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1話

 太陽が沈み、月が浮かぶ静かな夜。  月の光が差し込む夜の街中で、  今宵も美しい花の甘い香りに誘われて、  甘い蜜を求めた鮮やかな蝶が舞う。 *****  人々が眠りに就く静かな夜の街中で、ひっそりと佇んでいる一軒の飲酒店があった。飲酒店の名前は『ナイトムーン』と言う。お洒落な大人の雰囲気を漂わせる店の外見をしていているのが、特徴的だ。その飲酒店の前で、一人の青年がおずおずとしながら、立っていた。名前を在原晴斗(ありはらはると)と言った。柔らかい黒色の髪に、宝石の様に煌めく蜂蜜色の瞳。青年と言うには華奢な体つきで、幼い印象を抱かせる童顔の顔つきをしていた。  そんな晴斗は一人、飲酒店の前で緊張した様に立ち尽くしていた。飲酒店へ続く扉を開けようと手を伸ばしては、手を引っ込めて戻すという動作を何回も繰り返していた。飲酒店と言った店に入ること自体、晴斗は初めての経験ではない。けれど今回、訪れようとしている飲酒店は、他の店とは異なっていた。パソコンで検索して、見つけ出した特殊な飲酒店。晴斗はドキドキとしながらも、緊張しながらも、好奇心が沸きながらも、勇気を出して一歩、足を踏み入れたのだった。  店内に入ってみると、様々な種類のお酒の香りが漂ってきて、雰囲気に酔いしれそうになる。柔らかい光が差し込む照明で、店内は明るく照らされていた。辺りをきょろきょろと見回してみると、カウンター席とテーブル席があり、様々な職業を思わせる人たちが座っているが、共通して全員が男性である事が窺えた。棚には、晴斗の見た事も聞いた事も無い酒の瓶が置かれ、彩り豊かに目に映る。またピアノも置かれていて、店の店員が綺麗なスーツを身に纏いながら、優雅な演奏をしていた。晴斗の知らない曲だが、ジャズ調の曲調は店内に似合っていて、心地よく感じさせた。 「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ」  晴斗が店内のお洒落な雰囲気に圧倒されていると、カウンター席からグラスを磨いているマスターに声を掛けられる。晴斗はぺこりと会釈をしながら、あたふたして空いている奥のテーブル席に座り込んだ。しばらくすると、店員の青年がグラスに冷たい水を注ぐと、晴斗の座っているテーブルの上に、ことりと置いた。ちらりと店員の青年を晴斗は見た。茶髪の髪を一つに結った、翡翠色の瞳。黒を基調としたバーテンダーの服装を、綺麗に着こなしていた。顔立ちは格好良いというよりは、かわいいと言った印象を抱かせる童顔だった。晴斗は、自分よりは少し年上なのだろうかと考えていると、店員の青年が声を掛けた。 「やぁ、こんばんは。このお店には、初めて来た人だね。見ない顔だもの」 「はい、初めて来ました」 「俺は月村洋平(つきむらようへい)って言うんだ、よろしくね」 「在原晴斗と言います、よろしくお願いします」  まるで猫を連想させるかの様に、人懐っこく笑いかける店員は、月村洋平と名乗った。気さくに話しかけてくる洋平に対して、晴斗も自己紹介をすると、緊張した面持ちで、ぺこりとお辞儀をするのだった。 「緊張するのも無理はないよね。そうだ、何か飲み物でも飲む? お酒は美味しいし、お酒が苦手な人の為にノンアルコールも用意しているんだ」  明るく笑いながら洋平は、メニュー表を晴斗に手渡した。「どうも」と短く礼を告げて、受け取った晴斗はメニュー表を眺める。せっかく飲酒店に来たのだから、カクテルは飲んでみたいと晴斗は思った。たくさんの種類が書かれたお酒に、圧倒されそうになりながらも、見知ったカクテルの名前を見つけて、緊張しながら指を差した。 「えっと……、カルーアミルクをお願いします」 「カルーアミルクね、ちょっと待っていてね。