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78話/むく

とうとう、待ちに待った体育祭の日がやって来た。お天気も最高で気分も上がっちゃう!そんなテンションで4時起きした僕は、張り切ってお弁当を拵えた。 メインのお肉料理に副菜、お握りにお寿司にサンドイッチ、それにデザート。 そんな感じで作っていったら、家にある大きな三段のお重箱二つになっちゃった。 …ちょっと作り過ぎたかなあ?でも食べ盛りだもんね!勝者が3人の誰であれ、みんな大っきいからきっと沢山食べるだろうし、僕だって競技頑張るからお腹いっぱい空くだろうしね、うんうん。 ただ流石に、この大荷物を抱えて電車に乗るのは無理だから、お母さんに頼んで車で送ってもらう事にした。出掛ける準備をして、お母さんに声を掛けようとしたら、お兄ちゃんがキッチンに入って来て、お重箱を抱えてくれる。 「むー、僕が送ったげるよ。荷物はこれで全部?」 「いっくん!学校は大丈夫なの?」 お兄ちゃんのいっくんは、医療保育士を目指す大学生。僕と違って頭いいんだ。 顔もお父さん似でイケメンだし、僕と似てるとこって言えば、いっくんもあんまり背は高くないってとこくらいかな?もちろん、僕よりは全然高いんだけど。 「今日は昼からの講義だから大丈夫。送るついでにむーの雄姿も見て行こうかな?」 「だっ、だめだよぅ!父兄の応援なんて誰も来ないんだから、絶対だめっ!」 高校生にもなってお兄ちゃんの応援なんて、恥ずかし過ぎるよう〜。 「あ〜あ残念。昔は絶対に応援に来てねって、可愛いくおねだりしてくれてたのにさあ」 「それって、小学校のときの話でしょ!」 もうっ!いっくんはいくら言っても、僕をちっちゃい頃と同じに扱いたがるんだからっ。 ぷんぷんと怒る僕を気にする様子もなく、お重箱を持って玄関に向かういっくん。 「ほ〜ら、急がないと遅刻しちゃうよ?」 その言葉に時計を確認した僕は、慌てていっくんを追いかけた。 「むー、着いたよ」 学校の正門の反対側の道に車を停めてくれたいっくんに、シートベルトを外し助手席から降りてお礼を言う。 「わざわざありがとう。いっくんも授業頑張ってね」 「さんきゅ。だけど、むーそれ一人で大丈夫なの?」 後部座席に乗せたお弁当を抱えようとした僕に、いっくんが心配そうに聞いてくる。 「大丈夫だよう。僕だって男の子だもん!このくらいへっちゃらだよ」 そう言って、二つのお重箱を抱える。…と、ずっしりと両腕に重さが掛かってきて思わずよろける。そんな僕を見かねたいっくんが、声を掛けた。 「やっぱり無理だよ。僕も手伝うからちょっと待ってて」 そう言って、いっくんは近くのコインパーキングに、車を停めに行った。お弁当ひとつ自分一人で運べないなんて、情けなさで落ち込みそう…、くすん。

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