琥珀犬パラレルSS

 

以前、サイトのブログに書いた「琥珀の蛇と傷だらけの犬」のパラレルSSです。

竜蛇受けもアリなのでは…と、書いてみたやつなので、苦手な方はスルーしてくださいね。

水面下で敵対している組の組長×17歳の竜蛇。

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

この日、鮫島はお気に入りの彫師の元を野暮用で訪ねた。

先客がいたようで、弟子の青年に茶を出されて待っていた。

 

鮫島は鮫島組の組長だ。
背が高く、切れ長の一重で眼つきが鋭い。艶のある黒髪に冷たいアイスブルーの瞳をしている。
薄い唇が酷薄な雰囲気だが、危険な魅力の美丈夫だった。

 

「竜蛇だと?」

 

ポロリと弟子が漏らした名前に片眉をピクリと上げる。

蛇堂組とは水面下で冷戦状態だった。
病で引退した初代は稀代の博徒と謳われた豪傑だが、二代目は阿保だ。

三代目になるであろう息子が、墨を彫りに来ているらしい。

 

────確か、16か17だったか。

 

ついでに顔を拝んでやろうと、鮫島はズカズカと奥の間へ進んだ。

 

「鮫島さん! 駄目です!」

 

弟子が慌てて止めたが、鮫島は無視して襖を開け放った。

彫師の篁が驚いてこちらを見た。

 

「蛇堂組の跡取り息子ってのは、そいつか?」

 

「鮫島、出て行け。仕事の邪魔をすんじゃねぇよ」

 

「ケチケチすんな。顔を見るだけだ。」

 

蛇堂組の跡取り息子は裸で布団に伏せていた。
綺麗に筋肉のついた背中から尻にかけて、彫りかけの蛇が蠢いている。

 

「……鮫島組の?」

 

跡取り息子がゆっくりと体を起こした。

 

「……ッ!」

 

望み通り、その顔を見て鮫島は息を呑んだ。

 

蛇堂組の跡取りはひどく整った顔立ちをしていた。
くすんだ金茶の髪に琥珀の瞳。体つきから女に見えるわけではないが、その辺の女よりも美しい顔をしている。

とても10代とは思えない。すでに大人の色香を持っていた。

 

その琥珀の瞳に囚われ、声が出ない。

竜蛇は鮫島の瞳をまっすぐに見ている。
その視線は蛇のように鮫島を締め上げ、このまま窒息してしまいそうだった。

 

美しく均整の取れた裸体を隠しもせず、竜蛇は片膝を立てて座り、鮫島に言った。

 

「鮫島組の組長さんは礼儀も知らないんですか?」

 

その声にゾクリとした。

 

鮫島は決して男色では無い。男相手に欲情したことなど一度も無かった。

竜蛇は女っぽさなど微塵もない。無駄なく鍛えられた男の体をしている。

それなのに、目の前のこの青年をねじ伏せ、犯したいという衝動が鮫島の体を突き抜けた。

 

「俺の顔はもう見ただろう。満足したら、さっさと出て行ってもらおうか」

 

竜蛇の琥珀の瞳に貫かれ、鮫島は一言も発せずに部屋を出て行った。

野暮用などすっかり忘れて、そのまま彫師の家を出て行った。

 

────ここにいては危険だ。

 

この場所が危険なのではない。
あの蛇のように絡みつく、琥珀の瞳が危険なのだ。

 

────囚われてしまう……。

 

鮫島は今まで、どんな美しい女でも夢中になったことなどなかった。どれほど極上の女とセックスをしていても、頭のどこかでは冷めていた。


本気で誰かを欲しいと望んだ事もない。

それなのに……たった数秒、あの琥珀の瞳に射抜かれただけで、己の内に生じた初めての感覚に鮫島は動揺していた。

 

危険だ。あの年若く、美しい青年は。

二度と竜蛇に関わらぬよう警戒する反面、もう一度あの琥珀の瞳に魅せられたい……と、鮫島は思ったのだった。

 

end.

 


なんてね。

 

 

この後、馬頭に竜蛇のことを調べろと依頼したのが鮫島で、それがきっかけで馬頭は竜蛇ウォッチャーになったりします。