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第116話※

  ◇ ◇ ◇  体の器官という意味合いでは知っていた、前立腺というもの。  精液のいくらかの液体を分泌する、耳馴染みないおぼろげな器官。  それを触ると気持ちがいい。  そんな噂も知ってはいた。  知ってはいたが──まさか自分がそこで乱れさせられるとは、思わなかった。 「あっ、あ……っ」  体内から襲い来る我慢ならない刺激に、ドク、トプ、と溢れ出すはしたない淫液。  もう何回目かの絶頂を迎え、俺は息も絶え絶えにか細く喘ぐ。  ヒク、と鈴口をヒクつかせながら勢いもなくとろとろと零すだけの射精。  まだ出るものがあったことに驚くくらい、繰り返しそれを味わった。 「ひう、ぅ……」  ふかふかの大きなクッションを腕の間に挟みうつぶせになったまま、尻だけを上げた恥ずかしい体勢で身悶える。  羞恥で瞳が潤んで仕方ない。  正確な時間はわからないが、とにかくずっと。  俺は隠しようもなく曝け出した割れ目の奥を、体を作り変えられているのかと思うほど執拗に、深く、アゼルの四本の長く美しい指であやされていた。 「こんなに全身濡らして、干からびねぇのか?」 「ン……っ、ひふぁ、ひからびるほどは、しないでくれ……」  顎や舌先に力が入らず、なんでもない言葉を噛んだ。それを聞いた背後のアゼルがニマニマと楽しそうなのがなんとも言えない。  けれど全身濡れているというのは、あながち間違いではなかった。  しっとりと汗ばむ肌はもちろん、口元の栓は緩みきっている。  クッションに恥ずかしげもなく唾液をこぼし、それをうまくすすることもできない。  腹の下のシーツは、すっかり俺の白濁液でぐちゃぐちゃだった。  シーツが乱れて膝下に触れると、その水たまりはクチュと音をたてる。  そこをこれ以上汚さないようにしたいのだが、アゼルが尻を手で支えていなければとっくに溺れているくらいには、足腰が立たないとろけた体。 「も、中、おかしい……はっ……ンく、……俺の中……絶対、溶けてるだろ、うっ……」 「馬鹿、溶かすかよ。ちゃんと『もっと欲しい』って俺の指に絡みついて離さねぇから、安心しろ」 「ふっ」  熱く愛撫されすぎて溶けていてもおかしくない。  本気でそう思ったのにアゼルは至って真剣に否定し、俺の尾てい骨のあたりを舌で舐め、褒めるように股関節のくぼみから太ももの筋をツツ、と指圧しながらなぞる。  不意の刺激に一瞬背筋が仰け反るが、すぐにクッションに顔を埋めた。  萎えたはずの陰茎がヒクリと頭をもたげようとしていることがわかる。 「それに、ほら」 「く……っんん……」 「せっかくやっと、ココだけでイケるようになったんじゃねぇか。シャル」 「あ、あっ」  ココ、と後孔の入口からしばらくの場所にあるしこりをトントンと指先で叩かれ、反射的に声が漏れた。  それに合わせてきゅ、きゅ、とアゼルの指に絡みつく媚肉。  俺の意思じゃない。  こんな体じゃなかったんだ。ただ癖付くまで繰り返された成れの果て。  ──懸命に誘ったあと。  押し倒された俺にアゼルが経験があるかを尋ね、俺はそれにノーと答えた。  めんどうをかけるだろうからあまり言いたくはないが、嘘を吐いてもすぐにバレるだろう? ……あとは個人的に、アゼルに嘘を吐きたくない。  そして不器用でも優しいアゼルはそれを知って、妙に狼狽えてしまってな。  なおかつ謎に使命感溢れるやる気を出してしまったのだ。  それで抱かれる側に負担がかかるし、初めては素質がないとなかなか悦くならないからと説明してくれた。かなり深刻そうに。  結果的にちゃんと一緒に気持ちよくなれるよう、俺が中でイケるまで挿れないって話になったんだ。  正直後ろの快感というのを侮っていた俺はココだけで射精できるはずがないと思い、気持ちよくなくてもいいと言ったんだが……。  それはできないことがほとんどないアゼルの負けず嫌いに、火をつけてしまったようで。 「ひっ……く、なったじゃなく、て、されたん、あ……っ」 「当たり前だろ? お前の外側のイイところなんか、手が覚えてる。内側を覚えるのだって余裕に決まってんだ。フフン」 「はぁ、あ、ふっ……」  快感が下腹部に溜まるたびに濡れた屹立を擦られ、イかされ、首筋やら背骨のラインやら肩甲骨の谷間やら、俺の密かな性感帯を軒並み弄られ。  ドヤ顔のアゼルの手腕により体を火照らせられてついに目標達成と、今に至るわけだ。

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