檻の中の劣等種 おまけSS
おはようございます。天白です
「檻の中の劣等種」のおまけSSを書きましたヽ(*´∀`*)ノ
本当におまけ程度のお話ですが、本編と異なりほんわか内容となっております。彼らの過去のお話です。
この先、ネタバレ注意!
ーーーー…
おっす。俺は武虎。羽柴武虎。10歳。
親父がギャンブルに負けて青の戦利品となってからけっこー経つけど、慌ただしくもそこそこ楽しい日々を送ってます。
今はシショーこと高杉先生のとこで居候させてもらったり、青のとこに入り浸ったりと行ったり来たりをしている。今年3歳(くらい)の可愛い可愛い雫に絶賛メロメロ中だから、俺としては年がら年中を青のとこにいてえんだけどな。
今回、10日ばかしを高杉先生のとこで過ごし青の下へ帰省したんだけど……
「あっちー! 外、やべーわぁ! さっすが夏! 真っ只中!」
「なんだ。中瀬か」
「中瀬じゃねえよ、武虎! 俺は羽柴武虎として生きんの! 何回言わすんだ、アンタは! んなことより、雫は?」
雫が喜ぶかもしれない品々をパンパンに詰め込んだリュックを下ろしながら室内をキョロキョロ。視線を泳がすも天使の雫が見当たらない。
デカい青は悠然とした佇まいでソファの上で本を読んでいたけれど……お前はどうでもいいんだよ。マイフェアリーはいずこに?
ソファを覗くと青の足の下から、小さく丸めた身体を起こしてひょこっと顔を出してくれたよ。
いた! ウチの天使!
「…………とら?」
「雫っ! ただいま~。いい子にしてたか? お土産持ってきたぞ~」
バッと菓子の入った袋を俺のキュートな笑顔と共に見せてやった。
しかし雫はきょとんと固まった後、再び青の足の下へと潜り込み身体を丸めてしまった。ダンゴムシみたいに。
「あれ、どったの。雫」
帰ってきた俺におかえりのチューは? ないの? いや、やってもらったこともねえけど。
菓子袋をフリフリさせながらこっちだよー、と雫に声をかけるも当の雫はジッとこっちを見上げるだけでそれ以上は動かない。
なんだなんだ? 青が不味いもんでも食わせたのか?
見かねた青が本を閉じると、溜め息混じりに身体を屈めて丸まる雫を抱き起こし、自分の膝の上に乗せた。
「お前が私達を置いていったとこの子は思っていたんだよ……雫。私の言った通り帰ってきただろう?」
「……ん」
青に抱きつく雫はコクンと頷きつつ、チラリと俺を見上げた。なにこの可愛い子。ウチの子よ。
俺は雫をぎゅっと抱き締めた。
「置いてくわけないじゃーん! こんなに可愛い可愛い雫をさー! ほらっ、ぎゅぎゅー!!」
「……ん」
ついでに頭を撫で撫でしてやると、雫は控えめにだけど青から俺に抱きついた。
青はラブラブの俺達から離れると、リュックの中身を出し始めた。腹が減ったのか? 巷で流行りの香りつき固形石鹸を取り出すと、匂いを確かめながら俺に尋ねた。
「中瀬。これは新手の食べ物か?」
「石鹸だよ! 食ったら腹を壊すぞ!」
「ふむ」
雫同様に世間を知らない青はしげしげとそれを見つめた。テレビすらないもんな、この部屋。
俺は雫を抱っこしながらリュックの下まで行くと、中に入っている品を1つ1つ出しながら説明する。
「これがドロップで、これがチョコレート。あと雫に新しい絵本な。可愛いだろ。……あ、これは青にエロ本。中はジュクジョ系って聞いたぞ!」
「採精か?」
「年頃だからこーゆーのも無いと困るだろって高杉先生が言ってたぞ」
「繁殖能力のない私に?」
わざわざカバーまで付いているそれを青は雫から見えないよう配慮しつつ、パラパラと流し見てから丸めてゴミ箱へと捨てた。興味がない癖にもらった物の中身を一応見るところが、青らしい。
一方で雫はゴミ箱に入れられたそれが気になるらしい。指を咥えながらジッと見つめている。ごめんな、雫。俺ですら見ちゃいけない中身なのよ。……いや、見たけどさ。
「そだ、雫。かき氷食おうぜ」
「……ごーり?」
聞き慣れない単語に、雫は俺を見上げながらコテンと首を傾げた。
「かき氷。外は夏だし! 冷てぇ氷をこう、ゴリゴリ削ってさ。上からあまーいシロップをかけんの。めっちゃ美味い上にキレーだぞ~」
簡単に説明をするも、想像出来ない雫はまたもコテンと首を傾げた。
ま、百聞は一見に如かず。実際に見せる方が早い。
何よりこの子の喜ぶ顔が見たいんだ。
