「荒れ屋の姫」の続きのようなもの

拍手から「荒れ屋の姫の続きが読みたい」という感想をいただいたのでちょっと書いてみたのですが、書きながら時代考証が気になってしまってなかなか進まないので最後まで書くのはあきらめました。(本編と今回の分は時代考証はあやふやなまま、あちこち誤魔化しつつ書いてます)

書きたいところまで書いて、最後に簡単な結末までのあらすじを書いていますので、中途半端な作品でも大丈夫だよという方はどうぞ。

 

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いつもよりも若干よろよろとした足取りで、僕は宮中の廊下を歩いていた。

まったく、昨夜はえらい目にあった。
あの荒れ屋から逃げ帰った後、自宅で身を清め身支度を整えて何とか時間通りに参内したが、まだ体のあちこちが痛くて今日はまともに仕事が出来そうにない。

 

「蔵人殿、こちらを落とされましたよ」
「あ、ありがとうございます」

 

後ろからそう声をかけられ、礼を言いながら振り返った僕は、そのまま固まってしまった。

 

「どうかされましたか?」

 

平然とした顔でそう問いかけるのは、ものすごく見覚えのある──はっきり言ってしまえば昨夜あの荒れ屋で僕をあんな目に合わせたあの男だった。
あの時の女装とは違い、今はきちんとした男の格好をしているが、昨夜ずっと至近距離で見せられていたあの顔を見間違えるはずもない。

僕が驚きのあまり固まっていると、男はにっこりと微笑んで、僕の手に何かの紙を握らせてきた。

 

「それでは失礼します」

 

男は軽く頭を下げると、固まったままの僕を置いて去っていった。

 

「おはよう」

 

男が去るのと入れ替わりに廊下を歩いて来た同僚にあいさつされ、ようやく我に返った僕は、慌てて「おはよう」とあいさつを返す。

 

「なあ、今のって大学寮の変人じゃなかったか?
 お前、知り合いなのか?」
「えっ、今のが噂の変人なのか?」

 

大学寮の変人というのは宮中の有名人で、すごく有能なのだがとんでもない変人らしい。
僕たち蔵人はその存在を先輩に教えられ、「大学寮でやたら顔がいいやつがいたらそれがその変人だから、見かけても絶対に近づくな」と言われていた。

 

そこまで言われるとはどんな変人なのかと聞いてみても、先輩は言葉を濁して教えてくれなかったが、今ならその理由もわかる。
きっと先輩もその変人に僕と同じような目にあわされたのだろう。
先輩も本心では変人ではなく変態と言いたかったに違いない。

 

同僚はどうやらその顔を知ってはいるが、ひどい目にはあっていないらしく、特に挙動不審になることもなく僕の疑問に答えてくれた。

 

「ああ、そうだよ。
 知らなかったってことは知り合いじゃないのか?」
「あ、ああ。
 ちょっと落とし物を拾ってもらっただけで……」

 

そう答えながらも、僕は慌てて手に握っていた紙をふところにしまう。
もちろんこんな紙を落とした覚えなどないが、あの男が渡してきたものなのだから、とにかく早く隠さないといけない気がしたのだ。
同僚は僕の返事に納得したらしく、「そうか」とだけ答えて次の話題に移っていった。

 

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「よし、誰もいないな……」

 

休憩時間を待って使われていない部屋にやってきた僕は、ふところからあの男に渡された取り出した。
紙は上品な色合いの薄様を折り畳んだ文のようだ。
開いてみるとそこには惚れ惚れするような美しい女文字で、共寝をした翌朝、男が女に送る後朝の文の返事という体裁の文章が書かれていた。
その文を読み進むうちに僕の手は小刻みに震えてきていた。

 

『あなた様のたくましいものに突かれて、初めてなのにあんなにも声をあげて感じてしまったことを恥ずかしく思います』も『胸の飾りを触っていただくのがあれほどに心地よいことを初めて知りました』も『あまりにもあなた様が激しすぎて夜が明ける前に気を失ってしまったことをどうかお許しください』も全部僕の台詞じゃないか……!

