物語の世界へかっさらわれて、最後の一行まで目を離せない
天の川が流れる夜空の下で、川沿いにいる蛍売りの老爺。老爺は茶碗に掬った一杯の水を銅貨一枚で売りつける。 飲めば甘い水が全身に行き渡る。 もう一杯、もう一杯と繰り返される動作の中で蘇る思い出。 夜の川原を歩く湿った空気、葉が触れる感触、捕まえた蛍を口に入れる描写が体感的で、自分の身体まで物語の中にあるような錯覚に陥る。見事な表現力だと思う。 主人公とともに茶碗の中を覗き込み、川の水を飲み干して思い出を見る。 思い出から生い立ちを知り、恋を知り、息付く間もなく怒涛の展開へ持っていかれる。 最後の一行は読者に向けられた言葉。気をつけようと思わされた。 ここまで書かせてしまう、310さんの「ほたるうり」の書もすごいパワーをはらんでいる。