琥珀犬パラレルSS
以前、サイトのブログに書いた「琥珀の蛇と傷だらけの犬」のパラレルSSです。
竜蛇受けもアリなのでは…と、書いてみたやつなので、苦手な方はスルーしてくださいね。
水面下で敵対している組の組長×17歳の竜蛇。
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この日、鮫島はお気に入りの彫師の元を野暮用で訪ねた。
先客がいたようで、弟子の青年に茶を出されて待っていた。
鮫島は鮫島組の組長だ。
背が高く、切れ長の一重で眼つきが鋭い。艶のある黒髪に冷たいアイスブルーの瞳をしている。
薄い唇が酷薄な雰囲気だが、危険な魅力の美丈夫だった。
「竜蛇だと?」
ポロリと弟子が漏らした名前に片眉をピクリと上げる。
蛇堂組とは水面下で冷戦状態だった。
病で引退した初代は稀代の博徒と謳われた豪傑だが、二代目は阿保だ。
三代目になるであろう息子が、墨を彫りに来ているらしい。
────確か、16か17だったか。
ついでに顔を拝んでやろうと、鮫島はズカズカと奥の間へ進んだ。
「鮫島さん! 駄目です!」
弟子が慌てて止めたが、鮫島は無視して襖を開け放った。
彫師の篁が驚いてこちらを見た。
「蛇堂組の跡取り息子ってのは、そいつか?」
「鮫島、出て行け。仕事の邪魔をすんじゃねぇよ」
「ケチケチすんな。顔を見るだけだ。」
蛇堂組の跡取り息子は裸で布団に伏せていた。
綺麗に筋肉のついた背中から尻にかけて、彫りかけの蛇が蠢いている。
「……鮫島組の?」
跡取り息子がゆっくりと体を起こした。
「……ッ!」
望み通り、その顔を見て鮫島は息を呑んだ。
蛇堂組の跡取りはひどく整った顔立ちをしていた。
くすんだ金茶の髪に琥珀の瞳。体つきから女に見えるわけではないが、その辺の女よりも美しい顔をしている。
とても10代とは思えない。すでに大人の色香を持っていた。
その琥珀の瞳に囚われ、声が出ない。
竜蛇は鮫島の瞳をまっすぐに見ている。
その視線は蛇のように鮫島を締め上げ、このまま窒息してしまいそうだった。
美しく均整の取れた裸体を隠しもせず、竜蛇は片膝を立てて座り、鮫島に言った。
「鮫島組の組長さんは礼儀も知らないんですか?」
その声にゾクリとした。
鮫島は決して男色では無い。男相手に欲情したことなど一度も無かった。
竜蛇は女っぽさなど微塵もない。無駄なく鍛えられた男の体をしている。
それなのに、目の前のこの青年をねじ伏せ、犯したいという衝動が鮫島の体を突き抜けた。
「俺の顔はもう見ただろう。満足したら、さっさと出て行ってもらおうか」
竜蛇の琥珀の瞳に貫かれ、鮫島は一言も発せずに部屋を出て行った。
野暮用などすっかり忘れて、そのまま彫師の家を出て行った。
────ここにいては危険だ。
この場所が危険なのではない。
あの蛇のように絡みつく、琥珀の瞳が危険なのだ。
────囚われてしまう……。
鮫島は今まで、どんな美しい女でも夢中になったことなどなかった。どれほど極上の女とセックスをしていても、頭のどこかでは冷めていた。
本気で誰かを欲しいと望んだ事もない。
それなのに……たった数秒、あの琥珀の瞳に射抜かれただけで、己の内に生じた初めての感覚に鮫島は動揺していた。
危険だ。あの年若く、美しい青年は。
二度と竜蛇に関わらぬよう警戒する反面、もう一度あの琥珀の瞳に魅せられたい……と、鮫島は思ったのだった。
end.
なんてね。
この後、馬頭に竜蛇のことを調べろと依頼したのが鮫島で、それがきっかけで馬頭は竜蛇ウォッチャーになったりします。