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10話
お互いに想いを告げあった夜、愁と晴斗は正式にお付き合いをする事になった。所謂「恋人」という関係性になった事が、とても嬉しくて、どこか照れくさかった。恋人だからと言う事で、愁から合鍵を渡された時は、晴斗は驚きに目を見開いた。
「合鍵を渡すから、好きな時に俺の家に来てもいいぞ」
「いいんですか……?こんな大事なものを」
「大事なものだからこそ、晴斗に渡すんだ」
「ありがとうございます、愁さん」
愁の言葉が嬉しくて、晴斗は花の咲く様な笑顔を浮かべてお礼を告げた。愁の家の合鍵は、今ではとても大事なものとして、晴斗は大切に持ち続けている。
しばらくしてから愁に連れられて、『ナイトムーン』にも顔を出した。愁と晴斗が正式お付き合いすることになった事を、マスターと洋平と富之に報告をした。皆が一様に「おめでとう」と祝福の言葉を掛けてくれるのだった。祝福してくれる人達がいるのは、とても嬉しい事だ。その日は、『ナイトムーン』を貸し切って、お祝いのパーティーが開かれた。マスターがオリジナルのカクテルを作ってグラスに注いでくれたり、洋平が酒の肴を手作りしたりしてくれた。大いに盛り上がり、楽しい夜を過ごしたのだった。
それから、バイトで金を稼いでは『ナイトムーン』へ遊びに行っては、洋平と富之を交えて4人で、世間話に花を咲かせるのだった。そして、洋平と富之も正式に恋人としてお付き合いする事になったと報告されるのは、しばらく経ってからのことだった。マスターも愁も晴斗も同じ様に「おめでとう」と祝福の言葉を掛けるのだった。富之にも恋人が出来て良かったと、晴斗は心の底から思うのだった。
洋平がせっかくなら、4人で何処か遊びに行こうと提案すると、愁がそれもいいなと肯定してくれたので、4人で何処か遊びに行く事が決まったのだった。海へ行くのもいいし、山へ行くのもいいし、温泉に行くのもいい。洋平と愁があれこれと、様々な旅行のプランを立ててくれるので、晴斗と富之は嬉しそうに笑い合い、その日を楽しみにするのだった。
*****
初めて愁の家に遊びに行った時の事だった。愁は几帳面な性格だからか、部屋の中は綺麗に整理整頓されていた。恋人の家に遊びに行くというのは、何だか照れくさくて、落ち着かなくて、ソファーに座りながら、晴斗はきょろきょろと辺りを見回していた。ふと、あるものに目が入った。それは、晴斗が愁に対して贈った小さな勿忘草の花束だった。晴斗が立ち上がると、部屋の中に飾られている勿忘草の花束にゆっくりと近付いた。愁もそんな晴斗を追いかける様に、ゆっくりと立ち上がると近付いて行く。晴斗は、はにかむ様にして笑みを浮かべながら、愁の空色の瞳を見つめる。
「大切に持っていてくれたんですね」
「お前から、初めて貰ったプレゼントだからな」
勿忘草の花束をドライフラワーにして大切に飾っていると、愁が告げてくるので晴斗はとても嬉しくなった。ふと、愁は晴斗の方に振り返ると問いかけてきた。
「晴斗は、勿忘草の花言葉は知っているか?」
「花屋の店員さんに教えてもらいました。『私を忘れないで』ですよね」
「あぁ。……だがな、勿忘草にはもう一つ花言葉があるんだ」
晴斗の頭に疑問符を浮かべて首を傾げていると、愁はそっと晴斗の事を抱き寄せる。そうして、晴斗の耳元でそっと囁いたのだった。
「勿忘草の花言葉……『真実の愛』だ」
その言葉を理解した瞬間に、晴斗は見る見るうちに顔を真っ赤に染まらせる。そんな晴斗が愛おしくて仕方がない愁は、穏やかな笑みを浮かべながら、晴斗の事を大切に抱きしめる。
「愛している、晴斗」
「愛しています、愁さん」
晴斗も身体を愁に預けると、幸せそうに笑みを浮かべながら抱きしめ返す。そうして、空色の瞳と蜂蜜色の瞳が交わった。お互いに熱の篭った瞳で見つめ合うと、深い口付けをするのだった。甘い蜜の様に、酔いしれそうになる深い口付け。
お互いに忘れたくないと、
このまま夜が明けないで欲しいと、
願った夜に真実の愛を結んだ物語。
終
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