微妙な嫌がらせを受けるクリエーターさんのためのショートショート
微妙な嫌がらせってありますよね。
創作やってると。
嫌な思いしますよね。
その気持ち成仏させるシリーズです
嫌な思いした方々がちょっと楽になってもらえたら嬉しいです
悪意のコメント
投稿サイトに小説を書いている。
趣味だ。
書くモノは基本、ノンストレスでよめる可愛い恋愛小説。
私は主人公が苦しんだりする話が嫌い。
胸がキュンキュンして、 ほわっとする話が好きだけど、なかなか好みの話がみつからない。
だから、自分で書き始めた。
自分のために書いている。
だって、自分が読みたい話は自分で書くのが一番だ。
思いもしない面白さ、とか、予想外な展開とかは人が書いてくれた話でしかないけれど、こういうのシュチュエーションとか、細かいディテールは自分で書くの方が確実だとわかった。
書いた作品を投稿したのはまあ、せっかく書いてるから、こういうの好きって人もいるかなって思ってそういうノリだった。
こんな話私以外はどうなんだろって思ったけれど、まあ、誰も読まなくても元々私のための話なのだし。
それでもそういうのが好きな人達がいて、読んでくれるようになった。
嬉しかった。
好きな世界を共有できるのは嬉しい。
コメントも楽しみにしていた。
たまに書く必要のない、この作品の気に入らない理由を上げてくる人がいたけれど、
それなら別に読まなければ気に障ることもないだろうとブロックしただけで済んだ。
お互いのために良いことだ。
趣味で書いてる。
評価はいらない。
ただ、最近困ったコメントが出てきた。
「二人はこういう風になるといいと思います」
作品の内容を具体的にこうして欲しいと言うコメントだ。
最初は「もっとイチャイチャして欲しい」とか「デートして欲しい」とかいう可愛いリクエストだった。
まあ、いいか、と思った。
ほわっとした毎日を綴るラブストーリなのだ。
そういうのもいいかも。
多分そのリクエストにのったのがいけなかったのかもしれない。
リクエストは加速していく。
「駅の改札口で握った手をなかなか離せない二人」
「何度も何度も離れてからも振り返りあう二人」
「ラインに長い文章を打ってやはり消して、短い文章を打ち合う二人」
確かにいい感じの甘いシーンだけど・・・。
何故私が私の登場人物達を他人の言う通りに操作しなければならないのか。
この辺りで違和感があった。
書かなければ、何故書いてくれないのかと何度も何度もコメントがくる。
それほど多い読者がいるわけではない。
気にする人が少ない作品に何故これほどまでに固執するのかが怖くなった。
とりあえず、全てのリクエストに応えられるわけではない、とコメントをかえした。
ノンストレスなものが書きたいから、ストーリーらしいストーリーがあるわけではないのだけど、ストーリーの展開がある、と言ってみることにした。
納得してくれたようで、コメントは止んだ。
正直、ホッとした。
そこで、ふと考えた。
確かにノンストレスな作品を書いてきた。
これは大好きだ。
幸せな話のなにが悪い。
でも。
でも。
一度くらい、そうじゃない話を書いてみてもいいじゃないか。
趣味なのだ。
自分らしくない話を書くのもいい。
また自分の好きな話は書けばいい。
それに、あの人はそんな話は嫌いだろうから、話を読まなくなってくれるかもしれない。
そう思った。
正直怖くなっていた。
自分の作品のように作品を扱われることに。
まるで、私をキーボードだとおもっている。
こういう話を書くようにと希望を打ち込めば、そんな話を出してくるアプリか何かのように思っている。
