次回と悪いおとこ。
次回の探偵と刑事本編は。
嫉妬するベルジュラックを書けたらいいなあと思います。
ベルジュラック、あんま嫉妬しないタイプかなあと思ってたのですが、でも、嫉妬してるととてもイイ(°▽°)
行為の最中にウィルクス君がハイドさんの名前ばかりを呼んで、わかってたけどさすがにイラッと(??)くるとか。
いじめっこベルジュラック君が書けたらいいなあと思います。
きょうのおまけ。
ミニ掌編。「悪いおとこ」。
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朝の挨拶もそこそこに、ハイドは居間の隅に座って、開いた本で顔を覆うようにして読書に没頭していた。
日曜日、ウィルクスも休日の午前十時過ぎの光景。
ウィルクスはカフェオレの入ったマグカップを手に、いったん窓辺のソファに腰を下ろしたてはいたが、無言で夫のほうを見ていた。本にはしっかりカバーがかかっている。ウィルクスはしばらくしてからそっと立ち上がり、静かに夫のほうに歩み寄った。
ハイドが本を読んでいるところを、いきなり取り上げる。ハイドは慌ててウィルクスのほうに手を伸ばした。
「あっ、エド、見ないほうが……!」
「おれも男ですよ。どうせエロ本でしょう?」
そう言って、軽い気持ちで開いたページを読む。しばらく熟読しているパートナーのことを、ハイドはどきどきしながら見守っていた。
「シド、これ……」本から顔を上げたウィルクスの表情がこわばっている。
「なんで男同士でヤってるんですか?」
「イヴが書いたんだよ」
ハイドは観念したとでもいうように、どこか快活に言った。ウィルクスは眉を吊り上げる。
イヴ・ド・ユベール。フランス人で、ハイドの大学時代の一年先輩(イギリスに留学していたのだ)。現在はパリで作家をしている。
実はゲイで、大学時代、ハイドに愛を告白していた。
「ユベールさん、エロ本も書くんですね」
戸惑う顔のウィルクスに、ハイドは気楽にうなずく。
「ふだんからエロ本にみまがうばかりの純文学を書いてるんだけどね。きみが持ってる本は心理描写がきちんとなされたエロ本かな。『おかずにしてもらうために書いた』って言ってたから」
生真面目で性に不慣れなウィルクスがこわばった顔をしているので、ハイドは慌てた。
「いや、ごめん。猥談は苦手だったね」
「……いや、おれも自分から絡んだくせに、なんかすみません。でもまさかゲイの話とは思わなくて」
「その本、市場には出回ってない、いわゆる私家版ってやつでね、イヴが暇つぶしに書いて親しい人に配ったものなんだ」
「あれ? でも……」
ウィルクスは怪訝な顔で本をぺらぺらとめくった。
「なんで英語なんだろう? ユベールさんの本って、たしか全部フランス語でしたよね?」
ハイドは沈黙する。その顔を見て、ウィルクスはもしかして……と思った。ハイドは重々しくうなずいた。
「そう。イヴが、『ウィルクスさんも読めるように』って英語で書いたんだ」
「やっぱそうですか! あの人、おれに自分が書いたエロ本読ませたがるのはなんなんですか?」
「怒らないであげてくれ。きみを愉しませたいんだよ、彼は」
「シモの心配してもらわなくても大丈夫です」
かすかに赤くなり、眉を吊り上げるウィルクスに、ハイドはなだめる口調になる。
「この本、ぼくときみをモデルにして書いたんだって。……そう怒らないで。四十の私立探偵が、二十七の刑事を監禁して愛する四日間の物語。興奮するだろう?」
「おれを巻きこまないでください」ウィルクスは目を吊り上げている。
「それを親しい人に配ったって? ユベールさんったら!」
「まあまあ。モデルにはなってるけど、すべてはイヴの想像だよ。特にベッドシーンは……」
「だからおれに、『きみは噛むほう? シドは? 平均で一夜に何ラウンドする? いくのはどっちが早い?』とか訊いてきたんですね。セクハラですよって一蹴しましたけど」
