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第114話

 するとアゼルはバッ! と勢いよく顔を上げ、後ろでブンブンと必死に首を横に振り始めた。振り返らなくてもわかるくらいの速度でバババババッ! と振っている。 「バッ、いっ嫌ならしねぇッ! つまり、そういうことだ、そういうことだよ天然エロ……ッ! クソ……うぐぐ、お前はどうしてこう、前向きに卑屈なんだ?」 「て、天然エロ……? ポジティブな卑屈ってなんだ……? いや……だ、だってアゼルは優しいからやっぱりイマイチと思っても俺を引っペがしたりしないと思ってだな……」 「馬鹿野郎っこの俺にとってはイマイチと対極の体だ! 当然ちゃんと興奮してる、すげぇ勃ってる……!」 「イマイチの対極がわからないが……そうか、勃ってるか」 「ったりめぇだ! …………うぉあぁぁ~……ッ!」  アゼルは俺の言葉に唸るように吠え、すげぇ勃ってる! のあたりで脇の下を通し、胸元を揉んでいた腕で俺の体をグッと自分の体に引き寄せた。  すると尾てい骨あたりに熱く硬いものがグリ、と当たる。  なるほど。男の特権だ。  これ以上ないくらい言葉のいらない安心の証明だな。  しかしアゼル、それは俺にバレないようにしていたみたいで。 「うへぅ、お、おれへんたいになる、うへぁ……!」  勢いでキレ気味に暴露したアゼルは「終わったァァァ……!」とか細い悲鳴をあげながら、グリグリグリグリと額を項に擦りつけてきた。  項が痛い。いや痛くない。  熱い。摩擦熱、恐るべし。 「……そうか、俺の体に触れてそうなってくれているのか。そうか」 「ひと思いに殺してくれぇぇぇ……っ」  モニモニと唇がまごつく。緩みそうな頬を引き締めようとして失敗したような、変な顔になった。  アゼルはなんだか嘆いているようだが、ちっとも問題はないのだ。  変態でもないし殺したりするはずない。なぜなら俺がアゼルに恋をしているからである。  だって俺に興奮してくれるならアゼルは男でも気にしない系の魔族なのだろう? 望みが増したぞ。  ──こ、これならやらしく誘惑を頑張れば、なんとかなるんじゃないか……?  俺の脳に、魔が差した。  いや、いや、わかっている。抱けるからと言って恋ができるわけじゃないのは、俺だって大人だからわかる。  据え膳を前にした男の本能と理性ってやつだ。抱けるなら抱くが、そういうのは別問題なあれだろう。  でも、期待してしまうじゃないか。 「……ふへへ……むむ」  ニヤケただらしない笑みが漏れた。  誘惑、誘惑、と頭の中で反芻しながら、モニモニと緩みそうな唇を叱咤する。深呼吸をして、そろそろと片手を伸ばす。  明確に、そういう意味で、布越しに尻に当るそれに触れた。 「ッく、お、ま……ッ」  突然急所に触れられたアゼルが、背後から焦りを含む上擦った声を出す。  嘆きながら俺の項に額をグリグリと擦りつけていた彼には、これがどういう流れなのかわからないのだろう。  いつもは催淫毒に犯されてわけがわからなくなった俺が一方的にイカされていたから、正気のまま同じ熱を抱えるのは初めてだ。  なるほど、これは煽られる。  静止の声を聞かずにスリ、スリと布越しに触れた手を使ってなでると、少し大きくなった気がした。  よしよし。興奮か?  ということは引いていないな。  嫌がられたらすぐにでもこのセクハラはやめなければ。つまり嫌がられない限り続行である。 「本当だ、勃ってる」  しみじみと頷き、呟く。後ろのアゼルがへちゃむくれた声を出した。

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