嬉しい〜!!🩷
皆さんお久しぶりです。
ノガケ雛です。
今日嬉しいお知らせがありました!!!
なんと……
『甘えたオメガは過保護なアルファに溺愛される』が第三回fujossy小説大賞で第二次選考を通過しました〜👏✨
本当にありがとうございます!!
これも皆様の応援のおかげです〜🫶🫶
ナギマキ欲が最近とっても強いので、また番外編書けたらなぁと思っています。
第二次選考通過のお礼と言ってはなんですが、ナギマキの短編、出会った時の凪さん視点をぜひご覧ください!
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赤信号で停まっていると、ふと香った海外のチョコレートのような甘い甘い匂い。
パッと顔を向けた先には座り込む女性と、その人に群がる人達。
きっとあの女性はオメガで、突然発情期になってしまったのだろうと思う。
抑制剤は飲んでいるし、助けに行くべきか……と車の中で悩んでいると、一人の男性が近くのカフェから飛び出してきた。
まさかあの男性はアルファで、制御が効かずに襲い掛かるんじゃ──!と思ったのと同時、彼は女性を介抱し、抑制剤を飲ませてあげていた。
思わず目を見開いてしまう。
咄嗟にあれだけ動けるなんて。
彼自身も少し表情を歪めてはいるものの、冷静に対応している。
そんな彼から目が離せない。
いつの間にか甘ったるい匂いの他に混じって花の咲いたような香りもしているような気がする。
胸がドクドクと大きく音を立てる。
──クラクションの音が響く。
ハッとして前を向けば信号は青になっていた。
慌てて車を発進させる。
けれど頭の中はもう彼の事ばかり。
とても綺麗な顔をしていた。
思い出すと堪らなくて、会社に戻ってからも上の空で。
「専務……専務?え、専務?」
「……」
「寝てる……?いやでも目開いてるし……専務ー?」
目の前に手が出され、驚いて身を引く。
顔を上げると同じように驚いている中林さんがいた。
「大丈夫ですか?何回も呼んだんですけど……」
「あ、ああ。ごめん。どうかした?」
「こちら、企画部の方から預かった資料です。ご確認ください。」
「ああ、ありがとう。」
頭がぼんやりする。
多分俺は一目惚れをしてしまったんだろうな。
もう三十なのに、一目惚れでこんなに浮かれてしまうなんて。
仕事が終わり、どこにも寄らずに帰宅した。
普段はそれ程飲まないお酒を取り出してぼんやりしながらそれを飲む。
「あの人の名前はなんて言うんだろう……」
あの時俺も駆け寄ってあげればよかったかもしれない。
いやでも、俺にそんな勇気はない。
甘い匂いに頭がおかしくなって襲ってしまうかもしれない。
あの群がっていた人の一人になっていたかもしれない。
「かっこよかったな……」
迷いなく助けていたところを思い出すと、うっとりしてしまう。
「……ダメだ。今日は早く寝よう」
頭が使い物にならない。
明日は中林さんにも迷惑をかけないようにしないと。
残りのお酒を一気に飲み干し、お風呂に入るとすぐにベッドに潜った。
■
朝早く出勤して、十時頃に会社を出る。
今日は少し離れたところで少し早めの昼食会──という名の会議があった。
少し顔を出して昼からは会社に戻るつもりなので、十一時に始まった会も一時間程度で途中退出する。
会社に戻る道すがら、優しくて安心できるような花の香りがして、慌てて車を停めた。
昨日嗅いだ甘ったるい匂いの中に混ざっていたそれに似ていたから。
車から降りて香りのする方に自然と足が動く。
人通りの少ない場所に立ってあるビル。
掃除のされていなくて埃っぽい階段を上がり、鍵のかかっていない屋上のドアを開ける。
「っ!」
