『とある日のふたり』
『vivid』の本編で、しばらく暗い話が続いているので、気分転換をするために書きました。
オチなし、エロなし、ただの2人の日常です。
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『とある日のふたり』
「シャンプー切れそうだね」
「買っとく」
夜、お風呂に入ってすぐにそう声を掛けた。彩葉は携帯を弄りながら返事をして、思い出したかのように俺を見る。
「まだあったよな?」
「あ、うん。」
「よかった」
先にお風呂に入っていた彩葉は、シャンプーが少なくなったことに気付いていて、俺が髪を洗えたか不安になったらしい。
────それにしても。
このシャンプーはすごくいい匂いがする。きっと高いのを使ってるんだろうな。
だって彩葉の髪は柔らかくて、サラサラで、すごく艶がある。
自然乾燥をしてる割には、ゴワゴワしていないし、なんて羨ましい髪質だ。
「秀、髪乾かして」
「え?また?」
「うん」
携帯に目を落とした彩葉は、自分でやるのは面倒だけれど、"乾かしなさい"と言われるのも嫌なようで、最近は俺に頼むようになった。
「甘えただなぁ」
「違う。これは利用だ」
「またそんなこと言う。…仕方ない。利用されてあげます。」
風邪をひかれちゃ困る。自分の髪を乾かすのは後回しにして、ドライヤーを持ってきて温風を金髪に当てる。
「さっきから何してるの?」
「ゲーム」
「ゲーム?好きなの?」
「別に」
飽きたのか、携帯をポンッと机に軽く投げて置いた彩葉は、髪を乾かしてるって言うのに振り返って俺をじっと見る。
「乾かしにくいよ」
「…………」
「彩葉?」
「なんか、お前、エロい」
「は?」
それは彩葉から発された言葉なのかと疑う程、おかしいものだった。だって普段はそんなこと絶対に言わないから。
「風呂上がりで、顔ちょっと赤いし」
「……うん」
「甘えさせて…あ、違う。…大人しく利用されてくれるし」
「甘えさせてって言ったね。ハッキリ聞こえたよ。甘えてくれてるんだね、可愛い…」
「違うっていうのは聞こえなかったのか?」
顔を顰めた彩葉は、すぐにふいっと前を向いてしまった。そんな所も愛らしくて、髪が乾きドライヤーを置いて、彩葉の前に座り込む。
「じゃあ、俺は彩葉に甘えていい?」
「……利用じゃなくてか?」
「うん。彩葉、髪乾かして」
「仕方ないな」
口元を少し弛めて笑ってみせる。何度見ても飽きないその綺麗な笑顔に、うるさいくらい胸がドキドキする。
置いていたドライヤーを手に取った彩葉は、そのまま俺の髪を乾かしてくれた。
乾いた後、ドライヤーを止めたと思えば、髪を撫でてぐちゃぐちゃにされて、彩葉の両手首を掴む。
「何してるの」
「わからないのか?遊んでるんだよ」
「いや、わかるけど……」
たまに、彩葉は本当に俺より歳上なのかと思うような行動をする。それも含めて可愛いから、俺としては得でしかないんだけど。
「……いい匂いだ」
「シャンプーの匂い?俺もこの匂い、すごくいい匂いだと思ってたよ。」
彩葉も同じことを思っていたようで、心做しかいつもより目尻が少し下がっている。
「シャンプーっていうか、秀の匂い。」
「……あー、もう。あんまりそんなこと言うと襲っちゃうよ」
「……遠回しに誘ってんだよ。気付け馬鹿が。」
「誘い方が下手くそだよ」
「はあ?察せよ」
いたずらっ子のような表情をした彩葉。突然襟首を持たれ引き寄せられる。
「んむっ!?」
「は…ん……」
勢いよく触れるだのキスをされ、次第に唇を割って舌が入ってきた。確かめ合うような、強く求めるような、そんなキス。
貪欲なのはお互いで、彩葉の背中と後頭部に腕を回し、離れられないようにする。
「ぁふ…んっ…」
「彩葉…愛してるよ」
長い口付けを解くと、頼りない銀色が俺達を繋ぐ。俺の唇を舐めてそれを切った彩葉は、そのままさっきみたいに目尻を下げて、少し頬を赤く染めて小さく笑う。
「俺もだ。愛してるよ、秀」
その告白が嬉しくて、その日、求め合いすぎた俺達は、朝仲良く寝坊をしたのだった。
END