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第77話

 そんな平和な旅路も終わりが近づき、最後の小高い山を下っていると、海のそばにある防壁の内側が見えた。  あれがスウェンマリナ。  その街は、近づくほど美しいことがわかった。建物のほぼ全てが白を基調とした清廉な外観で、空と海とのコントラストが眩い。  道を様々な生き物が埋めているところを見るに、活気もあるようだ。  空飛ぶクラゲや半魚人、サハギンなど、海辺に住む魔族たちが商店や港を行き交っている。  アゼルの視察が終わってからだが、あそこに行くのが楽しみだな。きっと見ているだけでも心躍るだろう。  山を下り終えて直線の道を行きながら、ふふふと笑みを漏らした。──ん、だが。 「なぁ、アゼル。そろそろ止まらなければ、街門にこのまま突っ込んでしまうぞ」 「ウォンッ! ウオォォン!」  ええと、申し訳ない。『俺に任せろ』感がある猛々しい声をあげられても、俺には翻訳不可能だ。  街はどんどん近くなるのにスピードを緩めないアゼルに困って声をかけるが、その返事の魔物語がわからない人間の俺。  そうこうする間に街の入り口が目の前に迫り、あわや激突か! と思った途端。 「ぅひぃっ」  ゾンッ、と俺を乗せた巨体が勢い良く跳び上がり、街の壁の上を舞った。  予期せぬ出来事により、内臓がせり上がる感覚がして、一瞬変な声が出る。  しかしアゼルは浮かれた速度で空を駆け、空中に防御壁を地面と平行に張って、小さな足場を作った。  それを走る速度に合わせて複数展開し、軽やかに街の上を駆けていく。  スタンプ感覚で張っているが……その速度で防御壁の展開は、人間なら不可能だぞ。魔王のポテンシャルはとどまるところを知らないのか。  飛び跳ねていても相変わらず素早い動きなので、街の魔族たちには黒いものが空を横切ったくらいの認識しかできないだろう。  しかしその実、ぴょんぴょんと走るアゼルの背では、俺がたまヒュンに耐えているのだ。 「ぁわ、あわ、うぁあ……!」 「アゥ、アゥ、アオーーンっ」  くっ、人の気も知らずご機嫌な吠え声をあげてかわいいじゃないか、くそう……!  アゼルの機嫌がいいことはいいことだ。  俺の玉なんて尊い犠牲である。三半規管もシェイクされているが。  ヒュンヒュンとしながらもどうにか耐えて目的地を探すと、海岸線の端に高い石垣で囲まれた要塞が見えた。  あれが海軍本部らしい。  わふわふと浮かれながら駈けるアゼルは、あそこに直接行くのだろう。グロッキーの俺を乗せて。  ──うぅ……あとで嫌というほどもふもふさせてもらうからな……!  心の中で泣き言を吐いて拳を握ってみせる俺は小さくため息を吐いて、少々青ざめた困った顔でアゼルにしがみつくのみであった。

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