マスター、カルーアミルクをお願いします!」  以前の同窓会で初めて飲んだカクテルのカルーアミルクを思い出して、晴斗は注文する。洋平が緊張を和らげる様に笑いながら、マスターに注文を告げる。マスターは柔和な笑みを浮かべながら、カルーアミルクを作っていく。洗練された動作に、晴斗は目を瞬かせていると、いつの間にかカルーアミルクが出来上がっていた。洋平はテーブルの上にことりと置くと、人懐っこい笑顔を浮かべる。 「晴斗くん、どうぞ。ゆっくり、くつろいでいってね」 「ありがとうございます、月村さん」  そう告げると、洋平は手をひらひらとさせながら、店内の奥に戻って行ってしまった。綺麗なグラスに注がれたカルーアミルクは、とても綺麗な淡い茶色をしていて、きらきらと煌めいた。晴斗は目を瞬かせながら、カルーアミルクを一口だけ口に含む。お酒の独特の味わいの中に、甘い味が口の中に広がりとても美味しく感じた。思わず何杯でも飲めそうだと思うが、あまり酒に強い方では無い晴斗は、酔ってしまう事を恐れて止める。どこか落ち着かない様子で、店内を晴斗はぐるりと見回していた。  この『ナイトムーン』という店は、ただの飲酒店ではない。所謂、ゲイバーに分類されている場所であった。同性同士の出会いを提供する場として、確立されていた。この店では、全ての男性が身体を売って金を稼ぐ者や、身体を買って金を払う者として分類されている。晴斗は後者側として店に入ったのだった。  在原晴斗は、幼い頃から恋愛対象にするならば、確かに異性が好きだった。けれど、切っ掛けは分からない。分からないが、晴斗は同性に対して、いつしか興味を持つようになってしまっていた。そんな自分は異常なのかと思い、親にも友人にも相談できずにいた。  悶々としながら過ごしていた晴斗は、ある日、パソコンでネットサーフィンしていた。その時に、たまたま見つけてしまったのが、男性同士がセックスをしている映像が配信されているアダルトサイトだった。晴斗は好奇心に駆られてしまい、恐る恐るその映像を見てしまった。男性同士が激しくセックスしている映像を見た時に、晴斗は性的に興奮していた。見入る様にして男性同士のセックスの映像を眺めてしまい、晴斗の自身は気が付いたら勃って興奮していた。 (気持ち良さそうにしていたな……)  端正な顔つきで、がたいの良い身体の男に抱かれている男性は、とても気持ち良さそうに自らも腰を振り、喘ぎ声をあげていた。その光景が目に焼き付いて離れなかった。その後も、晴斗は男性同士がセックスしている映像を見続けた。そして、いつしかその映像を見ながら自慰をするようになってしまった。女性の裸体よりも、男性同士のセックスの映像を見て自慰するのは、明らかに普通ではない、異常な事だと思っていても、身体が求めてしまい止められそうになかった。  さらに晴斗は、いつしか「自分も女の様に男に抱かれたい」と思うようになってしまった。晴斗の自身を扱いて自慰をするだけでは物足りなく感じてしまい、親に内緒で大人の玩具、いわゆる男性器をモチーフにしたアナルバイブを、こっそり購入してしまった。アナルバイブを使用しての自慰は、忘れられそうにないくらいに、とても気持ち良くなってしまい、戻れない所まで晴斗の身体は堕ちてしまった。今では、後ろの孔をいじらないと達けない淫らな身体になってしまった。  そして、晴斗はアナルバイブでの自慰でさえも物足りなく感じてしまい、さらにもう一歩踏み出してしまう。ネットサーフィンをして、ゲイバーという特殊な飲酒店の存在を知ってしまった。金を払えば、自分の事を抱いてくれる人はいるのだろうかと思いながらも、身体が疼いてしまい仕方が無かった。こうして、晴斗は『ナイトムーン』の店に入ってしまったのだった。
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