「武虎」
「何よ?」
「お前はともかく、雫を糖尿病にさせるなよ」
「させねーよ!!」
俺は通販でゲットしたかき氷機をリュックから取り出すと、じゃじゃーん! と紹介した。
「ペンギン型かき氷機だ! 可愛いだろ!」
「ぺんぺん」
「そっ。このぺんぺんちゃんの脳ミソに氷をセットして~、頭に付いてるハンドルをグルグルと回すんだ。面白いぞ、きっと!」
「脳ミソに氷を入れて掻き回すことの楽しさは理解したくないものだが……一緒にやってみようか、雫」
「……ん」
「氷、持ってくるよ!」
俺も作るのは初めてだけど、青と雫は興味を持ってくれたっぽい。
テーブルの上にかき氷機を置き、備え付け冷蔵庫から氷を出すと器と共に機器にセットする。
雫は笑ってこそいないものの、わくわくしているらしい。俺の行動の1つ1つをキラキラした目で追って見つめていた。
「よっしゃ! 準備できたぞ~。雫、やってみっか!」
「ん!」
青が雫を抱き上げると、かき氷機のハンドルを一緒に持ってゴリゴリとゆっくり回し始める。子供だけの力じゃ回せないからな。始めはなかなか出てこなかったけど、次第にサラサラとした純白の砂が落ちてきた。
「そっ。ごーりごーり♪」
「ごーり。ごーり」
「綺麗だね、雫」
「ん……きれー」
真剣になってハンドルを回す雫を見て、俺はスマホが持ち込めたらいいのにと頭の中で高杉先生を呼んだ。せっかく、赤ん坊の頃から見てるんだからさ。アルバムくらい作りたいじゃんか。
器に氷の砂がこんもりとなる頃、俺は赤、青、黄色のシロップを用意した。
「よし、そんなもんかな。そんで、最後にこれをぶっかける!」
「お前は私達を殺す気か?」
「毒じゃねえよ。シロップだっつってんだろ」
蓋を開けて雫の鼻に近づけてやると、フンフンと猫みたいに鼻を鳴らした。
「甘い匂いがするだろ。これを上にかけて氷と一緒に食うんだ。俺はさらにこれっ! れんにゅー!」
冷蔵庫から出した練乳を見せると、雫が「にゅう」とコクコク頷いた。苺を食った時に味を覚えたからだな。
「さ、雫。どの色のシロップがいい?」
「……こえ」
「おっ。青と同じ色じゃーん! おっけー♪」
迷わず指を差したそれを掴むと、訝しむ青がさらに眉を顰めた。
「それは本当に食えるのか?」
「食えるって!」
信じろよ、俺を!
出来立てのかき氷にシロップをかけてやると、ボトルの色よりはさらに鮮やかで涼しげな青になったそれを雫に差し出した。
「ほらっ、雫の!」
「ん……あぃあとぉ、とら」
「どーいたしましてぇ!」
舌足らずな口調で礼を言われると、俺はデレデレと鼻の下を伸ばす。名前まで呼んでくれちゃってぇ!
青は匙を持つと、雫の代わりにそれを掬って口元まで近づけた。
「少しずつ食べようか。はい、口を開けて」
「あむ……しゃぐしゃぐ」
「美味しい?」
コクン。
雫は頷いた後、もっとくれと青に向かって口を開けた。
「気に入ってもらえて良かったー! 俺はイチゴミルクにしよー♪」
自分の分の氷をゴリゴリと器に盛ると、青も一口分それを食べた。味覚がやられてるから味を感じにくいのはわかるけど……
「ふむ……色が色だけに美味い気が微塵もしないな」
「美味いんだって! もー、雫! コイツに言ってやれ! 美味いって!」
「しゃぐしゃぐ……うまぃ」
この後、イチゴミルクを作ってそれを雫に与えてやると、青のそれよりもお気に召したらしい。やっぱ練乳が美味いんだよな。半分以上を平らげると、腹が満たされたのか小さなゲップを出していた。
まがまがしい色になった雫の舌に、青がやっぱり文句を言ったけれど、当の雫はまだまだかき氷を作りたいと氷の入っていないそのハンドルをグルグル回していた。
「楽しい? 雫」
「ん!」
やっぱり笑顔は見られなかったけれど、楽しそうにハンドルを回す雫に俺はスマホの持ち込み計画を練り始めた。
写真を撮ってあげたい。思い出を残してあげたい。
それは俺自身が今の生活に満たされているからなのか。雫がもう少し大きくなった時に、あの頃はこんなことして楽しかったね~という共感が欲しいと思ったんだ。
「さすがに氷だけでは腹が膨れないな。中瀬、食事」
「だーかーら! 武虎だっつってんだろ!」
楽しくて楽しくて、ささやかだけど騒がしい日々。
どうかこの幸せが、ずっと続きますように。
END.