ、谷津 くんは何だと思うの?」
答えを待ちきれず、遥希の代わりに話を拾ったのは隣にいた女の子だった。遥希が何か言うかと待っていた敦人は、目を伏せた相手を不思議そうに見つめてから話しかけた女子に向き直った。
「俺も分からん。でもここまでやるのって本気に見えん? つか、その割にこれスペル間違っとるよな。」
「えーどこ?」
「おーい、席につけー。ホームルーム始めるぞ。」
どれどれと周りが覗きこんだところで、敦人達の会話は担任の到来で遮られた。
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