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第2話 乾杯

「優介さん、会いたかったよ……来てくれてありがとう」 まだ扉の前で、外から誰が来るかも中から出てくるかも分からないのに、仁はそんなことはお構い無しとばかりに安藤を思い切り抱きしめていた。 安藤は仁に初めて会った時と、そのあと激しく抱かれた時に包み込まれた分厚い胸板の存在を感じて、全身が燃えるように一気に熱くなるのを感じた。 しかしこんな場所で盛るわけにはいかないし、ここは年上の自分がなんとかせねば――と抱きつき返したいのをぐっと我慢して、仁の背中をポンポンと軽く叩いた。 「あっ、あのっ仁くん、こんなところじゃちょっと……」 「ああごめんなさい、つい嬉しくって!……ところで優介さん、仁『くん』って何?呼び捨てで呼んでよ」 「ご、ごめん。……仁」 「うん!」 あの日会った彼はとても落ち着いていて凄く大人っぽかったのに――燕尾服を着ていたから余計にそう見えたのかもしれないが――なんだか今日は年下らしく感じる。 安藤が会いに来たことでテンションが上がっているならば、それは嬉しいことだけど。 「えっと……こないだのホテル、行く?」 「行く!!」 安藤は二人きりになれるところが他に思いつかなくてついホテルと言ってしまったが、仁は予想以上に食いついてきた。 まさか今回も抱かれることが目的だと思われていたら嫌なので、その辺も落ち着いて話せたらいいな、と思ったのだが。 (でも身体目当てじゃないのなら、なんで会いに来たんだって思われるかな……) 決して身体だけが目当てじゃない、とも言い切れない。 (こういうの、なんて言ったらいいんだろう……) 恋愛をするのは初めてではないはずなのに、過去の恋愛経験などちっとも役に立たない。 それは相手が女性ではないからなのか。 相手が仁だからなのか。 そんな些細なことすら、今の安藤にはよく分からないのだった。 * 「優介さん、何かお酒飲むー?冷蔵庫にビールあるよ」 「あ、じゃあ貰おうかな……」 仁はビール缶を二本取り出し、未だスーツのままでベッドに座っている安藤に手渡した。 「じゃ、再会を祝して乾杯っ」 「か、乾杯」 コツンと缶を突き合わせて、プシュッと音を立ててプルタブを引く。再び仁に会えたら話したいことが沢山あったはずなのに、言いたい言葉は何一つ出てこない。 (酔っぱらった方が少しは話しやすくなるかな……) 安藤はゴクゴクゴクと一口めを多目に飲んだ。緊張でだいぶ喉が乾いていたらしく、アルコールは順調に安藤の身体に吸収されていく。 「ぷはぁっ……」 自分の方が年上なので会話をリードしたいと思っているのに、ちっとも思うように出来なくて悔しい。 「……優介さん、俺に会いに来てくれたんじゃなかった?」 「えっ?」 驚いて仁の顔を見ると、仁は眉を寄せて少し残念そうな顔をしていた。 「何言って」 「俺に会うのが目的じゃなかったんなら、連れ出しちゃってごめんね」 「待って待って、違う!俺は仁に会いたくて来たんだよ!!」 安藤が慌てて否定すると、仁はニッコリと笑った。 (あれっ?) 「ふふ、意地悪してごめん。ちゃあんと分かってるよ……まあ、全く不安じゃなかったって言ったら嘘になるけど。だって優介さん、ずっとガチガチなんだもん」 「あ……」 「俺に会いに来るの、そんなに緊張した?」 仁の長くて太い指が、安藤の頬をつうっと優しく撫でる。あの日と同じ、何もかもを委ねたくなってしまう魔法の手だ。 「……う……自分でも、どうしたらいいのか分からなくって……」 年上の癖に、またこんな情けない本心を晒けだすのは恥ずかしかったけど、何故か仁には話してしまう。 「分からないって、何が?」 「仁が残してくれたメモ、あれは単なる社交辞令だったらどうしようって……その、男同士で寝たらそういうのがマナーなのかな、とか……俺、本当に分からなくて」 こんなことを言って、本当に社交辞令だったら仁を困らせてしまうのに。 けど、既に口から出てしまったものはどうしようもない。

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