「声無き世界」の番外編のボツバージョン

今回の番外編は定住した国での魔術師と異世界人の待遇の説明回でした。
長い割に糖度低めであれなのですが、実は初稿はほぼ説明しかなくて「これ、小説としてどうよ」という感じだったので、没にして具体的なエピソードに説明を絡める形に書き換えました。
一部重なる部分もあるし途中までしか書いてませんが、元のバージョンもこちらに乗せておきます。

 

「シェアハウス」

 

俺たちが住んでいるのは、王城の近くにある、魔術師と異世界人専用のシェアハウスのような雰囲気の建物だ。


この国では異世界人には自由が認められているが、1人で暮らすと人買いにさらわれて他国の軍に売り払われる危険があるので、身の安全のためにシェアハウスに住むことが推奨されている。
シェアハウスでは家賃や食費はかからない代わりに、食事の支度や共用部の掃除は異世界人で分担して行うことになっている。

 

魔術師は城下で一人暮らしをしたり妻子と暮らしている人もいるが、家賃がタダなのでシェアハウスに住んでいる人の方が多い。
テディのように異世界人をパートナーにしている魔術師は当然シェアハウス暮らしだ。


シェアハウスに住む魔術師は、交代でシェアハウスの防衛任務にあたる。
一応一般の兵士が門番をしてくれているのだが、他国の魔術師が異世界人をさらいに来る可能性もあるので、魔術師が警戒する必要があるらしい。
国から手当ては出るけれど、気を抜けないし夜勤もあるので大変そうだ。

 

シェアハウスの防衛当番に当たっていない魔術師たちは、一般の人からの魔法を使う仕事の依頼を受けて出かけていく。
依頼の受注システムはファンタジー小説にある冒険者ギルドのような感じで、国から派遣されている係の人が依頼を受け付け、魔術師はそれぞれ好きな依頼を受けて出かけていく。
依頼は犯罪や戦争に関係しないものと定められていて、工事現場で作業員の力が上がる歌を歌って欲しいとか、鍛冶場の炉の温度を上げて欲しいとか、舞台の照明をやって欲しいという依頼なんかがあるらしい。
依頼によっては遠方で泊りがけになることもあるようだが、テディは夜にはシェアハウスに帰って来られる近場の依頼を選んでいるようだ。

 

依頼には魔術師向けのものだけではなく、異世界人向けのものも少しある。
こちらは異世界人が持つの特殊な知識や技術を提供して欲しいという依頼や、シェアハウスの中でできる内職のような仕事の依頼だ。
内職は特に異世界人しかできないものではなく、職人の見習いや一般家庭の主婦がするような単純作業で、これは外に出て仕事をすることができない異世界人に同情した依頼主が仕事を回してくれているという側面が強いらしい。
俺は手先が器用なほうだし単純作業も苦にならないので、ありがたく仕事をやらせてもらっている。
もらえるお金は多くはないけれど、がんばって稼いでお金を貯めてテディに何かプレゼントしたいなと思う。
他の異世界人によればレース編みや刺繍の依頼を受けられるようになれば結構稼げるらしいので、そちらもやり方を教えてもらって練習しているところだ。

 

内職は昼間、共用部の居間でみんなでしゃべりながらすることが多い。
シェアハウスにいる異世界人は地球の色々な国からきていることもあって、普段の会話では皆この国の言葉を使っている。
俺はまだこの国の言葉は勉強中なのであまり会話には加われないけど、毎日みんなの話を聞いているおかげで少しずつ言葉を覚えることが出来ている。