小話
『甘えたオメガは過保護なアルファに溺愛される』の番外編です。
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こちらは以前公開していたナギマキの息子、真都が生まれてからしばらく経ったあとのお話です。
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──あ、この感覚、知ってるぞ。
朝、真都の朝食を用意している時に襲ってきた吐き気。
ソレを感じた途端、不安と期待で胸がいっぱいになった。
真都を幼稚園に送り届けたその足で薬局に行き、妊娠検査薬を手に取る。
帰って数年前に何度も見た説明をまた確認して検査した。
結果が出るまでドキドキしながら、時間が来て判定窓を見ると現れていた線に幸せな気持ちになった。
■
夜、普段なら真都と一緒に眠るのだけれど、凪さんが帰ってくるのを緊張しながら待っていた。
夜の十時になって漸く玄関が開く音がして、凪さんがリビングまでやって来るのを待っていると「ただいま」と小さな声で囁くようにして彼がやってきた。
「おかえりなさい」
「ただいま。電気が点いてたから驚いた。真都と寝てると思ってたよ。……もしかして待ってた?」
「うん。ちょっと話したいこともあって」
「あ、そうなんだ。連絡くれたらもう少し早く帰ってきたのに」
「仕事の邪魔はしたくないから。ご飯は食べた?」
「食べたよ。話って何?」
スーツを脱ぎながら聞いてきた彼。
意を決して彼の傍に寄り、じっと目を見つめる。
「凪さん」
「はい」
「……これ」
「何これ」
袋に入れた検査薬を渡す。
彼が袋から取りだし、それが何かを理解した途端目を見開いて「本当……!?」と嬉しそうに聞いてくる。
「病院に行ったわけじゃないんだけど……朝、多分、悪阻があって……」
「悪阻!?大丈夫か!?と、とりあえず座って。……え、嘘、二人目……?真都の弟か妹がいるの……っ?」
半分パニック状態の彼に椅子に座るように言われ、素直に言うことを聞くと、まだ平たいお腹をそっと撫でられる。
そんな彼の反応に緊張していた胸がポカポカに温まった。
「明日、真都を幼稚園に送ったら病院に行こうと思う。」
「俺も行く」
「仕事はどうするの?」
「どうとでもする」
くっついて離れなくなった彼。
そういえば真都を妊娠している間も随分と過保護だったなぁ。
「じゃあ一緒に幼稚園に送ってから行こう」
「いや、真樹は家で待ってて。俺が真都を幼稚園に連れて行って、一回帰ってくるから。」
「えーっと、何で?」
「転けたら大変だ」
あまりの過保護ぶりに『始まった』と思ったけれど、これは仕方のないこと。
彼はアルファで、妊娠しているであろう番の俺に対してはいつも以上に守ろうとしてしまうのは本能らしいので。
「……わかった。じゃあ明日の朝はお願い」
「うん、任せて。朝ごはんも俺がやるから真樹はゆっくり寝ててね」
「別に動けるよ」
「ダメだ。今日もこんな時間まで起きてる……もう寝なきゃ。ベッド行こう」
「……はーい」
手を取られ寝室まで連れて行かれる。
真都の隣に寝かされ、布団をしっかりと肩まで掛けられた。
「はい。今日はもう寝るんだよ。明日の朝、俺が起こしに来るまでここでゴロゴロしててね」
「……今凪さんからすごく『アルファ』を感じるよ」
苦笑すると、彼はその言葉の意味を理解したのか視線を逸らして「ごめん」と言う。
「あ、いや、大丈夫だよ。むしろありがとね」
「……苦痛に感じたら教えてね」
「大丈夫だって。……そんな顔しないで。ね、キスしよ?」
「ん」
背中を屈めた彼を引き寄せてキスをする。
「凪さん、明日楽しみ?」
「うん」
「真都に弟が妹ができるの、嬉しいね。」
「嬉しい。男の子でも女の子でも……楽しみだなぁ。」
凪さんにお腹を撫でられる。
その手が温かくて優しくて、ウトウトしてしまって、気が付けば眠りに落ち、朝を迎えていた。
■
いつもより随分と深く眠っていた気がする。
隣に真都の姿は無く、リビングの方から話し声が聞こえた。
昨夜凪さんに起こしにくるまでゴロゴロしておいてと言われたけれど、暇すぎたので起き上がりリビングに行く。
「おはよう」
「お母さん!おはよぉ!」
「真樹!寝とくように言ったのに!」
「暇なんだもん。あ、真都いいなぁ。それ美味しそう。お父さんが作ってくれたの?どんな味?」
「あのねぇ、甘くて、すっごく美味しいよ。お母さんに一口あげる!」