すぐそこで屋上の柵を跨ぎ、下を見ている男性がいた。
後ろ姿はどこか見た事がある。
いい香りはその彼から香っているようで。
フラフラ歩み寄ると彼は一歩足を踏み出そうとして、慌てて強く彼の腕を掴んだ。
驚いてふりかえった彼の顔を見て、嬉しくなる。
「見つけた」
昨日、オメガの女性を助けていた彼だ。
「うわっ!」
そのまま抱き寄せせて柵の内側に連れ戻す。
あまりにもいい香りがして、初対面なのに彼の首筋にスリスリと顔を寄せてしまった。
「やめろ……っ!気持ち悪いっ!離せ!」
「ううん、離さない。」
パニックになっている彼の背中を落ち着くようにとポンポン軽く叩く。
次第に彼から力が抜けていって、大人しくなった。急に気持ちが楽になった。
「──ね、むい……」
「いいよ。眠って」
そうしているうちに彼は本当に眠ってしまったようだ。
そっと顔をのぞき込むと、薄ら涙の跡があった。
どうして飛び降りようとしたのか。
その疑問は彼があまりにいい香りをさせている事ですぐに解決した。
「──オメガだったのか……」
それは彼にとって辛い事だったんだろう。
けれど俺にとってはそうではなかった。
絶対に番にしてやる、と心の中で決意した。
会社に帰るのをやめ、自宅に戻って彼をベッドに寝かせる。
彼のバッグの中、スマートフォンが音を立てているけれどそれは置いておいて、申し訳なく思いながら荷物を確認することにした。
そこにはオメガ用の抑制剤と、午後から出勤するつもりだったのか社員証とたくさんの資料が。
「え……おぉ、うちの会社……」
社員証を見るとまさかの事実が書いてあって、これはもしかして運命なのでは……!?とドキドキしながらバッグの中に戻す。
名前は堂山真樹君。
あまり好ましい状況ではなかったけれど、また出会えたことが嬉しい。
彼が目を覚ましたら、まずは話をしたい。
オメガ性のせいで、彼が人生を終えたいと思うような出来事があったのなら、少しでもその気持ちが無くなるようにしてあげたい。
──酷く辛そうだった。
あとちょっとでも時間がズレていたら、彼は地面に真っ逆さまで、最悪亡くなっていただろう。
「……間に合ってよかった」
さっきまでは彼と再会できた事を嬉しく思っていたのに、あの場面を思い出すと、今更手が震えたした。
多分、すごく怖かったんだと思う。
状況をようやく理解し、飲み込んで、深く息を吐いた。
■
午後六時。
まだ目を覚まさない彼をソファーに座って待つ。
「あ、あのー……」
すると突然声を掛けられ驚いて振り返る。
綺麗な顔が俺を見ていた。
少し色素の薄目な黒髪に白目の肌。
桜色に似た色の形のいい唇。
とてつもなく美人で、そんな彼が俺に話しかけている現実に胸が高鳴る。
「あ、おはよう。」
「……おはようございます……」
「体調はどう?」
「大丈夫です。……あの、ここは……?それと貴方は……?」
入口で突っ立っている彼に近づき、そっと腕を取りソファーに座らせた。
「俺は賀陽凪。ごめんね、勝手に持ち物見たんだけど、君は堂山真樹君で合ってる?」
「合ってます。」
「死のうとしてたね」
「……すみません」
ストレートに言ったのは間違いだった。悪い事をしたと思っているのか謝られて、慌てて微笑んで首を振る。
「怒ったわけじゃないから謝らないで。」
「あの……でも何で、あそこにいたんですか……?あと、見つけたって言ってたと思うんですけど……」
不思議そうに軽く首を傾げた彼。
その仕草も可愛らしい。
「ああ、それは匂いがしたから。フェロモンのいい匂い。昨日も同じ匂いがしてあまりにも俺の好きな匂いだったから思わず探した。行き着いた先で堂山君が飛び降りようとしてたから……」