ここで私はそんなものじゃないんだ、と知って欲しかった。
物語は進む。
女の子は彼に惹かれる。
女の子は彼とキスする。
キス、されてしまう。
男の子とキスしたのに。
彼に惹かれながら、男の子からも離れられない。
本来なら私が一番嫌いな話だ。
でも、私は女の子の心におりていく。
自分の狡さを嫌悪しながら、なんとしても彼に惹かれるのを止めようとしながら、男の子との間に確かな約束も言葉もないことを言い訳に、ズルズルとこの曖昧さを引き伸ばしてしまう女の子の心に。
コメントは非難から罵詈雑言に変わった。
許せない。
許せない。
こんな酷い話、許せない。
最悪な話だ。
私はホッとした。
嫌な話なら読まなければいい。
ブロック機能を使って、その人をブロックした。
しばらくなにもなく、多分今まで読んでくれていた人達も離れてしまったけれど、私はその話を書き続けた。
これは、私が今書かなければならない話だからだ。
作品にレビューがついた。
驚いた。
読み手は明らかに減っていたし、戸惑われていたからだ。
レビューがつくなんて。
読んでみた。
そのレビューは悪意だった。
「最悪最低の作品。綺麗で純粋な作品を書く人だったと思っていたのにこんな汚らしい話を書くようになんて。前みたいな作品を書いて欲しい。止めて欲しい。嫌だ」
あの人だとわかった。
それは懇願だと読めないこともなかった。
だけど、趣味で書いている。
読んでくれと頼んだわけでもない。
何故こんなことを言われるのかが理解出来なかった。
しかも、読みたくないのだから読めないようにブロックしたはずなのに、わざわざ読みにきてそんなことを言っているのだ。
悪意だ。
また、ブロックした。
何度でもする。
でも怖かった。
そこまでする意味がわからなかった。
そこまでして読みたがる理由が。
嫌いなら読まなければいいのだ。
ゾッとしたのは投稿サイトではない、呟きと言われるSNSにリプライが来た時だった。
私はそこでは投稿サイトに小説を書いていることは公表していたけれど、どんなものを書いているのかは言わなかったからだ。
明らかな捨て垢と言われる即席づくりのアカウントだった。
「最低の話。最悪の話。なんでこんなの書くのか分からない」
私の作品名と、サイトの作品までのリンクを貼ってリプライが来た。
あの人なのだとわかった。
でも、どうやってこのアカウントがわかったのか。
怖くなった。
ブロックした。
だけど、知り合いのリアルでも交流のある書き手さんが教えてくれた。
そのSNSで私の作品を貶しまわっているらしい。
そのためだけのアカウントなのだ、と。
私は怖くなった。
何故?
何故そこまでする?
でも私は話を書き続けた。
これは私の物語だ。
作品に対する非難、いや、誹謗はどうやってでも私の目に入るように行われた。
ブロックしても、ブロックしても、やってくる。
ブロックされたことを怒っているようだった。
昔の作品が好きなのに、と。
知るか、と思った。
嫌いならばあなたが読まなければいい。
ブロックは機能として存在している。
読ませたくない人間に読ませないのも書き手の自由なのだ。
何故相手を不快にさせて、その人間に丁寧に扱って貰えると思っているのかが謎だった。
私はストレスが嫌いだ。
だからストレスのない作品を書いてきた。
だが今、ストレスの無い話を書いていたことが凄まじいストレスを生み出している。
予想外にいつもと違う作品の方は、書くのがおもしろくなってきている。
女の子は、どちらにも良い顔をしていたのがバレてピンチに陥っている。
さあ、どうする?
