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第3話 告白
「社交辞令かもしれないって思っても、優介さんは俺に会いに来てくれたんだ?」
「えっ?……うん……」
「それはどうして?」
社交辞令というのは、否定してくれないのだろうか。
それに……どうしてって、そんなの。
「もう一度、仁に会いたかったからだよ」
そう、会いたかった。
この1ヶ月、ずっと彼に会いたいと思っていたのだ。
「また俺に抱かれたかったの?」
「そっ……それもあるけど!それだけじゃ、なくて……っ」
なんと言えば仁に伝わるのだろう。
仁に会いたかったのは、決して下心だけなんかじゃない、のに。
自分の気持ちを明確に表す言葉が見つからなくて、ついに安藤は仁から目を逸らしてしまった。無意識に握りこぶしを作り、ぐっと力を込める。
すると仁はそんな安藤のこぶしを優しく包み込み、顔の前まで持ちあげるとチュ、と軽くキスをした。
「!?」
安藤は仁の行動に驚いて声も出なかった。
「優介さん、ほんと可愛い……」
「へっ?」
「それだけ俺のことを真剣に考えてくれるのはさ、俺のことが好きってことだよね?」
『好き』……。
そうなのだろうか。たった一度会って数時間一緒に過ごしただけなのに、このなんともいえない切ない気持ちを『好き』という二文字で表してしまってもいいのだろうか。
「時間なんて関係ないよ、だって俺も優介さんのことが好きだもん。1回会って寝ただけなのにね、会えない間はずっと優介さんのこと想ってたよ」
仁は、安藤の気持ちを見透かしたように言った。
「か、彼氏とかいるんじゃ……」
「ええ?いたらこんなとこ一緒に来ないよ。ていうか俺、浮気なんかしないよ?信用できないならスマホ見る?」
「いや、ごめん。信用してないってわけじゃなくて……その、そういう展開はまったく想像してなかったから……」
まさか仁が自分のことを好きだなんて。
ずっと想っていてくれたなんて、安藤は予想もしていなかった。
「ええ?なんでさぁ。俺ってそんなに遊び人に見える?」
「だ、だって仁はすごくかっこいいだろ!」
仁は、その言葉が意外だという顔をして、安藤を見つめた。
「そ、それにすごく優しいし、セックスだって……気持ちよかった、し」
安藤は、彼がモテないはずはないと思う。それはきっと事実だと思う。
雑誌のモデルみたいな整った顔に、アスリートのようにしなやかで屈強な肉体。そして少し話しただけで分かる、ズバ抜けたコミュニケーション能力。加えて床上手だ。これだけのスペックを持って、モテなかったら嘘だろう。
どこにでもいそうな平凡なサラリーマンの安藤とは、まさに雲泥の差だ。おそらく勝っているのは年収くらいだろうが、安藤の方が6つも年上なのであまり勝ったという気にもならない。
それにあの日彼は言った、『優介さんみたいな人はたまに来るから分かる』と。
あの言葉は、それなりに遊んでいないと出ないのではないだろうか。
だから安藤も、仁の遊び相手のうちの一人だったのだろう。
頭では分かっていても、仁にもう一度会いたかった。
「……あんまり難しく考えないで、優介さん。俺たち、男同士なんだから」
「え?」
「俺は優介さんが好きで、優介さんも俺のことが好き。そして俺も優介さんも今はフリー。なら付き合おうよって話だよ?簡単じゃない?」
そう言われればそうなのだけど……そういうことじゃない、と安藤は思う。
けど、じゃあどういうことだと聞かれたら答えることはできない。
仁は何もおかしなことは言っていない。
だけど……
「優介さんって本当にマジメだよね。だけど俺、そういうところも好きだな」
「仁……」
「ねえ安心していいよ、俺のほうからは絶対、優介さんを捨てたりしないから」
「あ……ッ」
『俺の方からは』―――?
まだ聞きたいことがあった。
まだ話したいことがあった。
けど、そんなことはどうでもよくなってしまった。
仁に、触れられてしまったから。
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