俯いた彼の手を、そっと握った。
「堂山君はオメガだね?」
「……ついさっき、知りました。」
それを聞いて驚いた。
ということは、元はアルファかベータということか。
「さっき?……ああ、後天性か。昨日オメガの女性を助けてたけど、それのせいかな。」
「見てたんですか?」
「うん。たまたま車で通り掛かった時に見たんだよ。多分あれは堂山君だったと思う。オメガは中々見かけないしね。」
じゃあ、突然オメガになってしまった絶望感で死のうとしたのか。
「堂山君はオメガになったから死のうとしたの?」
「……はい。うちの家は……まあ、俺自身もなんですけど、偏見が強くて。それに二十四年間アルファとして生きてきたのに、これからオメガとして生きていくことなんて無理です。だから、早々にリタイアしようと思いまして。」
元はアルファで、いきなりオメガに。
確かにそれは困惑してしまうけれど、あまりにも潔がいい。
「潔いいね」
「苦しい事なんて味わいたくないですからね。」
そう言われ、思わず彼の手を強く握った。
そのまま強く手を引いて、腕の中に閉じこめる。
「リタイアするくらいなら、俺にちょうだい。」
「ちょうだい?何を……?」
「堂山さんの人生をちょうだい。」
俺の胸に耳を当てた彼が、そこでクンクン匂いを嗅いでいる。
「俺はね、アルファなんだ。ずっと番を探してて、そんな時に君を見つけた。」
「……ん」
「死なないで、俺の傍にいて。苦しい思いなんてさせないから。」
そっと髪を撫でると、徐々に体重を預けてくれる。
安心してくれているのか、嫌がることは一切ない。
「で、でも、俺は男だから……」
「男でも関係無いのは知ってるでしょ?アルファだったなら余計に。」
「でも……」
アルファだったからこそ、中々頷けない彼。
ずるい方法を使う俺を、彼が許してくれるかは分からないけれど、死んでしまうよりずっとマシだ。
「真樹」
初めて名前を呼んだ。
戸惑いながら顔を上げてくれた彼に優しく微笑みかける。
「俺と一緒にいよう。」
オメガに強制的にいうことを聞かせるアルファ特有の性質を使って、首を縦に振らせた。
後天性オメガになった後は発情期が起こるらしく、それから真樹は薬を飲んだり……俺の精液を飲んだり、そうしてなんとかその期間を終えた。
俺が真樹の働いていた会社の専務だと知った時の慌てぶりは面白かったし、一緒に朝を迎えた日は寝癖が恥ずかしいと布団を頭まで被って洗面所に行く可愛い姿も見れた。
「──凪さん。凪さーん?……凪っ!」
「っわ!」
ソファーに座っていると後ろから抱き着かれて驚く。
「何ぼんやりしてるの?何かあった?」
「あ、いや……真樹と出会った頃を思い出してた。」
「出会った頃?……恥ずかしいから思い出さないでもらっていいですか。」
「何で?可愛かったよ」
「あの時、色々と恥ずかしいことばっかりしたから……」
離れていった真樹の手を掴んで隣に座ってもらう。
「やだー!」とふざけて笑う真樹を掴まえて、抱きしめると大人しくなる。
振り返った真樹にちゅっとキスをされ、可愛いなぁと思いながらヨシヨシ頭を撫でた。
「出会った時の真樹もそうだったけど、今の真樹も可愛くて好きだよ。」
「知ってるよ」
「初めて見た時はかっこいいし綺麗だなと思ったけど」
「え、それ初めて聞いた。そうなんだ?俺かっこよかった?」
「うん。躊躇いなく人を助けられるところ、見習わなきゃなって思った。」
嬉しそうに口角を上げる真樹。
その表情が愛しくて、胸がキュッとなる。
「俺も凪さんが好きだよ。そうやってちゃんと伝えてくれるところとか。すごく嬉しい。」
「ありがとう」
ふふんと満足そうな真樹に、心が幸せで満たされた。
END