真都の向かい側に腰掛けると、凪さんがキッチンに行き俺の分の朝ご飯を用意してくれる。
お箸を上手に使って一口サイズに切った卵焼きを真都が『あーん』してくれた。
口の中に広がる程よい甘さに「美味しい!」と言うと、真都が嬉しそうに「でしょぉ!」と笑う。
「真樹、白ご飯は食べれそう?」
「あー……ちょっとやめとく」
おかずを運んできてくれた彼は俺の隣に座って、心配そうに背中を撫でてくれた。
「お母さん、しんどい?お熱あるの?大丈夫?」
「お熱は無いよ。大丈夫。真都は優しいねえ。心配してくれてありがとうね」
「僕の果物食べる?」
眉を八の字にして聞いてくる愛しい息子に胸がキュンっとした。
「お母さんも果物あるから、それは真都が食べてね。ありがとう」
「うん……。今日はね、お父さんと幼稚園行くからね、お母さんはねんねしてなきゃダメだよ。」
「はーい……」
箸を持って、さっき真都が分けてくれた卵焼きをパクリと食べる。
うん。甘くて美味しい。
「美味しい?」
「うん」
「じゃあ真樹はそれ食べたら寝ててね」
「……はーい」
心配そうにこちらを見る真都。
ご飯を食べ終えて、立ち上がり真都の頭をそっと撫でた。
「大丈夫だからね。真都は幼稚園楽しんでくるんだよ」
「うん」
体調は悪くないし、本当に大丈夫なのに、凪さんも真都も心配しいだなと苦笑を零した。
真都と凪さんが幼稚園に行き、その間は暇なので洗濯物をして、軽く部屋の掃除を済ませた。
服を着替えて出かける準備は万端。
そんな時凪さんが帰ってきて、「行こうか」と手を取られ一緒に家を出る。
「車で行くね。待ち時間もあるかもしれないし、待合室じゃなくて車で待つ方が気が楽だろ。」
「うん」
「飲み物買っていこう」
車に乗り込んで、シートベルトを締める。
病院に着くまでにカフェに寄り、俺用のキャラメルマキアートと凪さん用のカフェラテを買った。
病院に着いて診察券と交換で問診票を貰い、それを書いた。
待合室は患者さんでいっぱい。そしてやはり少し待ちそうだったので車に戻った。
「仕事は本当に良かったの?」
「今日は特に会議も入ってなかったし大丈夫だよ。あ、寒くない?」
「寒くないよ」
ぼんやりしているうちに眠たくなってきて、それに気がついた彼がわざわざ俺のシートを倒してくれる。
手を伸ばせば優しく包むように握ってくれて、リラックスした状態で少し長い時間をそこで待った。
■
一時間程して、凪さんが順番を見に行ってくれた。
次の次に診てもらえるらしく、ヨイショと車から降りて院内に入る。
「ここ座って」
「うん」
たまたま空いていた一席に座らせてもらう。
周りにいるのはほとんどが女性と、付き添っている旦那さん。
夫夫は俺達だけで、少し注目を浴びてしまっている。
それもあってか、胸が緊張でうるさく音を立てだし、少し呼吸も速くなってきてしまい、そんな俺の背中を彼が優しく撫でてくれた。
「緊張してる?」
「うん……」
「手のマッサージでもする?」
「ううん。はぁー……、すっごくドキドキしてる。触ってみて」
彼の手を取り胸に手を当てさせると「本当だ」と言ってニヨニヨ笑う。
「心臓出てきちゃいそう」
「真都みたいなこと言うね」
「真都を妊娠した時もこんな感じだったの思い出したよ」
ドキドキする胸を落ち着けようと、彼と手を繋いで待っていると、遂に名前を呼ばれた。
診察室に入ると、以前もお世話になった先生がいてホッとする。
エコー検査をする為に検査室に移り、下履を脱いで椅子に座る。
下半身にシートが被せられた。
無機質な音声が椅子が動きますと案内すればその通りに動いて、軽く背もたれが倒れて脚を開く。
その時彼が部屋に入ってきて俺の手を握る。
先生の手によって器具が挿入され、気持ち悪い感覚を味わっていると、先生の「おめでとうございます」という嬉しそうな声が聞こえた。
「双子ちゃんですねぇ」
「え!?」
「胎嚢が二つあります」
驚いて何も言えなくなったのは凪さんも同じようで、珍しく口をあんぐり開けていた。
「双子……双子?え、双子……?」
「はい。器具抜きますね」
うわ言のように『双子』を繰り返した凪さんと、淡々と仕事をこなす先生。
椅子が元の位置に戻り、凪さんと先生が部屋を出てから椅子から降りて服を着直した。
■
診察室に戻り、そこで先生と話をしていた凪さんが俺の手を取って椅子まで導かれる。