 

もちろん僕が実際にそんなふうに男に媚びたことを言うはずがないが、それでも昨日あったことが僕の立場にたって書かれているのは確かだ。
僕があの時思っていたことまでが正確に書かれているのがまた悔しい。

 

しかも文の中で書き手の女性がほのめかしている住まいは僕が住んでいるあたりにあり、あの男が僕が住んでいるところ──おそらくは僕が右大臣の子息であることまで知っているだろうことがうかがい知れた。

 

って言っても、宮中に出入りできる立場だったら知っててもおかしくないんだよな……。

 

蔵人というのは帝のお側近くに仕えているので目立つし、高位の貴族の子息が多いので少し詳しい人に聞けば僕が誰かはすぐにわかるはずだ。
おそらくあの男は、以前から僕のことを知っていたのだろう。

 

そんなことを考えながら文を読み進んでいた僕は、終わりの方にある一文を読んで思わず「ぎゃっ」と声に出してしまった。

 

『今宵もまたあなた様にお会いできなければ、私は寂しさのあまり、あなた様のことを誰かに話してしまうでしょう』

 

やめて! やめてくれ! あんなこと誰かに話されたら死ねる……!

 

僕は真っ青になって文をふところにしまうと、大慌てで大学寮に向かった。

 

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大学寮で取り継ぎを頼んでしばらく待っていると、あの男が機嫌良さそうに微笑みながらやって来た。

 

「ここでは話しにくいだろうから、人のいないところに行こうか」

 

そう言われ、二人きりになったらまた昨日のような目にあわされるのではと警戒してしまったが、人に聞かれたら困るのは確かだったのでおとなしくついていくことにする。
男は小部屋に入ると、僕に微笑みかけた。

 

「君の方から来てくれてうれしいよ」
「こんな文を渡されて、来ないわけにはいかないでしょう!」
「それは申し訳なかったね。
 どうにかして君と話をする機会を作りたかったものだから」

 

口では申し訳と言っているものの、男はなんとなくうれしそうな顔をしていて、全く申し訳なさそうではない。

 

「昨夜はあれほど濃密な時を過ごしたのに、ほとんど話ができなかっただろう?
 だから、今宵はゆっくり話をしたいと思ってね」
「私はあなたと話すことなどありません」
「それならそれで構わないけれども、そうすると私は寂しさのあまり昨夜のことを誰かに話してしまうだろうね」

 

文に書いてあったのと同じ脅し文句を言われ、僕はぐっと唇を噛む。

 

……そっちがその気なら、僕の方だって脅してやる!

 

「それなら私はあなたが女装するような変態だと言いふらしますよ」
「どうぞ」
「……え?」
「だから、好きに言いふらしてくれて構わないよ。
 私は変人で通っているから、それが変態に変わっても大差ないしね」

 

どうやら男は本当に女装のことを言いふらされても困らないらしく、平然とした顔をしている。

 

「それで、どうする?
 今宵は私と話をする?
 それとも話をせずに、昨日のことを誰かに話される方がいいかい?」
「……あなたと、話をします。
 その代わり、場所は私の屋敷にしてください」

 

せめて何かあった時に助けを呼べるようにとそう提案すると、男はあっさりうなずいた。

「それで構わないよ。
 それではまた夜にうかがうから」

男は微笑みながらそう言うと部屋を出て行った。


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※設定
受け──快楽に弱い流され受け。十代半ば。お坊ちゃんらしい甘ったれでスキが多い。
攻め──策略強引系攻め。二十代半ば。当時最先端の学問の漢籍の知識が豊富で有能。一族全体が家系も良く一芸に秀でているのに出世には興味のない傾向にあり、変人一族で通っている。すでに独立していて、こじんまりした家に少ない家人と暮らしている。荒れ屋は取り壊し前のを一時的に借りた。


この後は、受けは攻めに宮中の空き部屋とか書庫とか牛車とかで色々エロいことされつつ、一緒に月見とか遠乗りとか双六とかしたり、勉強を教えてもらったりして、「意外と大事にしてもらえるし、アレは気持ちいいし、この人のこと嫌いじゃないから、まあいいかなー」みたいな感じで流されて攻めと付き合っちゃう感じです。始まりは無理やりだけど、最終的にはそれなりにラブラブになるよ!