「あ、だからイヴ、『ウィルクスさんに振られた』って嘆いてたのか。どうせくだらないちょっかいだしたんだろうと思ってたが……」
「英語で書かれていようと、おれは読みませんからね!」
きっぱり宣言したウィルクスに、ハイドはちょっとからかいたい気分になった。わざとしょんぼりと言ってみる。
「そうか? 意外とよくできてるよ。小説のきみも、すごくセクシーでエロティックで、可愛いし」
「おれじゃないですって」
「ぼくはね、小説の中で自分の分身ときみの分身が睦みあっているのを見ると、すごく幸せな気分になるんだ。現実ではいろいろあるけど、小説の中では二人とも常に、とても幸せそうだから」
ウィルクスは沈黙する。その表情を見ていると、ハイドは感心する。エドは刑事のくせに動かしやすすぎる。いや、仕事ではちゃんと防御しているんだろうけど、ぼくの前で見せる無防備さはたまらないな……。
ハイドは図に乗った。
「それに、本に書かれたぼくらは永遠に残るわけだし……」
そう言うとウィルクスは我に返り、眉を吊り上げた。
「おれとあなたのいちゃいちゃが後世に残るなんて事件ですよ! ……ユベールさんに回収を依頼します」
本を持っていこうとするウィルクスを、ハイドは慌てて止めようとした。
「ま、待ってエド! その本だけは! 今とてもいいところなんだよ、手錠でベッドに繋いだきみをひたすら前立腺でいじめ続けて、潮を吹いて恥ずかしさに泣きじゃくるところを慰めてあげてるところで……!」
「没収です」
ウィルクスはばたんと扉を閉めて出ていった。
ハイドは扉を見つめる。ちらりとテーブルに視線をやった。手をつけていないカフェオレのカップ。また戻ってくるかなと思う。
実は本は二冊あるのだ。
ハイドはのんびりと大型の仕事机に向かった。
そのころ、ウィルクスは自分の寝室のベッドに腰を下ろし、ハイドから奪った本を熟読していた。
さすが作家と言おうか、たしかに読ませる。読書が趣味のウィルクスはすぐに引きこまれた。描写は美しく、人物も魅力的だ。
たしかに、シドに似てる。優しくておおらかで、快活で……謎めいているところ。この刑事のほうは、ほんとにおれがモデルなのかな? こんなに可愛いくはないけれど……。
それに、ウィルクスの手はいつのまにかパンツの上から、内腿に這っていた。
はっと気がついて、真っ赤になる。動悸が激しく、目がうるんでくる。ウィルクスは本を閉じてベッドの上に置き、立ち上がった。
そっと居間の扉を開けると、ハイドは仕事机にいてノートパソコンを触っていた。
「シド……仕事ですか?」
扉のところにたたずんでつぶやくウィルクスに、ハイドは笑顔を向ける。
「いや、行きたいカフェを調べてたんだ。これからいっしょに行かないか? エドガー・アラン・ポーにちなんだカフェだって」
「……」
ウィルクスは無言でとことこ寄ってきた。ハイドの前に立つ。夫は彼を見上げて首を傾げた。
「エド?」
無言のまま、ウィルクスは椅子に座るハイドの腿におずおずと腰を下ろした。もう一度、ハイドが「エド?」とささやいた。
「どうしたんだ? ん?」
その光の集積のような青い瞳と、優しい笑顔に、ウィルクスは夫に抱きついた。ハイドも大きな手を背中に回す。しばらく黙って抱きあったあと、ウィルクスはそのまましがみついてつぶやいた。
「カフェは、もうちょっとあとにしませんか」
「いいよ。なにか、したいことある?」
ウィルクスは夫の唇に口づけた。ハイドは欲望を受け入れ、逞しい腕をまわして体重をかけてくるパートナーを受け入れる。
イヴ、ぼくは日ごとに悪い男になっていくようだよ。エドはそう自惚れさせてくれる。
キスを繰り返しながら、二人は溶けあうように抱きあい、指を絡めた。
感謝するよ、イヴ。ハイドは唇の端で優しく笑った。
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なんだかんだでキューピッド……。
ユベールさんもよろしくお願いします(〃ω〃)