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第163話(sideリューオ)

 人間国に向かって黙々と歩き続けていたところ、偽勇者もといシャルを追いかけやってきた魔王の襲撃。  余裕ゼロの必死そのものな言い合いのち、丸く収まったあとギャン泣きする二人。  それをなるほどもしかしなくても俺ってやっちまったのか、と状況を把握して黙るしかない俺。  泣きやんでからはピッタリひっついて離れない二人に、単純なところのある俺は王の手のひらで踊らされ酷いことをしちまったと、いろんなことを謝った。  俺は自分で言うのもなんだが我が強いので、こうと思えばそれを貫いてしまう。  その結果、自分の行動で生じた問題の責任は自分にあるのだ。  シャルの話だと魔王は魔物を操れず魔族をけしかけてもいないらしく、人間が魔王を目の敵にする自体間違ってるわけだろ?  恨み辛みで勇者を引き受けただけじゃなく突然理由もなく異世界トリップさせられやさぐれていたのと、現代のセオリーで魔王イコール敵ってな先入観があったかンな。  殺し合っていた時の冷ややかな無表情はなんなのか、腕の中のシャルが愛しくて仕方がないと馬鹿丸出しな魔王を見ていると、シャルの話は事実だろうなァと思ったから謝ったんだ。  そしてシャルのことも。  全てを知って尚自分が私腹を肥やすことしか考えていない酷い人間だと思い込んで、態と嫌な言い方ばかりしたことを謝った。  最後には二人まとめて、いろいろだ。  聞き齧った情報をさも真実だと言うように投げつけたことが、まず問題。  挙句になんかハッピーライフを満喫してたっぽいところを割り行って、無実の被害者を加害者の国へ連れて行こうとしたのを謝った。  俺の謝罪を若干天然っぽい感じのするシャルはいいんだの一言で済ませたし、魔王はど下手くそだが別に構わないと許してくれた。  まぁ……きっと今は二人一緒だから、過ぎたことなんてどうでもいいんだろうがよ。器がデカイのか視野が狭いのかわかんねぇわ。  これはデッケェ借りにしとくぜ。  とはいえ別にコイツ等にやったことがお門違いだったから謝っただけで、俺だけが悪いのかと卑屈になったりはしてねぇけどな。  罪悪感はあるがそこは履き違えちゃいけねェ。だって辛いし。  謀略と欲望に塗れた業突張りな人間国の上層部が腐敗してたせいだ。  だからよ、聖剣パチって魔界側についてもバチは当たらねぇってなもんだろ?  丸く収まったからには恩人の生死について教えた俺に感謝したらしい魔王が定住の許可をくれたので、腐った国にはサッサとおさらばするぜ。  村や仲間には手紙出すか。  仕送りもしてェなァ。金稼ぐぜ。  俺ァ魔王の敵だったけど、仕事とかくれっかな。  魔王、シャルを間に挟めば話は聞いてくれそうだしな。  そんなこんなで密かに魔王に強請ることを胸に決め、疲れきっていた俺は、ぐっすりと深い眠りについていた。  まぁぐっすりだったのは、いつもより寝付くのが遅かったのもある。  不安なことがなくなって晴れやかなイチャイチャを満喫したい魔王が、俺という独り身第三者をアウトオブ眼中にしてそーっとシャルとコトをなそうとするから、気が気じゃなかったせいだ。  シャルが止めてはむすっとして黙るが、それで魔王がしょぼくれるとシャルは負けそうになりやがる。  アイツはどうやら魔王を甘やかす癖があるみてぇだかンな。  魔王特製の結界が張られた安全地帯とは言え、なにが悲しくてこんな人間国って敵地の森の中でリア充行為を見せつけられなきゃなんねぇんだと。  魔王爆発しろや。  いや、俺が騙されて掻き回したせいでこうなったんだけどよッ?  ──そんな疲労と遅寝とリア充への苛立ちで、朝日が昇ってもスヤスヤと寝入っていた俺は、安らかな眠りの中、ふとなにかにツンツンと肩をつつかれた。 「あぁ?」  気配も殺気も感じなかったが敵なのかと思い、眠気眼を瞬かせてパッ! と上体を起こす。朝っぱらからリューオ様の身体をつつくのは誰だコノヤロウ。膾に刻むぞコラァ。  しかし怒りのままに睨みつけた先には、寝起きドッキリには苛烈過ぎる光景だ。  具体的には水道ホースくらいの太さの蔦がうねり、その先についた真っ赤な鎌の切っ先が「おはようございまーす……」とでも言いそうな様子で俺の肩を控えめにツンツンしていた。  ……。いやなんでだよッ!?

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