執着の愛の物語から骨太の人間ドラマへ
この物語は、前半と後半で趣が異なります。
前半は撃たれて死ぬはずだった32歳の主人公ラウル(香港マフィア)が、19歳の別の美青年の体で目覚め、その青年を買ったという自分を殺そうとしていた男ミハイル(ロシアンマフィアのボス)に激しく調教される物語になっています。ここがかなりエロい。更に実は美青年の体にラウルの魂が入ったのも、ミハイルの仕業と明かされ、ミハイルのヤンデレぶりが、本当に凄まじい。
なぜそこまでラウルにミハイルが執着するのか明かされると、ミハイルへの見方が変わります。過去にミハイルの孤独な魂をラウルが癒し、ミハイルはその時点でラウルを愛しており、再会を望んでいた。その気持ちがこじれて執着になり、ドSな調教へ向かわせた。
学者肌だった若いミハイル(ミーシャ)をマフィアのボスに変えてしまったのは自分だと責任を感じるラウル。ミーシャの側で生きる事を決意します。ラウルさん、漢!
ラウルさんの漢ぶりは、今の美青年な体の元の持ち主のために復讐してやるところなどからも表れていて、気持ちがいい。
そこを越えて後半に入ると、今は亡きラウルの本当の父親と育ての父が、スパイであったことがわかったり、ミハイルと真っ向から敵対する崔が出てきます。
ここからはアジアの現代史の暗部がときどき登場してきます。
ラウルさんの父親を5歳のラウルさんの目の前で殺したのは崔なのですが、崔はベトナム戦争で婚約者を敵(支援していたのは米軍)に惨殺され、白人に特に憎しみを抱いている。止められない憎しみの連鎖。
そんな中でラウルさんは常に真っ直ぐ、生きる事に手を伸ばし、生を掴んで生き延びてきたのです。そのことに感動を覚えます。
最後に自らの手で崔を倒し、ラウルさんはミハイルとともに生還します。
なかなか素直に認められなかった、ミハイルへの愛を言葉にしたラウルさん。19歳でミハイルと出会って、やっと愛を自らの手でつかみ取りました。
物語をとおすと、様々な闇に囲まれていながら、真っ直ぐにラウルさんとミハイルさんの愛が芯となって貫いている、本当に骨太で読みごたえのある物語でした。
どうもありがとうございます!