コメディのような面白さが出て来た。
それに、私は彼女の気持ちも理解し始めていた。
人間は簡単じゃない。
それと同時に彼女は狡さの責任もとらなきゃいけないし、それについても書きたかった。
コレはこれで面白くて、いつもの読み手以外の人達が読み始めていた。
コレを書き終わったらいなくなる人達だけど、それでも楽しんでくれるのは嬉しい。
だけど、狂ったようにあの人は過去の作品に固執した。
そのために今書いているものを貶めつづけた。
限界だった。
あの人が気に入っていた作品の続編を平行して書き出した。
私は作品に対する考え方が変わってきていた。
もちろん、ノンストレスの優しい可愛い話を書き続けるつもりだ。
でも、今までの主人公達は永遠の日常の中にいた。
未来も過去もない、ずっと繰り返す毎日の中に。
好き合っていても、キスより先にはいかないままで。
私はストレスのある作品を書くことで、キャラクター達が本当の人間であるように思いはじめていた。
それまでは、ふわっとした、「こんなかんじの」という曖昧な存在だったのに。
彼らに意志を。
未来を。
物語を全て書ききれなくても、物語が終わっても続く人生を感じさせれたなら、彼らに未来を与えられるのではないのだろうか。
彼らは物じゃない。
彼らは彼らなのだ。
私や読者の手を離れた未来をあたえてもいい。
私は続編で時間を主人公達にあたえた。
止まっていた距離を、二人は近づけ始めた。
それはノンストレスとは言えない物語になっていった。
それはでも、二人が本当に結ばれるための、その途中を誰かに楽しませるだけの存在ではなくなる物語にはなっていた。
今までありがとう。
私は思う。
あなた達は進むんだ。
激怒したのは・・・あの人だった。
その主人公達を本当に気に入っていたから。
削除仕切れないほどのコメントがやってきた。
もう、他の人達は引いてしまってコメントをしてくれない。
でも、私はそこからもう一つ話を書き始めた。
書いている物語に干渉したがる読者の話だ。
投稿サイトで書いてる物語に読者がコメントを入れて、話に干渉してくる。
書き手はその通りに書こうとするが、キャラクター達はそれに反発し、反乱を起こす、メタな物語だ。
そのコメントには全て、あの人が書いたもの使った。
ある意味、ドキュメンタリーでもあった。
キャラクター達は叫ぶ。
何故あなたの思うように私は生きなければならないのか。
何故、あなたは私を物のように扱うのか。
ここで、私達は生きている。
あなた達とは違うかもしれないけど生きている。
キャラクター達はその読者に中指を突き立てた。
とうしても、おもいのままにしたいのならば、あなたが自分で書けばいい。
あなたはあなたの世界を自分で作ることができる。
あなたはあなたの好きなようにその世界を支配すれぱいい。
ここは、あなたの世界じゃない。
ここは、書き手すら、私達を自由に出来ない世界なんだから。
主人公の女の子は、全ての縛りを破り、予定されていた男の子ではないキャラクターの元へ走っていく。
奇妙な話だった。
だけど、胸のつかえがとれた。
そうだ。
物語は書き手のものでも、読み手のものでもない。
物語の登場人物達のものだ
それは私には腑に落ちた。
書かなければわからなかったことだった。
ノンストレスではない、三角関係の物語の方は、主人公の女の子はどちらとも別れ、自分の狡さの意味を噛みしめている。
それでも、また懲りないかもしれない。
それでも、人生は続くのだ。
何故か、読者のコメントに左右される話を書き上げた後、あの人からのコメントはやんだ。
自分で書き始めたのかもしれない。
それが一番だ。
自分の予想通りの作品は自分で書くのが最良の方法なのた。
今は悪意のコメントは来ない。
少なくともあの人からは。
私の言葉などなんの意味もなかったけれど、物語の登場人物からの言葉はあの人には意味があったらしい。
多分、私よりも愛してはくれていたのだろう。
あの人がしたかったのは、物語を支配することだったのだ。
思いのままに物語をあやつり、思いのままに登場人物を支配する。
それはその物語の書き手にさえ不可能なことなのに。
自分で書いて見て、わかってくれたのかもしれない。
私は今日も物語を書く。
ノンストレスの物語。
でも、最近はそれだけでもない。
何故なら、彼らに終わらない日常ではなく、未来をあたえてあげたいからだ。
私の物語はほんの少しの苦さや痛みも加わった。
それも、また、私の意志とはいえなくて。
結局のところ、書き手も読み手でしかないのだ。
物語は生きているのなら、勝手に動き出す。
END