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地獄のヴァレンタイン 翌日

地獄のヴァレンタイン 翌日 珍しく我慢のできない俺がいた。 何、なんで俺の脚はどこに向かってる? 俺は怒ってるんだよ! いや違う、心配で不安でイライラしてどうしようもない気持ちで。 俺の脚は勝手に動いてるんじゃない。 俺が俊の家へと向かわせてるんだよ…… ヴァレンタイン当日、 どんなに待っても俊からの連絡は入らない。 次の日はまだ仕事がある平日。 忙しいんだろうか、きっと全く手も離せない仕事が入ったとか。 手慰みにコンビニ弁当つまみに煽った焼酎のボトルはもう半分しかない。 ぼんやり見ると、 腹立つことにそのラベルにはチョコ味焼酎と書いてある。 そう言えば、この間杏果がだれかにこれ貰ったって響子と話してたっけ。 あれ、誰だった? なんかモヤモヤする。 なんか、あ! 俺は思い出したその人に酔った勢いで電話をしていた。 「 もしもし 」 「 もしもし?」 「 もしもし、あの」 「 だれ?」 「 だれって、ヒロシさん電話をかけてきたのヒロシさんからですよ。 どうしたんですか? こんな時間に 」 「 君こそなんでこんな日に電話に出るんだよ、 ヴァレンタインだぞ!」 「 あなたからかけてきてなんなんですか 」 クスクスと笑う声が心地よく耳に流れてくる。 やっと、俺は自分のやったことに気づいた。 「 ご、ごめん。 朝霞君、仕事中だった? あ、そんなことないか…… 遅い時間にごめん 」 「 大丈夫ですよ。まだ社の中に居ますがもう帰るところですから。 それよりどうしたんですか? ヒロシさんが割井さんじゃなくて、僕に電話してくるなんて。 割井さんに知られたら僕首絞められますよ 」 明るくはずむ声に思わず涙組む俺…… バガみたいだ。 その声が口から出てしまったらしい。 「 何かあったんですか? そう言えば割井さん、今日は出先から直帰するって言ってたな、 夕方には仕事終わったはずだから、 今一緒ですか? 」 俺はその言葉に唖然とした。 俊がもう帰ってる? こんな日に! 夕方には仕事を終えて! 俺はそれから何を話したかわからないがどうやら穏便にスマフォの通話は終えたらしい。 朝、居間のソファの上で節々痛むアラフォーの身体を労わりながら起きた俺の前には、 チョコ味焼酎の瓶が空っぽになって倒れていた。 なんとかその日の授業を乗り切り俺はすぎる酒で疲れた身体のまま闊歩している。 二日酔いで身体は重い、が脚は止まらない。 いや! 今日は俊の家まで行ってやる。 俺をこんな気持ちにさせやがって…… 吉祥寺の俊のマンションの固いセキュリティーの表ドアまで辿り着く。 部屋番を押してコールボタンを押すと、 「 入って 」 というあっけないほど軽い 応対する声が響いた。 「 え?お前、誰だかわかってるの? 」 「 わかってますよ。ヒロシさんでしょ? 」 「うん、 そうだけど 」 この想定外のやり取りに俺はすっかり毒気殺気立った気を抜かれた。 兎に角、俺は怒ってるんだよ。そう呟きながら体制を整える。今日は何としてもベッドでは主導権を…… ぶつぶつ言っていたのが前から来た男性に聞かれたのか。 おやっという顔でまじまじ見つめられた。 な、何……聞こえたのか?しまった。 ちょっとほほが紅くなったのが目の前の男の人に知れたのか、 「 キュートね 」 とすれ違いざまにほほを軽く撫でられた。 え! 固まった身体をなんとか振り向かせるともうその男性は表ドアから外に出ていて…… なんなんだ? と思うが、そんなのどうでもいい。 俊の部屋の前まで来ると俺はドンドンと目の前の扉をきつめに叩いた。

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