「妊娠中は悪阻や腰痛や眠気がありますが、双子の妊娠の場合は特に感じやすくなる人が多いです。辛い時は我慢せずに来てください。旦那さんもサポートしてあげてくださいね。」
「はい!」
嬉々として返事をした彼に思わず笑ってしまう。
診察を終えてニコニコな凪さんと診察室を出る。
お会計をして車に戻るとすぐ、彼は俺を抱きしめてそのまま暫く離れなくなった。
「真樹ぃ!双子だって!!」
「うん、びっくりした……」
「胎嚢が二つあるって……すごい確率だ……」
「ね、引き当てちゃったね……。」
「……嬉しすぎて戸惑ってる?」
「大正解」
子供ができたことが何より有難いに、その上双子だったなんて……嬉しさはもちろん、不安もある。
「真都一人育てるのも大変だったのに……双子ちゃん、ちゃんと育てられるかな……」
「俺と、俺の両親もいるし、困ったらサポートをしてくれる支援センターもあるよ。真樹一人で頑張ろうとしなくていい。」
「わかってはいるんだけど……。ああでも、とにかく赤ちゃん、よかったぁ。今日の夜真都に伝えよ」
「真都も喜ぶね」
凪さんがようやく俺から離れて、車を発進させる。
ソッとまだ平たいお腹を撫でて、ちゃんと元気に産まれてくることを願った。
■
結局遅れて仕事に行くのかと思っていた凪さんは、そのまま休みをとることにしたらしく、俺の傍を離れようとしない。
ご飯も作ってくれるし、その他の家事もしてくれるので大変助かるけれど、やっぱり少し暇だった。
そうして真都を迎えに行く時間になり、凪さんは俺に大人しくしているようにと言い、息子を迎えに行った。
やることも無いのでテレビを見て過ごす。
暫くの間そうしていると、フワフワあくびが零れて、溢れた涙を拭う。
そんな時玄関が開く音が聞こえ、小さくて弾んでいるような足音と、静かで落ち着いた足音がそれぞれ聞こえた。
リビングのドアが開き、「ただいま!」と真都がやってくる。
足に飛びついてきた真都の頭を撫でながら「おかえり」と伝えると、ジッと目を見てくる息子に首を傾げた。
「どうかした?」
「お父さんと病院行ったの?」
「うん。朝に行ってきたよ。」
荷物を持った凪さんもリビングにやって来て、俺の隣に腰かける。
「真樹、話しない?」
「あ……うん。」
凪さんが真都を抱き上げ、自分の膝に座らせる。
俺が自分の口で言うのを待っているのか、凪さんが見つめてくるので、ドキドキしながら口を開ける。
「真都に弟か妹……もしくは両方とも、できるよ。」
「えっ!?」
「真都はお兄ちゃんになるよ」
「お兄ちゃん……!」
真都が凪さんの膝からヨイセと降りてきて、小さな手がお腹に触れる。
その愛おしさに思わず凪さんと顔を合わせてクスクス笑い合う。
「女の子?男の子?」
「まだわからないんだけど、真都はどっちがいい?」
「どっちも!」
「どっちもかぁ。もしかしたらそうかもね。お母さんのお腹の中、今二人いるの。」
「そうなのぉ!?」
真ん丸な目をさらに真ん丸にして、かと思えばお腹に耳を寄せていた。
「キュルキュルって音がしてるよ!赤ちゃんかなぁ?」
「……お母さんの消化中の音かも」
「しょうかちゅー……?」
凪さんが吹き出すように笑う。
ジロっと睨むと慌てて視線を逸らしていた。
晩御飯を食べて、今日も真都には凪さんと一緒にお風呂に入ってもらい、二人が出た後に一人のんびりとお風呂に入った。
船を漕いでいた真都をベッドに寝かせて、眠りに落ちたあと、俺は凪さんを説得しに彼の元へ行く。
「ねえ凪さん、今日も一緒に寝ようよ。真都と俺と、三人で。」
「真樹がゆっくり眠れないから嫌だ」
最近は時々一緒に寝てくれるようになったのだけれど、妊娠したおかげで別で寝ると頑なな彼。
凪さんの匂いを嗅いでいる時が一番安心できるということを知らないらしい。
「凪さんと一緒がいい。安心できるし、夜中にしんどくなったらすぐ横に頼れる人がいないと困る。」
「あ……」
「ね?一緒に寝よ。」
「それなら、わかったよ。」
「やった!」
彼の手を取り、キュッと握って真都の眠る寝室へ。
いつもは真都を挟んで川の字になるのだけれど、今日は凪さんと隣同士でピタリ、くっつくようにして寝転ぶ。
「真樹、狭くない?大丈夫?」
「うん」
抱き着いて片足を彼の太ももあたりに引っ掛ける。
彼は「俺が狭い」と言いながらも離すことはしない。
「寝れそう?」
「うん。あ、でも、俺の事抱きしめて」
「ン。こうでいい?苦しくない?」
「大丈夫」
そうして、安心できる腕の中で深く深く眠った。
END