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prologue ※

おかしい。 俺は何を見ているんだ? 何を今、 何が、今起こっているんだろう。 目の前にいるのは、目の覚めるような美形。 柔らかな光を纏う青銀髪は、サラサラと揺らめき、 情欲を湛える瞳は潤んで、赤らんだ頬と相まってなんとも扇情的だ。 首筋は汗ばみ、胸は激しさに抗おうとしているかのよう。 腰も抗うかのように、のた打っているが、こちらはどうみても煽っているようにしか映らない。 なぜなら、その中心で主張されるものが、痛々しいほど屹立しているからだ。 あるいは、その痛みを逃がそうと、必死なのかもしれない。 けれども、何かを懸命に求めているのだと、そう解釈した方が納得する(いろ)を、彼は発散していた。 その後ろで、蠢く膨大な蔦。いや、触手。 そう、彼は、おぞましい触手という怪物に囚われ、あられもない媚態を晒しているのだ。 唇を塞がれ、両腕を捕らわれ、両足を大きく広げられ、そして、陰茎の付け根を締め上げられ。それでありながら、肉体のあちこちを舐め上げるように、責め立てられ、何度も繰り返され、快楽を擦り込まれ。 その瞳は、完全に堕ちている筈なのに、時折、光を煌めかせ、まだ理性が残っているのだと窺わせる。 そのたび、彼の口を塞ぐ太い触手が、ドクンドクンと脈打ち、彼の中になにかを送るが、もしや媚薬かそれに類するものだろうか?  触手が脈打つたびに、彼の体は赤く染まり、熱を逃がそうと身悶える。 触手が脈打つたびに、俺は彼の心がすっかり堕ちてしまっただろうと思うのだが、ひとしきり身悶えたあと、その目がまた開き。 欲望と涙に濡れた、紫と金の異色の瞳は、ややもしてまた、希望の光を、僅かに灯すのだった。 もう、もう終わりにしてくれ……! 俺は、自らの愚息を、なんとか押さえ込みながら、祈った。 本当になんでこんなことになったのか。 気を逸らすためにも、俺はこれまでに起こったことを、振り返ってみることにした。

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