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第25話 期待
クリスマス・イヴが目前に迫った、23日の夜。
結子は、以前会った時に意味深な発言をしてきた仁にとあるメッセージを送っていた。
『明日、言われた通り予定空けてるんだけど、結局どうするの? っていうかそっちが空けとけって言ったんだからそっちから連絡しなさいよ!』
面倒くさい女だと思われないよう、プンプンと怒っているのをアピールしている可愛らしいスタンプを送っておくことも忘れない。
「ったくもぉ……」
結子はスマホをベッドに投げ置いて、自身もぼふんと仰向けに寝転んだ。
仁とはあれから何度かメッセージのやり取りをしているが、内容は夕飯は何を食べたかだの、某カフェの新作メニューが美味しかっただの、女友達と送り合うようなこれっぽっちも色気のない話題ばかりだった。
しかし結子は安藤が好きなのだし、仁とメッセージのやりとりをしているのは自分が安藤の恋人の資格があるのかどうかを仁に認めてもらい、協力してもらうためだ。
だから仁との間に何かあるのを期待すること自体おかしいのだけど、でも――……
(あんなイケメンとメッセやり取りしてるんだから、ちょっとくらい期待してしまうのは女として仕方ないでしょ……べ、別に課長を裏切ってるわけでもないんだし!)
こんな風に、自分に言い訳までしてしまうありさまだ。
でも相変わらず会社で安藤を見ればドキドキするし、仁とのメッセージのやりとりで妙に気持ちが昂ってしまうのはもう生理現象みたいなものだと思って諦めている。
(で、結局どうすんのよ、明日はッ)
結子は予定が無ければ今年も友人田中と二人で女子会をする予定だったが、今年は用事ができるかもしれない、なんてソワソワと曖昧なことをのたまうものだから、田中は早々にイヴに開かれる婚活パーティーにエントリーしたらしい。
なので仁との約束――のようなものがなくなれば、結子は今年、孤独にイヴを過ごすことになるのだ。まだまだ花の26歳、それだけは勘弁被りたいと思った。
本当は安藤と二人きりで過ごしたいが、まだ恋人同士ですらないのだからそんな贅沢は言わない。ならばせめて、恋人ではないがイケメンの仁と一緒に過ごす予定くらいはあってもいいんじゃないか――という淡い期待は抱いている。
(べ、別に仁と過ごしたいわけじゃないから! 本当は安藤課長がいいけど、百歩譲って仁ってだけだから!!)
いったい自分はさっきから誰に向かって言い訳をしているのだろう。これではまるで本当に自分は仁を好きみたいではないか、と結子は狼狽えた。
(違う、私は安藤課長のことが好きなんだから……!)
すると、スマホが震えて新しいメッセージを受信したことを伝えた。
『明日の夜8時、新宿駅の東口付近で待ち合わせしよー』
「!!」
(きッ……キタァァ―――!!! って何でこんなに喜んでるのよ私!! まあとにかくイヴに予定が出来てよかった! ギリギリセーフ!! あ、私プレゼント的なもの何も買ってないし!)
恋人ではないからと言って、せっかくイヴに会うのだから仁も何か用意してくれているかもしれない。別に深い意味はなく、プレゼント交換的な……。
(サンタさんが来てくれるから、って言ってたもんね)
今思えば、なんという気障な発言だろう。イケメンなので特に違和感は感じなかったが、イケメン以下のフツメンが口にしようものなら聞いている側も恥ずかしいことこの上ないだろう。
(でも、仁はなんであんなことを?)
その発言の真意は測りかねるが、きっと何かをくれるつもりには違いない。とりあえず結子は明日の待ち合わせ時間まで、仁へのプレゼント選びに勤しもうと思った。
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